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落ちこぼれ使い魔の私、皇帝の机でバイトすることになりました ~記憶チートで帝国の危機を全部解決します~

作者: 棗 月雫
掲載日:2026/03/28

皇帝の書斎は、今日も戦場だった。


机の上には、山のような書類。


外交報告。

税の申請。

貴族の陳情。


帝国の皇帝、レオンハルトは、ペンを持ったまま眉間を押さえていた。


「……終わらん」


誰に聞かせるでもない、低い声。


この帝国は広い。

つまり、書類も多い。


だが、それ以上に。


(……人が信用できん)


大臣も。

官僚も。

貴族も。


どこかで嘘をつく。


裏で金が動く。


それを見抜くのは、結局自分しかいない。


だから、皇帝は今日も一人で書類と戦っていた。



そのときだった。


ひらり、と。


机の上に、小さな影が降り立った。


手のひらサイズの少女。


銀色の髪に、青い瞳。

背中には半透明の羽。


小さな魔導ローブを着た精霊だった。


「……」


レオンハルトは視線を向ける。


精霊は、ぺこりと頭を下げた。


「す、すみません……迷い込みました」


声も小さい。


「使い魔か」


「は、はい……ミルカといいます」


レオンハルトは特に追い払う様子もなく、書類に目を戻した。



使い魔。


それは魔術師が使役する小さな精霊だ。


だが、戦闘能力も魔力も低い精霊は、たいてい役に立たない。


雑用にも使えない個体は、「落ちこぼれ使い魔」と呼ばれる。



ミルカも、そういう存在だった。


主人の魔術師に「役に立たない」と言われて、城の外に放り出されたばかりだった。



ミルカは、机の上に座る。


そして、ふと書類を見る。


「……」



数秒。


ミルカは首をかしげた。


「陛下」


「なんだ」


「この税法、矛盾してます」


ペンが止まった。


レオンハルトは、ゆっくり顔を上げる。


「……どこがだ」


ミルカは書類を指差した。


「ここです。この条文だと、同じ商人に二重課税になります」


レオンハルトは黙って読む。



数秒後。


「……本当だ」


この書類は財務省が出したものだ。


しかも、何人もの官僚が確認している。


それを、この小さな精霊は一瞬で見抜いた。


「お前、読めるのか」


「はい」


「全部?」


「はい」


ミルカは少し困った顔で言った。


「見たもの、全部覚えてしまうので」


レオンハルトの目が細くなる。


「……記録精霊か」


記録精霊。


極めて珍しい精霊種。


見た情報をすべて記憶する能力を持つ。


「はい」


「なるほど」


皇帝は、机の上の書類を一枚取った。


「これは?」


ミルカは読む。


「この条約は危ないです」


「理由」


「第三条です。交易税を固定に見せて、実は後から変更できる条文があります」



レオンハルトは黙る。


その通りだった。


これは隣国が送ってきた外交条約。


かなり巧妙な罠だ。


普通の官僚では気づかない。


レオンハルトはミルカを見つめた。


ミルカは緊張している。


「ご、ごめんなさい……余計なこと言いました」


「いや」


皇帝は椅子に深く座り直した。


そして、初めて少し笑った。


(……面白い)


嘘をつかない。


媚びない。


ただ事実を言う。


それが、妙に気に入った。



「お前、仕事しろ」


「え?」


「バイトだ」


ミルカは目をぱちぱちさせる。


「ば、バイトですか?」


「そうだ」


レオンハルトは書類の山を指した。


「全部読め」


ミルカは青ざめた。


「こ、これ全部ですか?」


「できるだろ」


「……できます」


ミルカは羽を震わせる。


そして、書類の上に座った。


ぱらぱらぱら。


紙をめくる。


数分後。


「陛下」


「なんだ」


「この貴族、横領してます」


「……ほう」


「この人は嘘をついてます」


「なるほど」


「この外交官は信用できます」


レオンハルトは腕を組んだ。


(……当たりだ)



数時間後。


机の書類は半分になっていた。


ミルカは疲れて、ぺたんと座る。


「つ、疲れました……」


「よくやった」


レオンハルトは言った。


「今日からお前はここに住め」


ミルカは固まる。


「え?」


「皇帝専属だ」


ミルカは慌てる。


「バイトですよね?」


レオンハルトは少しだけ笑った。


「……今はな」


ミルカは机の上に座ったまま、小さくつぶやく。


「皇帝のバイトって……何なんでしょう」




月日は流れ――


帝国には、ひとつの噂が生まれた。


皇帝の机には、国家を動かす小さな秘書がいる。


そんな噂が。


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