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金色フェスティバル  作者: 遊森謡子
第一章 金色フェスティバル
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第二話 異世界の祭り見物は実益をかねて

いざ、異世界人の中へ突入!

という前フリをしておいて何だけど、私は階段を下りず、逆に上って屋上に出た。風に吹かれてなびく金色のウィッグをおさえ、鉄柵の隙間から見下ろすと、街が一望できる。


考えた事は二つ。

その一・領主の館はどこじゃあ! ウッカリ近づいてアッサリ捕獲されるなんてゴメンだ。場所は確認しておかねば。

その二・どっちへ行けば街を脱出できるんじゃあ! お祭りはこの街――レイフェールの街だっけ? の中だけでやってるみたいだから、街からとんずらしてしまえば、少なくとも私をダシに儲ける輩を作らずに済むわけで。

…私が読んだことがある異世界トリップものの小説だと、主人公はまず村や町などを目指していた気もするけど、私は逆だ。とにかくあの賞金がフユカイ極まりないので、異世界観光とかどうでもいいからサクッと山とか森とかに潜みたい(危険がなければ)。


その一はすぐにわかった。屋上から見るとこの街は円形をしていて、中央の広場から放射状に大通りが広がってるんだけど、そのうちの一本のつきあたり、丘を背にした所に、立派な白亜の建物があったのだ。エメラルドグリーンの屋根に翻る旗…他に旗が立ってる建物はないから、あそこが領主の館だと思う。


…その二もすぐにわかった。街を出るには、どっちでもいいから領主の館以外の方向のつきあたりまで行けばいい。

なんですぐにわかったかって? 検問所があったからだよ!

この街、低いながらもぐるりと壁に囲まれていて、三か所の門で出入りをチェックしてる人がいるのが見える。通行がほとんど滞らないところを見ると、ホントに簡単なチェックなんだろうけど、もし身分証明とか求められたらアウト。


やっぱり、街なかで人に紛れて祭りが終わるのを待つしかない。私は今度こそ、階段を下まで降りた。


一階まで降り切ったところで、玄関の両開きのガラスドアから若い男女が一組入ってきた。私は堂々と二人とすれ違う。

こっそり観察…男性の方は普通の白人の若者に見える。金髪ロングヘア。女性の方は、やっぱり金髪だけど顔はアジア系っぽい。まるで変装した私みたい。服装は私から見るとかなり地味だけど、違和感はない。

ドアを出るとき、後ろから二人の会話が聞こえてきた。

「こういうところに出てきたりはしないのかなぁ、花嫁さん」

「とりあえず、グルッと探してみようよ」

やっぱり探されてるよ私! 額に汗がにじむ。でもバレなかったからヨシ!

そしてその二人の会話は、普通の英語だった。英語は日常会話なら一応できるから、これなら情報収集できる。

良かった、音までひっくり返ってなくて…録音して逆回しにしないとわからない言葉とかだったら、もう初めて出会う言語と変わんないよ。

とにかく急いで建物を出る。表札を確認すると、私がいたのは学校みたいだった。


今度こそ、人ごみに紛れた。

例のポスター、店先なんかに結構貼られてる。そういう場所ではちょっとうつむいたりしつつ、あたりに目を走らせる。

楽しそうに街を闊歩する、金髪の老若男女…うーむ、見れば見るほどすごい。何がって、全員ロングヘアなんだよね。街中が金色にキラキラして人工的に見えるくらいだよ。

明らかに、ソレ似合わないだろ! って人もいるんだけど、まあそれは日本人の私の感覚であって、こちらではロングが主流なのかも。

会話を耳にはさんでいると、ちらほらわからない単語が出てくるけど、どうやらそれらはほとんど固有名詞みたいだった。


まずは、人の多そうな広場を目指す。

情報を集めるにはどうしたらいいかな? てか、どうにかして手っ取り早く元の世界に帰る方法がわからないものか。魔法か何かで召喚した人がいるなら、そいつを探し出すとかして。

これが小説なら、一行で終わらせたい。

『異世界にトリップしました。イベント召喚にムカついて、魔法使いを脅して数時間で日本に帰りました。完』

って具合に。あ、小説にならないか。


出店の並ぶ、石畳の広場に出た。すぐそこに大きな掲示板があって、例の文字で書かれたイベントスケジュールが貼り出されている。終わったイベントは線で消されているのでわかりやすい。

ふんふん、お祭りは夜通し続けられ、明日の夕方で終わるみたい。よっし、それくらいなら乗り切ってみせる! その後のことはその後!


