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ユースタスが消えた夏  作者: 弍口 いく


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18/27

その18 お披露目ショーを計画しています

「火事?」

「そうなのよ、昨夜の火事、私が購入を検討していた店舗だったの」

 カミーユはレベッカに、お茶会に招待されて、グールド伯爵邸のガゼボに来ていた。


「まあ、残念でしたわね、カミーユブランドのブティックが開店するのを楽しみにしていますのに」

 カミーユの他にもレベッカの友人、数人の貴夫人が集まっていた。もちろん隣国で売れっ子デザイナーのカミーユ目当てだ。


「ええ、あそこは立地条件が良かったから第一候補でしたのに、また探さなければなりませんわ」

 カミーユは購入しようとしていたブライス伯爵所有の店が全焼したことを知らされて少し落ち込んでいたが、夫人たちに囲まれては暗い顔も出来ない。


「私も火事のことは聞きましたわ、大通りに面した店舗ですから大変な騒ぎになっていましたもの」

「うちは少し離れていますから知りませんでしたわ」

「怖いですねわ」

「延焼は避けられたので、他に被害は及ばなかったそうですけど、焼け跡から逃げ遅れた方のご遺体が発見されたとか」


「えっ? そうなのですか?」

 カミーユはそこまで聞かされていなかった。

「前の店長の女性だったとか、確かブライス伯爵の愛人でしたわね」

「そうそう、あのブティックが開店した時は行ったことがありましたわ、趣味が合わなかったので二度と行きませんでしたけど」

「私もですわ」


 まあ、潰れた理由はわかっていたが、あの成金伯爵の愛人がやっていた店だと知ると余計に納得する。


「デュランダル王国に店舗はなくても注文は出来るのでしょうか? 私、是非カミーユブランドのドレスを着てみたいのです」

「すぐにオートクチュールは無理ですが、プレタポルテのお披露目ショーの計画はしているのですよ」


「まあっ、お披露目ショーですか!」

「デュランダル王国ではまだまだ知名度が低いですからね、大々的に宣伝しようかと」

「この間の夜会で王太子殿下にエスコートされたことで、もう知れ渡っているわよ」

 レベッカは言ったが、

「それは私自身でしょ、かつて剣の天才と言われえたバートレット侯爵令息が女装して現れたことが話題になっているだけだし、私がデザインしたドレスを認めてもらわなきゃ意味ないし」

 お茶会に来た目的はショーの宣伝だ。


「それを見せていただけるのね」

「楽しみですわ」

「ええ、是非いらして下さい。サイズさえ合えば、ご購入いただくことも可能ですからね」

 それは成功したようだ。



   *   *   *



「ジュディスはいつになったら戻るのかしら!」

 ジーナは苛立ちを隠せずに長年仕えている侍女にぶちまけた。


「お仕事なのですよね」

「ユースタスが帰ってきたのよ、なにを置いても戻るべきだわ。あの子はいったい何を考えているのかしら」


「でも、ジュディス様のお気持ちを思えば、やむを得ないかも知れませんよ。ユースタスお坊ちゃまが記憶喪失で、平民の妻子を連れて戻ったことはお耳に入っているでしょうし」


「……そうね、心の準備が必要かも知れないわね。もし、私だったとしても、待ち続けた婚約者に妻子がいたらショックよ。可哀そうなジュディス、さぞ傷付いているでしょう。ジュディスが婚約を解消したいと言ったらどうしようかしら、嫁いで来てくれることを楽しみにしているのに!」


 夜着に着替えるのを侍女に手伝ってもらいながら、ジーナは爪を噛んだ。

「なにもかもあの女のせいよ! あの女さえいなければ」

「でも、あの女との結婚は無効ですよね」

「当たり前よ、記憶のないユースタスを騙していたんですもの。ジェラルドは領地に小さな屋敷を与えてあの女と子供を追いやるつもりらしいけど、そんな甘い処置では納得できないわ!」


「そうでございます、あの二人を公爵家で養う義理などございません」

「そうでしょ! ユースタスにはこの家を継いでもらわなければならない、あんな奴らがいたら障害にしかならないわ」


「そうですよね、結婚前から愛人と子供までいたら、ジュディス様もお嫌でしょう」

「そうよ、だからあの親子の存在を完全に消さなければならないのよ」





 クローゼットの中でロザンヌは息を潜めていた。

 コリンを寝かしつけてから、護衛騎士の目を盗んでジーナの私室に忍び込んだところ、思ったより早く彼女が戻ってしまい、慌てて隠れたのだ。


 あの日、毒を盛られたと気付いたロザンヌは、この邸から逃げようと決めた。しかし先立つものがない、身一つで逃げても、娼館か野垂れ死にするか、先は見えている。それならせっかくお宝の山が手の届くところにあるのだから、一つや二つくすねてもいいだろうと、公爵夫人の部屋を物色していたのだ。


 ジーナの言葉を聞いて震えあがった。

 今度こそ間違いなく殺される、一刻も早く逃げなければ!

 ロザンヌはジーナの宝石箱から拝借したネックレスを握りしめた。


 それからは息を潜めて、侍女がクローゼットを開けないことを祈りながらやり過ごした。

 どのくらいそうしていたかわからないが、やがて物音がしなくなったので、ロザンヌはそっとクローゼットから出た。


 そして、客室に戻った。

 コリンはグッスリ眠ったままだった。


 毒を盛られたあの日以来、コリンはベッドから起き上がれない。口にする物はユースタスが直接運んでくれるので、毒が入っている心配はないのだが、それでも疑って、メイドに毒見をさせていた。


 しかしコリンはまだ快復しなかった。


 この子を連れて逃げるのは無理だ。足手纏いになる。

 自分の命が一番大事なロザンヌは決断した。

 コリンはユースタスに託そう、父親なのだから護ってくれるはずだ。


 ロザンヌは鞄に身の回りの物を詰め込んで、一人で部屋を後にした。


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