ちょっとかわった医師にインタビュー③
圭介: (タバコを吹かしながら気だるげに) リョウ、お前、今も医者やってるんだっけ?研修医って大変なんだろ?
リョウ: (気だるげに、視線を泳がせながら) …初期研修2年は嫌だった。その後、多くの医者は専門医を目指す。それが一般的なルート。でも、制度上は「何々専門医」って名乗るのは学会が認めた資格が必要だけど、自分で「私は何々専門です」って言うのは自由なんだ。
圭介: (フッと笑って) へえ、適当だな、医者も。でお前は何なの?専門は。
リョウ: …人には「総合診療科」って言ってる。今は高齢者向けの訪問診療のクリニックにいる。患者の家に入り込んで、診察してる。
圭介: (興味なさげに) 家に上がり込むって、なんか面白そうだな。小説のネタにでもなりそうじゃん。
リョウ: (少しだけ目が輝く) …そう。人の人生、いろんなストーリーがある。家族関係、トラブルの種、本人の価値観。そういうのが目の前で展開される。作家活動には向いてるかもしれない。直接は書けないけどね、個人情報保護。でも、そういう経験を通して、統計データを見た時に「ああ、こういうことか」って、より深く理解できるようになった。
圭介: (タバコの灰を払いながら) ふーん。ノンフィクションは無理でも、フィクションならいけるんじゃね?
リョウ: …でも、ジレンマがある。医療ドラマや映画の主人公みたいな医者は嫌いなんだ。医療は社会の主役じゃない。セーフティーネットで、裏方であるべき。ヒーローになっちゃいけないんだ。
圭介: (けだるげに) ヒーローじゃないと?まあ、そりゃあ、病気治して元の生活に戻るのがゴールじゃ、夢はないわな。
リョウ: …そう。社会が発展するってのは、イノベーションを起こすビジネスマンとか、そういう夢のある人たちが主役であるべきだ。医療や警察が主役になると、社会の発展とは違う方向に行く。病気がなくなっても、犯罪者が減っても、未来は豊かにならない。
圭介: (天井を見上げながら) 豊かな未来、ねぇ…。難しいこと言うな。
リョウ: …だから、私は「当たり前」だと思われているものを疑う。例えば、健康のためって言って酒を飲まなくなる人が増えてるけど、それはもったいない。酒を飲むことで生まれるコミュニケーションとか、産業の活性化とか、そういう夢のある側面もあるのに。
圭介: (タバコの煙を吐き出し) お前、相変わらず変なこと考えてるな。
リョウ: …個人の人生を生き生きとさせる邪魔な要素を減らしたいだけ。好きなことをして豊かな時間を過ごす方が、私は好きだ。
圭介: (少し身を起こして) 結婚もしたんだろ?子供も二人いるって?それも、なんか理由があるのか?
リョウ: (きっぱりと) …理由なんてない。人は、よく分からないまま結婚して子供を作る。人間が理屈を考え始めるより前から、そうしてるから。
圭介: (再び寝転がりながら) はは、確かに。じゃあ、今、次に考えてることって?
リョウ: …女性の役割。高齢者介護や子育てといった「ケア」と呼ばれる仕事が、女性の役割とされてる。そして「ケアをする方が女性らしい」とまで言われる。
圭介: (少し眉をひそめて) それって、自己目的化しちゃうってことか?
リョウ: …そう。本来、相手のためにするはずのケアが、いつの間にか「やること」自体が目的になる。社会からのプレッシャーだ。手抜き介護でも困らない高齢者もいるのに、子供が「親のために」と頑張りすぎて、それがアイデンティティになってしまうこともある。
圭介: (ぼんやりと) なんか、分かる気がする。お前のためを思って、って言われると、反論しにくいけど、実は相手が求めてないことだったりするよな。
リョウ: …そういう根本的な考え方のおかしさを、私は暴いていきたい。それが私の活動だ。
圭介: (タバコを消しながら) へえ。お前、相変わらず面白いことしてるな。話聞いてて楽しかったわ。
リョウ: …そう。