「ちょっとアンタ!」

気合を入れていたら、後ろからいきなり声をかけられた。

え? 誰? 私、じゃないよね?


恐る恐る振り向くと、かっぷくのいい金髪碧眼のおばさんがまっすぐこっちを見ていた。私の後ろに誰か…いるわけない、掲示板の前だし。

おばさんは、私の今の肌よりもこんがりと日焼けした腕で、ビールケースみたいなものを抱えている。ほっぺの肉の垂れ下がり具合といったら、瞬間的に『こぶとりじいさん』の絵本を思い出したくらいだ。

その肉をぷるぷるさせながら、おばさんは威勢よく話しかけてきた。

「この間の子でしょ? すぐわかったよ、アタシと同じでいい色に焼けてるからさ」

ぎょえっ、誰かに間違われた! ガングロって人相わかりにくいし!

「あん時は悪かったねぇ、断っちゃって。その後、仕事見つかったの?」


脳細胞を必死で奮い起こして考えた。

このおばさんが私と間違えてる誰かは、最近おばさんの在籍している会社だか店だか(ビールケースから見ておそらく飲食店)で雇ってもらおうとした。けど断られた、そういうこと? そういうことでいいよね?


私は、えへへ、とあいまいに笑った。

「いや~、それが、全然見つからなくて~」

すると、おばさんの目がキラリ。

「そう! 実はあの後、急に店員が二人もやめちゃってさ、人手が足りなくて困ってんだよね。未経験でもいいから、アンタどう!?」

はい!? ま、まだこっちの世界のこと何も分かってないのに、いきなり仕事!? それヤバいよ、絶対ボロ出るって…!


私はエプロンをつけ、トレイを手に屋台の前に立っていた。

…なんでこうなる。強引だなあのおばさん。

屋台は木製で、どこかカントリー風。看板には『ロザラインの店』…ロザラインって顔かいな、あのおばさん。


そこは、『ジャンジュ』という食べ物――肉や野菜の入った焼きまんじゅうみたいなものと、各種飲み物を売る大きな屋台だった。おばさんは普段は街なかでレストランをやっていて、お祭りの時だけ数人のスタッフで屋台を出しているってことみたい。

広場の真ん中にはテーブルとイスがたくさん並べてあって、人々は好きな食べ物をその辺の屋台で買ってきて、そこで食べている。そろそろお昼時なのか。

私の仕事はウェイトレスだけど、お店は基本、セルフサービス。大量買いする人がいたりお年寄りが運びにくそうにしてたりって時に手伝うだけで、割とヒマだ。ただし、夜にかけて忙しくなるらしい。


おばさんは本店に戻ったけど、その前に嬉しい申し出をしてくれた。

「ミモレット! お昼まだなら、今のうちにこれ食っときな」

「うわ、ありがとう!」

賄い飯つきだよ、ラッキー! こっちの通貨持ってないからめっちゃ助かる! 私は焼きたてのジャンジュをおばさんから受け取った。うほほ。

そう、おばさんに「名前何だっけ?」って言われて、とっさに普段ネット上で使っている名前『ミモレット』を名乗ったんだよね。こちらの名前としても違和感なさそうだったし、私の本名っていかにも日本人だから。


ふふん、まさか異世界から来た人間が変装道具持ってて、来た当日からこんなところで働いてるなんて、誰も思わないよね。就職断られた誰かさん、サンキュー! 別のワリのいい仕事が見つかってることを祈るよ!

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