王都への招集、王からの命令
「よくも、まぁこんなに人がいるなぁ」
独り言のように呟いた。
目の前に広がる大通りは、まるでお祭りの日のような賑わいを見せていた。
商店からは、呼びこみの声が聞こえており、道行く人々は、これが日常であるかのように歩き去っていく。
串焼き肉やアルコールが出す香りと人が集まったことによる独特な匂いが、混ざりあい熱気を発していた。
慣れてしまえば、問題ないのだろうが、辺境からきている人にとっては気持ちのいい空間ではない。
用事を済まして、さっさと帰ってしまおう。
そう思い、従者であるサムに話しかけようと思い隣を向いた。
「うわぁ……っ。すごい、すごいっすよ……!」
サムは、青く綺麗な目を輝かせながらこの光景に見入っていた。
そういえば、まだ16歳になったばかりだったか。
同年代よりも落ち着いていて、体格も頭少し大きいため年齢より大人びた印象を受ける。
今の横顔は年相応にみえる。
この光景が非日常に感じられて新鮮なんだろう。
同じ光景を見た時に、感動を感じることができないことが年をとったことをより痛感させられる。
なんとなく、その貴重な時間をこちらから声をかけて止めてしまうのが嫌だったので、声がかけらるのを待つことにした。
「領主様、あそこに見える建物はなんですか?」
人々の喧騒がここまで届きそうなほどに活気づく城下町。その繁栄の極みにある街並みの中心で、一際異彩を放ち、天高くそびえ立っている建物がある。
周囲の賑わいをすべて飲み込むかのように、純白の大理石で築かれたその巨躯は、陽光を浴びて神々しいまでの輝きを放っている。
「あれが今回の目的地の王城だ。」
「はいっ。にしてもすごいっすね。領地にある城とはまたくの別ものだぁ。てっきり教会か何かかと思いましたよぉ〜」
「まぁ、たしかに近頃の教会だったら金を溜め込んでいそうだから、あのくらいの建物つくってそうだな」
「そういうことじゃないっすよ。単純に真っ白で光輝いていて、とっても」
「いけすかないって?」
「神々しいなって思ったんですよ!
すごいな〜さすが王都っすねー」
王城が綺麗な理由は一度も戦火にあっていないからだ。また、城下町が栄えおり税収も潤っているため、すぐに増築か改修をしている。その改修や増築も城の防御力を上げるのではなく、美麗さに重きを置いているようにみえる。城は攻撃者から守るためにあるのに、戦火から遠ざかっているためその役割を見失っている。
王の権力の神格化という意味あいなら、目的を達していると思うが、
「・・いけすかないな。」
独り言を呟き、当初の目的を思い出す。
「そろそろ遅れるから、さっさと行くぞ。
遅れたら、縛り首にされてしまうかもしれん。」
「え〜!!ほんとですか!?
先に言ってくださいよぉ!ならはやく行くっす。
まだ、死にたくないっす。」
「まぁ、さすがに冗談だんなんだが、王の気分次第では何かしらの罰はあるかもしれん。行くぞ。」
そう言って、城を目指して歩きはじめた。
*
結果、王の面会の20分前には城に辿り着くことができた。サムは荷物と一緒に別室で待機させて、大広間で約束の時間まで待機していた。今回の会談は王から呼び出されたものであり、なぜか他の領主は呼ばれず一対一の会談となっている。嫌な予感しかしない。。
約束の時間から30分ほどたってから王はあらわれた。
「すまないな。前にあった商会との会議が長引いてしまった。面を上げてくれ、アズール将軍」
そう言われて、片膝をつき頭を下げていたアズールは、玉座に座っている王に視線を向けた。その瞳は紺碧色をしており、冷たく落ち着いた印象を相手に与えた。また、将軍になれば覇気やオーラを発するものだが、そのような威圧感とは無縁のようであった。例えるならば、一兵卒がたまたま大戦果をあげて将軍になってしまい、1週間が経ちましたという感じだ。
「とんでもありません。ジェダイト陛下。」
ジェダイトは今年で30歳になったばかりの若い国王であり、王位を継いだのも昨年である。陽光に輝く黄金の髪と鋭く透き通った翡翠色の瞳を持ち、若々しい国王である。初対面では、裏表がなく考えなしの人物のようにうつるが、実際は思慮深く油断のならない人物であると他国でも評判である。
「今回そなたを呼び出したのは、ほかでもないひとつ頼みごとがあるからだ。」
