その1 デザイナーになったカミーユ
その夜、王家主催の舞踏会が華々しく開催されていた。
煌めくシャンデリアの下、着飾った貴婦たちがパートナーとダンスを楽しむ。また、世間話に花を咲かせる。
そんな中に遅れて入場したこの国デュランダル王国の王太子ステファンに注目が集まった。
「まあっ」
「あのご婦人は?」
場内が騒然とした訳は、ステファンが王太子妃のシエラではない令嬢をエスコートして入場したからだ。
ステファンは金髪碧眼のたいそうな美丈夫、そして彼に寄り添っている女性は煌めく銀髪にアイスブルーの瞳、真珠のような肌の妖艶な美女だ。女性にしては背が高く、ステファンよりほんの少し低いくらいのスラリとした長身だ。
「妃殿下がご出産間近で出席できないからと言って、別のご令嬢と来られるなんて」
「ご夫妻は仲睦まじいと聞いていたのに、そうでもなかったのかしら」
口々に批判めいた言葉が聞こえる。
「でもあの方、シエナ様に似てらっしゃらない?」
「ご親戚ではなくて?」
「そんな方がいらっしゃるなんて聞いたことありませんけど」
「ちょっと待って、隣国オルドランで話題になっているデザイナーのカミーユ嬢ではないかしら」
「まあ、あのカミーユブランドの」
「隣国へ行ったときに彼女のドレスを見ましたわ、素敵なデザインで、今、一番人気だとか」
「カミーユ様って、まさか!」
令嬢たちが話をしているその中から、青年がフラフラと一歩前に出てきた。
「カミーユ……?」
テッド・グールドは信じられないと言った目で、王太子が伴っている令嬢を見た。
その呟きを聞き逃さなかったカミーユは微笑みで返した。
「カミーユぅ!」
テッドはいきなりダッシュして彼女に抱き着いた。
驚いたのは同伴していた妻のレベッカ、呆れ顔で、
「テッドったら!」
グールド伯爵家のテッドは黒髪に蒼い瞳の青年、レベッカはミルクティー色の髪に碧の瞳のしっかり者の妻である。
王太子ステファンがエスコートしている女性に抱き着くなんて、常軌を逸した行動に周囲は仰天している。
しかし、その横でステファンは笑いを堪えていた。
「君が一番に気付いてくれたなんて、意外だったわ」
高めだが男性の声で、カミーユはデッドを受け止めた。
隣国で売れっ子のデザイナーカミーユの正体は、バートレット侯爵令息のカミーユ、二十三歳、女装していても歴とした男性だ。五年ぶりの帰国だった。
「当たり前だろ、何年一緒に過ごしたと思ってるんだ、どんな変装していてもわかるさ、五年間もどこでなにをしてるのかと心配していたら、でも、元気そうでよかった」
カミーユの肩に顔をうずめながら、テッドは鼻を啜った。
「ちょっとぉ、鼻水付けないでよ」
「でも、なんでそんな恰好してるんだ?」
「彼は、いえ今は彼女というべきなのかしら、隣国で人気のデザイナーなのよ」
レベッカが言った。
「えっ? 知ってるのか?」
「王太子殿下にご挨拶を」
戸惑っているテッドをスルーして、レベッカは冷静に挨拶を忘れない。
レベッカも、ステファンやカミーユと王立学園で共に学んだ同窓生だ。
「久しぶりね、驚いたわ、すっかり女装が板についているのね」
「ありがとう、ドレスをデザインするためには、女性の気持ちになる必要があるからよ、着心地も試せるし」
カミーユはにこやかに返した。
「あら、話し方も女性なのね」
「徹底してるのよ」
「カミーユは我が国にも出店しようと計画しているんだよ、だから、宣伝のために俺は利用されてるってわけだ」
「義理の弟ですからね」
カミーユの双子の妹シエラは王太子妃で、現在第二子を妊娠している。
「愛しい妻の頼みでもあるし、派手に宣伝しようか」
「もうじゅうぶん注目の的ですけど」
自分たちの会話を遠巻きに見ている招待客たちを見渡して、カミーユは営業スマイルを振りまいた。
「一曲、お願いできますか、お義姉様」
ステファンはカミーユの手を差し伸べた。
二人は中央に出て踊りだす。
カミーユのドレスが揺れて、柔らかな生地が美しいドレープを描く。
美男美女――女装の男性だけど――の華麗なダンスに感嘆の声が漏れた。
そんな二人をテッドは涙ぐみながら見つめていた。
「ほんと、カミーユの奴、心配させやがって」
「私は知ってたわよ、シエラ妃殿下から聞いていたもの」
レベッカはしれっと言う。
「えーっ! なんで教えてくれなかったんだよ」
「秘密だったんですもの、ちゃんと成功して戻るまで黙っててほしかったらしいわ、みんなを驚かせたかったんじゃない、特に男友達を」
「大成功だな」
いつの間にかテッドたちの周りに、王立学園時代の同窓生が集まっていた。
「あれ、カミーユなのか?」
「驚いたな、昔から綺麗な顔してたけど、見事な女装だな」
「そっか、戻ったんだな」
感慨深そうに見つめる。
「後はユースタスが戻れば、あの頃のようにみんな揃うのにな」
その中の一人がボソッと漏らした。
とたんに空気が重くなる。
「ジュディスはまだ捜し続けているんだろ」
「ああ、その為に調査室に入ったんだから」
「アンソニーもな」
「自分探しをしたいと旅立ったカミーユと違って、ユースタスは完全に行方不明だからな、もう……」
「それは言わないで、ジュディスは信じているんだから」
レベッカが止めた。
ペラン公爵令息のユースタスが忽然と姿を消したのは、彼らが王立学園三年生の時の夏だった。
夏季休暇でペラン公爵家の領地に戻ったユースタスは、新学期が始まっても王都の学園に姿を見せず、行方不明になった。自ら失踪する理由は思い当たらない。事件か事故か、公爵家嫡男の失踪は世間でも騒がれ、大規模な捜索が行われたが、行方は全く掴めなかった。
そのまま、五年と七カ月の歳月が流れていた。
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短編、『僕はずっと仮面を着け続ける』の七年後の物語です。前作を読んでなくても大丈夫ですが、読んでいただけると人間関係がより分かりやすいです。前作とは違い、要素はありますがBLのストーリーではありません。




