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ユースタスが消えた夏  作者: 弍口 いく


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その26 心に嘘はつけない

「なんか…肩透かし食らった気分だな」

 テッドがぼやいた。

「五年十カ月ぶりの再会なんだぞ、もっと、こう……感動的なシーンを期待していたのに」


「あなたは大泣きしたのよね」

 見ていないけど想像がついたレベッカは冷ややかに言う。

「ガッチリ抱き合えば、五年十カ月の溝なんて一瞬で埋まってしまうだろ、ジュディスも遠慮せずに飛び込めばいいのに、あ、そうか、今頃二人きりで」


「それはないわ、ジュディスはまだ心の整理がついていないんじゃない?」

 シエナもレベッカと並んで、単純なテッドに呆れ顔を向けた。

「そうよ、五年十カ月ぶりに……もう十一カ月になるけど、戻った愛しい人には妻子がいたのよ、平気でいられるわけないじゃない」

「それはそうだけど」


「二人きりにして大丈夫だったかな?」

 アンソニーは心配でたまらずにソワソワしていた。


 ステファンはティーカップを傾けながら、

「ユースタスは記憶を失くしていても、根本的な性格は変わらないよ、ジュディスのためにどうするのが一番いいのか、ちゃんと考えて行動するはずだ」

「ジュディスのためって?」


 そこへ侍女がやって来た。

「失礼致します、フォンテイン侯爵令嬢から、先に失礼しますとのご伝言を預かっております」

「ジュディスは帰ったのか?」

「はい、今しがた」


 全員が顔を見合わせた。


 次の瞬間、アンソニーは慌ててその場を後にした。

 そしてカミーユは反対方向、庭園の奥へ姿を消した



   *   *   *



 カミーユは一人でたたずむユースタスを見つけた。

「ジュディスとなにを話したんだ?」


 ユースタスは大きな吐息を一つ漏らしてから、

「婚約を解消すると」

「なぜ? 君はそれでいいのか?」


「ステフの勘は当たっているよ、あの二人を見て、お前もわかっただろう」

「でも……あの二人のことだ、君を裏切るような関係にはなっていないよ」

「心に嘘はつけないよ」


「君は諦められるのか? 彼女を愛していないのか?」

「簡単じゃない、今でも愛しているよ」

「じゃあ、取り戻せばいいじゃないか」

 ユースタスはこぶしを握り締めた。


「それは無理だ。俺は五年十カ月が抜け落ちていて、突然、飛び越えて戻って来たようなものだから、すべてが昨日のことのように鮮明で、彼女への想いも当時のままだけど、ジュディスは違う。五年十カ月ずっと俺を心配して辛く苦しい日々を過ごしてきたんだ。アンソニーが傍にいて支えてくれたから耐えられんだろう」


「でも君が戻ったんだから、アンソニーには申し訳ないけどお役御免だろ」

「きっと俺が望めばジュディスは俺の元に戻ってくれる、予定通りの結婚を受け入れるだろう。でも、彼女の心を取り戻すことは出来ない。俺が他に家族を持った事実は消えないし、心の底では受け入れられないだろう。そんな気持ちを隠したまま、彼女は幸せになれると思うか?」


「それは君のせいじゃない」


「でも、事実は消せないし元には戻れない。……もう十分だ、今まで捜し続けてくれただけでも感謝に値する。記憶を失ってなにもわからないまま過ごしていた俺と違って彼女は苦しみ続けていたんだ、これ以上苦しめたくないんだ。アンソニーはいい奴だよ、ジュディスの心の隙間に付け込むようなことは絶対していない。純粋に彼女の力になっていたんだ。ジュディスがそんなアンソニーに頼るようになったのも自然なこと、二人を責めることは出来ない」


「そんなの、僕は納得できない」

「じゃあ、お前は全て元通りになると本気で思っているのか? もし俺が失踪しなければお前は剣を手放すことはなかったと言っていただろ? 俺が戻ったからと、再び剣を握るのか? 昔の予定通りに近衛騎士になってステファンの側近として仕えるか?」


「それは……」

「もう無理だろ、お前は別の道を歩いている、それと同じだ、ジュディスはもう俺のいない別の道を歩いているんだ、時間は元には戻せない」

「そうだけど、それじゃ、ユースタス一人が犠牲になるようなもんじゃないか」


「まあ、確かに不運だったけど、おいっ!」

 いつの間にかカミーユが号泣しているのに気付いてユースタスは慌てた。

「お前、いつからそんな泣き虫になったんだよ」


「元からだよ、昔は我慢してたんだ、でも女装してからは女性なんだから泣いても許されるんじゃないかと思ったら、つい」

 とめどなく溢れる涙が止まらない。

「お前は女じゃないだろ」


 そうなのだ、ユースタスにとってはどんな姿をしていようとカミーユに変わりない、ユースタスの中で自分はどうしたって男であることを今の言葉で思い知った。


「そうだな、でも、女性のふりをしていると得なこともあるんだぞ、仕事の上では舐められることもあるから、その時はバラすけど」

「現金だな」

「って、そんな話してなかっただろ、ジュディスの」

「もういいんだ、俺は身を引く、アンソニーならジュディスを任せられるし」


「君はこれからどうするんだ?」

「さて、どうしようかな」


ここまで読んでいただきありがとうございます。

次回、最終話です。

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