そう、ジェダイトは切り出した。
やはり面倒ごとであったか。。
内心、舌打ちをしながら返答した。
「承知いたしました。
陛下の仰せ(おおせ)とあれば、私の返答は決まっております。
つきましては、ご依頼の詳細をお聞かせ願いたく存じます。」
とりあえず、臣下である以上拒否することはできないため、当たり障りのない返答をしておく。依頼内容を聞いている間に時間をかせぎ、適当に話をあわせたり論点ずらしをしたりして、うやむやにしてしまうことを考えつつ、王の次の言葉を待った。
「それはよかった。では単刀直入に言わせてもらうが、ビジュー国の姫君と婚姻してほしいのだ。」
それは、アズールからするとまったく予期しない内容であった。
「・・内容は承知しました。その目的は何でしょうか。」
「最近ビジュー国の王が、自国の姫を他国に積極的に嫁がせていることは知っているか?」
「それは、存じております。」
大陸には、全部で8つの国が存在している。その中でもビジュー国はもっとも小さな国である。そのため国を存続させるためにとった国策が、他国との同盟を進め大陸の調和を保っていくことである。その中で、婚姻も重大な外交手段となっており、ビジュー国では他国との婚姻を進めてきた背景がある。そんな中、ここ最近はその婚姻政策をより積極的に推し進めているようである。
「実は、ここ2〜3年の間に我がアルマース国以外の国には、自国の姫を嫁がせている。 そして、ついにこちらにも縁談が持ちかけられた。」
「承知しました。しかし、他国の王族と地方領主では釣り合いがとれませぬ。こちらも、王家のご親族を相手に選ばねば、破談となってしまうのでは?」
「まぁ、待て。まずは目的についての質問が先であろう。目的は、ここで姫を貰い受けておき先に起こるであろう、侵略戦争の大義名分を得ることである。」
そう言うとジェダイトは、今回の縁談の裏事情を話し始めた。ビジュー国の国王は、おそらく寿命がつきそうになっている。後継者は、昨年に父親を病気て亡くした孫が皇太子につきそうである。この若き皇太子の年齢は5歳であり、まだ国政を行えるようになるのは当分先になる。姫君は他国に嫁がせているため、自分が死んだときに他国が後継者を名目に攻めてくるであろう。それならば、いっそ全ての国に姫君を嫁がせることによって、全ての国に大義名分を与え、睨みあいをしている間に皇太子が成長する時間を稼ごうということらしい。
「そういうことで、ビジュー国としては相手よりも決まる早さを重視したいようだ。」
話の内容を理解した上でこの縁談を受けるべきではないと、アズールの頭は警鐘を鳴らす。この国家間の目論見に巻き込まれて、戦争に巻き込まれるのはまっぴらごめんだ。
「なるほど。。では、陛下の側室にされるのはいかがでしょうか?ビジュー国の後継者として、正式に王位を主張することができますが。」
「ダメだ。側室など王妃が許すわけがないであろう」
そういえば、側室を持たないことで王妃を口説き落としたんだったか。現在の王妃は、貴族出身ではなく商家が実家である。ジェダイトが若い頃に、自分の身分を隠しながら城下町で遊んでいた時に、一目惚れして結ばれたことが、噂話として有名である。経緯はどうであれ、王妃には強力な後ろ盾が存在しないことは事実である。たしかに他国の姫を迎えることは、良しとしないだろう。
「しかも王妃は、子を孕っている。余計な心配をかけたくない。」
たしかに、大切な後継者に関わることであるため国としても細心の注意を払うべきだろう。
「でしたら、陛下のご親族のどなたかに迎えていただくのはどうでしょうか。」
「適当な人材がいない。それに、今回の婚姻は今後の成り行きによっては、ビジュー国を滅ぼす可能性がある。そのときに、揉めるような事態は避けたい。」
そうなのだ。結局目的は、ビジュー国へ侵略戦争を仕掛けることである。侵略した際は、王族は処刑か流刑をされるため、嫁いできた姫の実家の繋がりはなくなってしまう。そういう意味では、結婚相手としては魅力がない。ジェダイトとしては親族に、その役目をおしつけたくないのだろう。自分の親族には、もっと有用な形で婚姻を結ばせたいと考えているに違いない。しかも、今回は相手もそこまで家の格をまとめていない。
