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ユースタスが消えた夏  作者: 弍口 いく


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その22 ユースタスが消えた真相

「やっぱりな、この間会った時も違和感しかなかった、本当に記憶が無いのかなって、なんか臭い芝居に見えたし」

 ステファンはそう言いながらカミーユとユースタスに歩み寄った。


「うん、僕もそう思った、大根だな」

「いやいや、気付いたのはお前らだけだろ、おっと、王太子殿下にお前呼ばわりはダメだな」

「いいよ、お前は五年十カ月を飛び越えて戻ったんだ、学生時代と同じでいい」


「変な気分だ、ユアンとして生活していた時のことは覚えている、けど長い夢を見ていたようで現実味がないんだ。そして、記憶が戻った瞬間、俺は五年十カ月前のまま学生の俺に戻ったみたいなんだ」

「俺もだ、よく戻ってくれた」

 ステファンもユースタスを抱擁した。


「やっと悪夢から覚めたのに、それでも記憶喪失のふりを続けるのか?」

「そのつもりだったんだが……」

「だが? 俺たちに見破られたから、他の人にも気付かれると心配しているのか?」

「そうだな、君は演技が下手だもん、すぐ他の人にもバレると思う」


「そうじゃなくて」

 ユースタスは抱きついたままのステファンを引き離した。

「あの男を野放しにしていいものかどうか」

「あの男とは?」

「さっき見てたブライス伯爵のこと?」


「ああ、忘れもしないあの顔、俺を川に投げ込んだ男はアイツだ」


「「なんだって!?」」

 カミーユとステファンが声をそろえた。


「間違いない、あの男だ。俺はあの日の早朝、一人で走りに出た。その時、馬車に撥ねられたんだ。結構酷い当たり方だったから気を失ったようで、死んだと思われたんだろうな、二人は俺を橋から川へ捨てたんだ。その一瞬だったけど、俺は意識が戻って、俺を投げ込む二人の顔を見た。あの顔が今でも目に焼き付いている」


「二人?」

「女もいた」

「愛人だな、おそらくこの間、焼死体で発見された女だろう。口封じされたのかな」

「俺が生きて戻ったから?」

「いや、それだけじゃないだろう」


「川に捨てられたところ、隣領のロザンヌの村まで流れ着いたんだな。助けられたのは奇跡だったな」

「ああ、俺を拾ったことで、彼女の人生まで捻じ曲げてしまった。俺なんかを助けなければ、今もあの村で普通の生活を送っていただろうに」


「そうだったな、聞いたよ、あの女は宝石を盗んで逃げたんだな」

「バカだよ、簡単に逃げられると思っていたのか、きっと今頃は……」

 大貴族であるペラン公爵家にも王家と同レベルの〝影〟が存在し、諜報活動と汚れ仕事を請け負っていることをユースタスは知っていた。優秀な彼らから逃げられるわけがない。ロザンヌがジーナのお気に入りの宝石を盗んで逃げたと知った時から、彼女の命は諦めていた。


「彼女は選んだのさ、自分のために君を利用しようと騙して夫にした。ちゃんと身元不明人として届けることも出来たのに、そうすべきだったのにしなかったのは彼女だ。そして今回も、君を信じられずに我が子を捨てて自分だけ逃げた。すべて自業自得だ」


「コリンだけはなんとしても助ける」

「そうだな、あの子供にはなんの罪もないからな」

 ステファンも同意した。


「それはともかく、ブライス伯爵だ。胡散臭い奴だとは思っていたけど、あの男が君の失踪に関与していたなんて! すぐに逮捕すべきだ!」

「でもそれじゃ、俺が記憶を取り戻したことを言わなきゃならないし、それに六年近く前の事、証拠もなしに、見覚えがあるだけで逮捕できるか?」


「僕はユースタスの記憶を信じるよ、逮捕できないなら、それこそ影を使って消してもらおう、ねえ、ステフ、王家の影を動かしてくれよ」


「その必要はない。と言うか、今消されたら困るんだ、奴には別件で公の場で裁きを受けてもらわなければならないからな」

「別件?」


「ユースタスの事件で奴を裁くのは無理でも、奴には他に大罪を犯しているから極刑は逃れられないだろう。今頃、ブライス伯爵領の本邸に家宅捜索が入っているはずだ。指揮を執っているのはアンソニーとジュディスだから、それが済めば戻るはずだ」


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