ギフト返品不可、ただし命は例外
夜二時。スマホの広告が目に刺さった。
「ギフト:明日のあなたを一時間だけ先に受け取れます」
酔っていたわけじゃない。ただ、明日が嫌だった。指が勝手に「注文」を押した。
チャイムは三分後に鳴った。あり得ない。ドアの外に、白い箱。伝票は空欄。かわりに赤字で一行。
「返品不可、ただし命は例外」
「……は?」
箱は、妙に冷たい。発泡スチロールのはずなのに、指先の熱を奪う。
迷っているうちに、またチャイムが鳴った。今度は家の中からだ。
梱包テープが、勝手に裂けた。
「開けるな!」
声。玄関の箱じゃない。背後――自分の部屋。振り向くと、部屋の真ん中に同じ白い箱があった。いつ置いた。
蓋が跳ね上がる。中から、男が転げ出た。俺だ。髪が濡れている。息が荒い。腕に、細い擦り傷。
「お前……誰だ」
「お前だよ! 一時間後の!」
未来の俺は、俺の肩を掴んだ。指が冷たい。
「いいか、玄関の方は——」
「もう触った」
「……最悪だ」
「何が起きるんだよ」
「説明できない。説明すると、確定する」
「確定?」
「このギフトは、“未来”じゃない。“手順”を届ける」
未来の俺は、震える息で笑った。
「お前、さっき思っただろ。『明日が嫌だ』って」
「思った」
「それが注文ボタンだ。で、届くのは——」
玄関の箱が、内側から叩かれた。どん、どん、とリズムが正確すぎる。
未来の俺が叫ぶ。
「耳を塞げ! “あいつ”の合い言葉を聞くな!」
「合い言葉?」
「聞いた瞬間、お前は——自分で自分を——」
玄関の向こうで、静かな声がした。オペレーターの声だ。やけに丁寧。
「返品をご希望ですか。返品不可、ただし命は例外です」
俺は、思わず答えた。
「……命って、どうやって返品するんですか」
未来の俺が、泣きそうな顔で言った。
「そうやって。“言わせる”んだよ」
箱の中で、何かが笑った。
そして俺は理解した。ギフトの中身は、明日の俺じゃない。
——俺を殺す手順だ。