このまま進めても、埒が開かないと思い攻め方を変えてみる。
「それでは、なぜ自分なのでしょうか。
他の将軍でも問題ないはずです。」
「たしかに、他の将軍についても考えてみたが、治めている土地を考慮して、おまえに頼むことに決めた。
おまえの治めるラボグラウンは、ビジュー国のとなりに位置しているため、姫君からすると母国が近いので気候が似ており過ごしやすいのではないか。見知らぬ土地に嫁いでくるのだ少しでも安心させてやりたい。」
流石に、姫君のことを考えての部分は嘘だなと思った。土地を考慮する部分までが本当であろう。ラボグラウンは、肥沃とは程遠い土地である。岩肌が見える土地では農作物は育たず、酪農にも適さない痩せ細った土地だ。何で生活しているのかというと、交易の中継地点のオアシスとしてと、鉱物資源の採掘で生活が成り立っている。鉱物資源は、何世代かに続く採掘により昔のように取れなくなってきていた。そのため、たとえ占領されたとしても痛くない。また、侵略戦争が始まればラボグラウンは最前線となる。できるだけ面倒ごとは一箇所に留めていきたいのだろう。
「陛下のお言葉、畏れ多くも深く感銘いたしました。最後にひとつだけ教えてください。ビジュー国を手にしたい理由は何でしょうか。ビジュー国は豊かな土地も少なく、併合したとしてもあまりうまみがない国ではないですか?他国の目がビジュー国に向いている間に、他の土地を侵略した方がよくはないでしょうか。」
最後の反撃であった。どうにかして、矛先を別のところに向けさせたかった。しかし、その考えもすぐに崩れ落ちてしまう。
「実はビジュー国には、多くの鉱物資源が眠っている疑いがあることが、学者たちから報告されている。アルマースでは近い将来鉱物資源が尽きてしまい、採掘者の働く場なくなることが懸念されている。ビジュー国を占領した暁には、採掘者を移住させることでその問題を解決することができる。国をより富ませるために、ビジュー国が必要なのだ。」
「・・承知いたしました。」
完全敗北である。この縁談を回避することができないことを理解して、白旗をあげる。
「他に何か、確認することはあるか。」
「・・いえ、ありません。」
「では、このまま縁談を進めるでよいな。」
「・・1点だけお願いさせていただきことがあります。」
「なんだ申してみよ。」
今回の縁談については、採掘場を広げて働き口が増えるという意味では、少なからずラボグラウンに住む人についても利がある。1番可哀想なのは、故郷が侵略の憂き目にあい、見ず知らずの男に嫁がなくてはいけない姫君である。まだ見ぬ姫君に同情を感じながら、アズールは言葉を紡ぐ。
「ビジュー国の姫君ですが、今回の目的を果たした段階で正式な婚約者を探していただけないでしょうか。戦争をしかけるもしくは、ビジュー国の分割統治が国家間の話し合いで決定した段階で用済みになる理解です。その際にしかるべき相手との婚姻を結ぶこととさせていただきたいです。」
「・・理由は?」
「元ビジュー国領を統治する際に、障害になる可能性があるからです。本人にその気がなくとも、旗頭として担ぎあげられる可能性があります。そうなると統治運営に影響がでます。役目を終えた段階で遠くの領地に移すべきです。」
「なるほど。そちの言もっともである。そのように取り計ろう。」
「御意。」
ここら辺が落とし所だろう。期間限定の婚姻は互いに利がある。アズールからすると王族を妻にするのはリスクが高い。他国の王族と近くなることは、謀叛の疑いをかけられやすくなるためだ。利用価値がある段階では、ジェダイトも何も思わないだろうが、その後は王になる大義名分を持ったものとして警戒するはずだ。この爆弾を持ち続けることは、アズールとしても本意ではない。
また、ビジュー国の姫君にとっても今後生きていくためには、自分の身の置き方を考える必要がある。自分は無害であることを証明するため、王族に嫁ぎ親戚となるか、臣籍降下で庶民になるかのどちらかであろう。軍事力を持つ地方領主は、一番適していない。
「では、今後についてはおって連絡する。
領地にて、有事に備えよ。」
そう言うと王は退席し、会談は終了した。
別室で待機しているサムに、今回の話を話したら腰を抜かすだろうなと考えつつ、アズールは大広間を後にした。




