【13】長い旅路の果てに
――――辺境の大地を踏みしめながら、向かう先はずっと逃げ続けたあの場所か。
「アルダ」
「……スィーリ?どうして……」
俺たちを出迎えたスィーリたちの姿に驚く。
「お前がまだ迷っているのではと思ってな」
「何をだよ」
「親父もお前を待っている。一度、話をしよう。誰もお前を責めたりしない。もちろん慈悲からじゃない。みんなお前を認めているんだ」
「……それは」
「お前はちゃんと辺境のために戦った」
「俺がアルトゥールを戦えなくしたから」
俺がアルトゥールの太股を聖剣で突き刺して使い物にならなくした。その傷はどんなヒーラーでも治せなかったからアルトゥールは戦場から遠退いた。
「そのせいで辺境の陣営が圧された」
魔物たちに圧し負けて、山賊たちも無垢な民衆を守るのに手一杯だった。
「だから俺がやるべきだろう」
そのために再び聖剣を取った。血にまみれても、騎士たちから疎まれても、浴びるようにただひたすらに。
「どんな理由があれど、お前はもう立派な辺境の勇者だ」
山賊勇者じゃなくて……辺境の勇者?
「だから辺境の勇者として、親父のもとまで来い」
「……」
「自分の目で本当の世界を見るんだ。お前はもうひとりじゃないだろう?」
「アルダ」
掌に小さな手が重なる。
「……ああ」
会いに、行こう。
少しずつ足を踏み出していく。
「待て!」
しかしその時周囲が一気に警戒モードに入る。
「ようやっと追い付いたぞ!この山賊勇者!」
「……お前、アンテロか?」
確かにその声は聞き覚えがある。しかし溶けた顔は仮面で覆われている。
「そうさ……!」
「牢屋に入れられたんじゃないのか!」
「アハハハハッ!あれは俺の影武者。本物の俺はお前に復讐するためにこうして地獄から蘇ったのだ!」
「何だよそれ、有り得るのか?」
「地獄の部分はないと思うけど」
とラーシュ。
「怪我を負っていたはずだが」
「闇医者市場にはああいうドーピングポーションがあるからね」
さらりとレンニが恐いこと言う。
「さあ……その聖剣を俺に寄越せええええぇっ!」
そうして勇者にでもなる気か。
「ラーシュ、俺は権利を行使する。見届けてくれるか」
「ああ、もちろんさ」
「了解した」
するりと聖剣を抜き取る。
「山賊ゆうあえあぎゃあぁあぅっ」
最後はひとの言葉にすらならない。
その声を、もう解読することはない。いや、あれは別のもの。勇者が屠るものだ。
「さよならだ」
血しぶきが舞う。響いたのは人間とも獣のものとも思えぬ断末魔。
「これで終わりだ」
生命を維持していた部分をたちきれば、今度こそアンテロが絶命した。
※※※
――――辺境伯邸
ここに帰ってきたのはいつぶりか。邸の騎士や使用人たちの視線が突き刺さる。
「……」
「アルダ、みんな歓迎してくれてるみたい」
「え……?」
リーリャの言葉にハッとして顔を上げる。あの時は俺に喧嘩を売ってきた騎士もいたのに。
「ほら、親父の書斎はこちらだ」
俺たちを出迎える視線は思っていたものとは違う。
「どうしてだ」
「言ったろ?お前は……辺境の勇者なんだ」
ここは俺が思っていた世界とは違うのか?いや……あの時から時が止まっていたのは俺だけだったのかもしれない。




