表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ユースタスが消えた夏  作者: 弍口 いく


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

14/27

その14 戸惑う心

「先に潜入している間諜もいるし、ここは俺一人で大丈夫だ。君は早く王都に戻ったほうがいい」

「ダメよ、仕事はちゃんと最後までやり遂げたいわ」


 ジュディスとアンソニーは身分を偽って滞在している安宿の食堂にいた。

「責任感が強いのはいいけど、ここは甘えてもステファン殿下なら許してくれると思うけどな」

「幼馴染だからって、特別扱いされたくないわ」

「頑固者」


 ジュディスは食事をする手を止めて、

「違うの……会うのが怖いのよ」

 フォークとナイフを置いた。

「怖い? なぜ? ずっとこの時を待っていたじゃないか」


「ええ、でもいざそうなると気後れして……それに彼は私のことを覚えていないのよ」

「君に会えば、なにか思い出すかもしれないぞ」


 ユースタスが戻る日を待ち焦がれていた。嬉しいはずなのに、すぐにでも会いたいはずなのに、足踏みしている自分に戸惑っていた。


「ユアンとして暮らしていた時の妻子はどうなるのかしら」

「それは公爵がなんとかするだろう、君が気に病むことはないよ、君こそが正当な婚約者、妻になるべき人なんだから」

「でも……」

「なにも恐れることはない、五年も待ち続けたんだ、報われないはずないよ」


「私は……ユースタスが必ず生きて戻ると信じていた……つもりだった。でも実際、生きているとわかっても実感が全然ないの、本当は心のどこかで既に諦めていたのかもしれないわ」

「なにを今更」

「そうよね、散々付き合わせておいて、今更そんなことを言うなんてね」


 アンソニーは王立学園を卒業して以来、ずっとジュディスに寄り添い、調査室の仕事をしながら、ユースタスの行方を捜し続けてくれていた。休暇の度に二人でペラン公爵領へ行き、彼が失踪した当時の目撃情報がないか足を使って調べ尽くした。


 アンソニーがそこまでしたのはユースタスと友達だったからと言う理由だけではないことを、ジュディスはとっくに気付いていた。


 アンソニーとは王立学園に入学する前からの知人だ。ジュディスとユースタスの婚約が調った時は祝福してくれたが、寂しそうな目をしていた。アンソニーが自分に好意を持っていることをハッキリ表したことはないが、ジュディスはなんとなくわかっていた。でも、ユースタスが好きだったから、アンソニーの気持ちには応えられなかったから気付かないふりを貫いた。


 ユースタスが失踪した時、悲しむジュディスの心の隙に付け込むようなことはしなかった。アンソニーは底抜けのお人好しだ、自分のことよりジュディスのことだけを考えてくれている。だから、ユースタスの捜索に協力してくれているのだ。ジュディスはその気持ちに感謝しながら、いつも心苦しかった。


 そしてついにユースタスが見つかり、戻ってきた。

 もうすぐ会える、五年間の苦労が報われる。しかし、なぜか手放しで喜んでいない自分にジュディスは困惑していた。それは、彼が記憶喪失で戻ったからではない。


「アンソニー、私は……」

「ん?」

「やっぱり一人では怖いから、王都へ戻って会いに行くとき、あなたも一緒に居てもらいたいの」

「そう言うのなら」


 ユースタスの捜索は終わったと言うことは、もうアンソニーと一緒に行動する理由が無くなったと言うことだ。そう思うとなぜかジュディスは胸が締め付けられた。


 そこへキャップを深く被った労働者風の男がやってきて、アンソニーの隣に座った。

「取引の情報を掴みました」

 口元を隠しながら囁く。


 それを聞いて、ジュディスとアンソニーは視線を合わせた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