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山賊勇者  作者: 夕凪 瓊紗.com
辺境の勇者と聖女
13/15

【13】長い旅路の果てに



――――辺境の大地を踏みしめながら、向かう先はずっと逃げ続けたあの場所か。


「アルダ」

「……スィーリ?どうして……」

俺たちを出迎えたスィーリたちの姿に驚く。


「お前がまだ迷っているのではと思ってな」

「何をだよ」

「親父もお前を待っている。一度、話をしよう。誰もお前を責めたりしない。もちろん慈悲からじゃない。みんなお前を認めているんだ」

「……それは」

「お前はちゃんと辺境のために戦った」

「俺がアルトゥールを戦えなくしたから」

俺がアルトゥールの太股を聖剣で突き刺して使い物にならなくした。その傷はどんなヒーラーでも治せなかったからアルトゥールは戦場から遠退いた。


「そのせいで辺境の陣営が圧された」

魔物たちに圧し負けて、山賊たちも無垢な民衆を守るのに手一杯だった。

「だから俺がやるべきだろう」

そのために再び聖剣を取った。血にまみれても、騎士たちから疎まれても、浴びるようにただひたすらに。


「どんな理由があれど、お前はもう立派な辺境の勇者だ」

山賊勇者じゃなくて……辺境の勇者?


「だから辺境の勇者として、親父のもとまで来い」

「……」

「自分の目で本当の世界を見るんだ。お前はもうひとりじゃないだろう?」

「アルダ」

掌に小さな手が重なる。


「……ああ」

会いに、行こう。


少しずつ足を踏み出していく。


「待て!」

しかしその時周囲が一気に警戒モードに入る。


「ようやっと追い付いたぞ!この山賊勇者!」

「……お前、アンテロか?」

確かにその声は聞き覚えがある。しかし溶けた顔は仮面で覆われている。


「そうさ……!」

「牢屋に入れられたんじゃないのか!」

「アハハハハッ!あれは俺の影武者。本物の俺はお前に復讐するためにこうして地獄から蘇ったのだ!」


「何だよそれ、有り得るのか?」

「地獄の部分はないと思うけど」

とラーシュ。


「怪我を負っていたはずだが」

「闇医者市場にはああいうドーピングポーションがあるからね」

さらりとレンニが恐いこと言う。


「さあ……その聖剣を俺に寄越せええええぇっ!」

そうして勇者にでもなる気か。


「ラーシュ、俺は権利を行使する。見届けてくれるか」

「ああ、もちろんさ」

「了解した」

するりと聖剣を抜き取る。


「山賊ゆうあえあぎゃあぁあぅっ」

最後はひとの言葉にすらならない。

その声を、もう解読することはない。いや、あれは別のもの。勇者が屠るものだ。


「さよならだ」

血しぶきが舞う。響いたのは人間とも獣のものとも思えぬ断末魔。


「これで終わりだ」

生命を維持していた部分をたちきれば、今度こそアンテロが絶命した。


※※※


――――辺境伯邸


ここに帰ってきたのはいつぶりか。邸の騎士や使用人たちの視線が突き刺さる。


「……」

「アルダ、みんな歓迎してくれてるみたい」

「え……?」

リーリャの言葉にハッとして顔を上げる。あの時は俺に喧嘩を売ってきた騎士もいたのに。


「ほら、親父の書斎はこちらだ」

俺たちを出迎える視線は思っていたものとは違う。


「どうしてだ」

「言ったろ?お前は……辺境の勇者なんだ」


ここは俺が思っていた世界とは違うのか?いや……あの時から時が止まっていたのは俺だけだったのかもしれない。


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