四つ目の因習
「ねえ、あなた。三人目を産んではダメってどういうこと?」
私は突然の出来事に驚きを隠せなかった。
「言葉の通りだ」
夫の突き放すような言葉が、私の胸にグサッと刺さる。
「何か隠していない? 理由があるんでしょう。あなただって、子供が欲しいって言ってたじゃない。なんで『三人目はダメ』なの?」
「うるさい! お前はすべてを知る必要はない」
バチーンと音を立てて、夫のビンタが飛んできた。私は頬をさする。
「和彦、理由は教えてもよかろう。そうでなければ、面倒なことになりかねん」
お義父さんは眉間にしわを寄せていて、やむを得ず話すことを決意したようだった。
「……父さんがそう言うなら。いいか、今から話すことは口外してはならない。たとえ、息子であろうと」
夫の言葉には有無を言わせぬ威圧感がある。私は無言のまま頷くしかなかった。
「お前は日本神話のイザナミは知っているな?」
「ええ、もちろん」
「この神社はイザナミを祀っている。そして、彼女はカグツチを産み落とす際に火傷で死んだ。だからだ、三人目を産んでいけないのは」
「あなた、それじゃあ説明になっていないわ! なんで《《三人目》》がダメなのか」
私の問いに「ふん」と鼻で笑うとこう付け加えた。「簡単な話だ。代々、三人目を産んだ女は火傷が原因で死んでいる」と。
火傷が原因で死ぬ? 三人目を産んだ人間だけが? 私には偶然としか思えない。
「玲子さん、お前も三人目を産んではならん。この話を聞いた上で三人目を産んだなら……」
お義父さんから一種の狂気を感じ取る。いえ、小鳥遊一族は全員狂っている。和彦さんに惹かれたのが間違いだったのだ。少し近づいただけで、お義父さんは私を無理やりここに連れてきた。私の人生はもうぐちゃぐちゃ。せめて、二人の息子たちだけは、まともな環境で育てたい。そうでなくては、次に狂うのは私に違いない。
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「これが、『三人目を産んではいけない』という理由です」
玲子は静かに話し終えた。
「なるほど、よく分かりました」
三人目を産んだ者だけが死ぬことが引っかかる。それも火傷によって。玲子の口ぶりからするに、蓮の祖父である重道は、この言い伝えを信じている。もしも、彼女が三人目を産んでいれば……最悪の場合、重道自身が手を下したかもしれない。狂信的な彼ならやりかねない。
「この島には、四つ目の因習があったのか……」
今までの因習村では、多くても二つだった。それが、この島には因習が四つある。そして、そのうちの一つを知る者は限られている。
一つ気になるのは、「火送り」の儀式では依り代を焼くことだ。以前は、生きた人間を捧げていたと聞いた。それならば、この神社と小鳥遊一族の因習にはイザナミと密接な関係がある。その理由を突き止めれば、「火送り」を止めることが出来るに違いない。
「どうやって、調査を進めるかが問題だな。……いや、違う。どうやって、こいつらの狂気を終わらせるか、だ」
やはり、この島に詳しい三枝老人との接触が近道だろう。大丈夫、彼から話を引き出す手段はすでに思いついている。そして、作戦を実行するには夜まで待つ必要がある。三枝老人を罠にかけようじゃないか。自ら因習を話したくなる罠に。