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ユースタスが消えた夏  作者: 弍口 いく


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その13 脅迫の代償は

「本当に売ってしまうのね」

「ベラ、まだ居たのか」

「居たのかって、ここは私の家よ」

「宿を手配したと言ったろ、さっさと出て行ってくれ」


 廃業したブティックをカミーユに売却するつもりで書類を整理していたオットー・ブライスの元に、出て行ったはずのベラが現れた。

 この店を任されていたオットーが長年囲っている愛人である。


 ベラ・スローンは赤毛に緑の瞳の肉感的な美女で、店はオットーが彼女に強請られて出資した店である。しかし、知識も教養もない平民の思いつきだけでブティック経営など出来るはずはなかった。

 愛人に持たせた店でなく正規の事業なら、事務仕事は部下に任せるところだが、杜撰な経営状態を知られるわけにはいかずに自分で処理するしかなかった。


「カミーユ様はここを気に入ってくださったようだし、気が変わらないうちに売却したいんだ。お前もわかっているだろ、赤字ばかり膨れ上がってもうどうしょうもない、客が入っていたのは最初の半年くらいで、その後ずっと閑古鳥だ。今まで目を瞑ってやっていただけでも感謝するんだな」


「わかったわ、ブティック経営に無理があったことは認めるわよ。そうよね、貴族相手の商売はコネのない平民の私には難しかったのよ。だからね、今度はスイーツ店を出そうと思うのよ、それなら身分に関係なく客は来るし」


「なにを言ってるんだ? また金を出させるつもりなのか?」

「いけない?」

 甘えるように擦り寄る。

「いい加減にしてくれ、この五年、お前にいくら注ぎ込んだと思ってるんだ」

「私にはそれだけの価値があるでしょ」


「もう賞味期限は切れているのがわからないのか?」

 オットーは纏わりつくベラを払いのけた。

「酷い! そんなこと言っていいの? 私が出るところへ出ればどうなるかわかっているの?」


「なんの話だ?」

「何年あなたの愛人やっていると思っているの? あなたが裏で違法なことに手を染めていることくらい知っているのよ」

「俺を脅迫するつもりか?」

 オットーは大きなため息をついた。


「まあ、お前のような平民がなにを言おうが誰もまともの取り合わない」

「証拠があれば?」

「はあ?」


「愛人になって十年、もう飽きられてることには気付いてるわよ。知ってるのよ、若い使用人に手を出したこと。でも、大人しく捨てられるわけにはいかないのよ、この十年で学ばせてもらったわ、相手の弱みを握っておく必要があることもね」

「お前って奴は!」


「全部ぶちまけたらどうなるのかしらね」

「なんだと! 俺を裏切るつもりか!」

 オットーはベラの手をグッと掴み上げた。

「痛い!」


「調子に乗るなよ!」

「なによ、あなたが悪いんじゃない、一生不自由はさせないと言ったのに、捨てようとしてるんでしょ。そうね、まずはお嬢様に教えてあげようかしら、ずいぶん可愛がっているようだけど、あなたが贅沢な暮らしが出来るのは、父親が悪事に手を染めて儲けているから成り立っているって、証拠も隠してあるのよ」

「なんだと!?」


 憤慨して真っ赤になりながら、オットーはベラの首を絞めた。

「ちょっと、なにするのよ!」

 爪を立てるが首を絞めるオットーの手はビクともしない。


 オットーは力を緩めることなく、ベラの体がぐったりするまで絞め続けた。



   *   *   *



 ステファンは王宮の執務室で報告を受けていた。

「調査報告が届いたのか?」

 側近は早馬で届けられた報告書をステファンに差し出した。


「フォルテイン、ビリングス両名の調査員がドズル鉱山まで足を運んで、事前に潜入していた間諜から情報を入手しました。鉱夫は劣悪な現場で過酷な労働を強いられています。それだけでも違法ですが、それ以上に、鉄鉱石の採掘量を改ざんしている可能性があるようです。採掘量の書類を入手しましたが、巧みに偽造されており、残念ながら決定的な証拠にはならないとのことです」


 今回のジュディスとアンソニーの任務は王太子直々指揮を執っていた。それは、鉄鉱石を他国へ不正に輸出している重大犯罪だからだ。現在戦争中の某国に流れて武器となり、戦争を激化する要因となっている。いつ火の粉がデュランダル王国に降りかからないとも限らない。


「取引現場を押さえるしかないか」

「ええ、ブライス伯爵はまだ捜査の手が伸びていることに気付いていません、一定量を採掘すれば、また横流しをするでしょう、その時がチャンスです」


「早速父上、国王陛下に報告して対処しよう、派閥の貴族たちも絡んでいる可能性があるからな」

「フォルテイン、ビリングス両名は引き続き、取引の情報収集に当たっています」


「そうか、ジュディスは早く戻りたいだろうが、責任感の強い奴だからな……。それで、ユースタスの件も報告はあるのか?」

 ステファンは書類を捲って確認した。


「鉱山へ行く前にペラン公爵令息が暮らしていた村へ立ち寄ったそうです。やはり、殿下が推察されていた通りです。ペラン公爵令息は騙されていたのです、証人を護送するとのこと、一週間ほどで到着予定です」


「証人か、ペラン公爵もお待ちわびているだろう、ユースタスが騙されていたことがハッキリすれば、当然婚姻も無効だし、妻と謀っている女も逮捕できる」

「逮捕ですか?」


「それはないか、ペラン公爵家で処理するかな」


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