魔眼石と魔王の存在
「はっ!!」
ユリアンに木刀で攻撃をする。
しかしユリアンはそれを軽くいなした。
「どうした?そんなことでは私に傷を負わせることすらできないぞ?」
「くっそ〜、まだまだ!!」
木刀で何度も攻撃を繰り出す。
しかしその度にユリアンが攻撃をいなすため、まったく彼女に攻撃が当たらない。
「そろそろだな、はぁ!!」
「なっ…」
ユリアンは俺の持っていた木刀を上に弾き出し、そのまま首筋に木刀の先を突きつけると、高らかに宣言した。
「私の勝ちだな、ハルト」
「くっそ〜…」
俺は今、ユリアンに稽古をしてもらっている。
何故そうなったのか、それは昼食を食っていた時の話だ。
「ハルト、それからヒヨリ、二人に私から提案があるのだが…」
「「提案?」」
ユリアンの言った言葉に、思わず俺と日和の声が重なった。
「《スキル》があるとは言え、この世界で生きていくには、二人はあまりにもこの世界を知らなすぎる」
「それは…そうですけど……」
俺と日和は城を出たばかりで、まだこの世界について何も知らない、町の外に何があるのかも、俺達には想像すら出来ないのだ。
そんな俺達を見ながら、ユリアンはニヤリと笑った。
「二人とも、"剣術"を学んでみないか?」
「け、剣術?」
"剣術"とは、「日本刀」を用いる武芸のひとつで、武士が戦場で生き残るために、技能を体系化したものである。
「実は私の実家に、先祖代々から伝わる流派があってな、それを二人に教えておきたいんだ」
「なるほど、でもどうして私達にそんなことを?」
「……少し、この世界について話そう」
ユリアンは俺達二人をそれぞれ見ながら、この世界について話してくれた。
「塀の外には、魔獣や魔族と呼ばれる生き物と人種が存在する。私が騎士になったのは、その魔獣や魔族から人々を守るためなんだ」
魔獣、そして魔族、この世界は人族の領域と、魔族の領域で別れており、人族と魔族の間には、それぞれ"境界線"というものが存在する。
その境界線は絶対超えてはならず、もしどちらかがその境界線を超えてしまった場合、戦争にまで発展すると言われていた。
「そんな時だ。あの事件が起きたのは」
「あの事件…?」
今から訳10年前、一人の人族が魔族の領域に侵入した。
その者の名は『カルベル・ベイルード』、当時彼は魔族の研究をしており、好奇心から魔族の住んでる領域に入って行った。
そこで彼は魔族領域で咲いていた花、そして果物などを材料として取りまくった。
「しかし、彼はやってしまった」
「やってしまった?」
「あぁ、とある"石"を材料として持ち帰ろうとしたんだ」
「とある"石"?」
「あぁ、その"石"の名は──」
彼が持ち帰ろうとしていた石は、"魔眼石"と呼ばれていた物で、魔王の眼が入ってると噂される、とんでもない石だった。
「当時その石は、魔族の間で厳重に保管されていた」
「…それを、彼は奪おうとしたってことですか?」
「あぁ、そして事件は起きた」
魔眼石は洞窟の奥深くに保管されており、カイベルはどうにかして、そこで警備をしていた魔族二人を、そこから離れさせたかった。
そんな時、カイベルが使ったのは──。
「彼は持っていた"爆弾"を使って、洞窟の一部を破壊したんだ」
「爆弾!?それでどうなったんですか!?」
「……」
予想通り、カイベルは洞窟の一部を破壊し、警備をしていた魔族を魔眼石から遠ざけ、その石を持ち帰ろうと手に取った。
急いで洞窟から出ようとした瞬間、彼は魔族に見つかってしまった。
「貴様は人族!?、どうやってここまで来た!!」
「──ッ、くそ!!」
カイベルはすかさず爆弾で注意を引こうと、魔族に当たらないように投げた。
はずだった──。
「うわあああああ!!??」
カイベルの投げた爆弾は洞窟を崩壊させ、二人の魔族はそのまま下敷きになってしまったのだ。
「た、助けてくれ……」
「……」
助けを求めた二人の魔族に対し、カイベルは魔眼石を持ったまま逃亡、行方をくらませた。
その後爆発を聞いた他の魔族により、今回の事件が発覚、魔眼石を盗んだカイゼルを捕えると共に、人族からの"宣戦布告"と捉え、彼らは人族の領域に侵攻を開始した。
突然侵攻してきた魔族に対し、人族は"対魔族専用部隊"を結成、魔族と人族による戦いが始まった。
戦いは5年の間続き、人族は魔眼石を盗んだカイゼルを魔族側に明け渡したと同時に、戦いを終わらせた。
しかしこのまま平和に終わるはずもなく、魔族は魔眼石の力を使い、ある魔族を復活させた。
その魔族の名は──。
「"魔王"、"アズレリオ"」
「魔王……アズレリオ?」
「……そうだ」
魔王アズレリオは魔王城と呼ばれる場所に居座っており、今もなお魔族の頂点として君臨している。
「魔王とはその名の通り、"世界を滅ぼす存在"と古代より言い伝えられてきた。そんな魔王を魔族が復活させたとなると、彼らは再び戦いを始めるかもしれない……」
「なるほど、でもそれだと……肝心の勇者は?」
春兎は疑問を感じていた。
魔王がいるなら当然、勇者も存在する。
しかし今のところ、勇者と呼ばれる人物は見当たらない、それならば、勇者はどこにいるんだ?
そんなことを考えていると、ユリアンはため息を吐きながら春兎に言った。
「国王の言っていた言葉、まさか忘れたのか?」
「王様の言ってた言葉…?」
「……あっ!!」
ユリアンの言葉を聞いて、日和は何かを思い出した。
「轟くん、あの時だよあの時!!」
「え、あの時?」
「ほら私達がこの世界に連れてこられた時!!」
「……」
日和の言葉を聞いて、春兎は記憶を辿った。
「……あっ、あの時か!!」
この世界に転移された時、最初に国王に言われたことを思い出した。
『おぉ、よくぞ集まった。勇者の可能性を秘めた者達よ!!』
王様はあの時、確かに「勇者の可能性を秘めた者達」と言っていた。
もしかして勇者とは……。
「勇者は、"クラスメイトの中にいる"、ってことですか?」
「あぁ、そういうことだ」
ユリアンは春兎の言葉を聞いて頷いた。
そんな時、日和が春兎の方を向きながら口を開く。
「でも、誰が勇者なんだろう?」
それを聞いて、俺は顎に手を置きながら考えた。
「確かに、そもそも勇者って、"勇気ある者"って意味じゃなかった?」
「でも"魔王に立ち向かう勇気ある者"って意味でもなかった?」
二人が勇者について考えていると、ユリアンが会話に割って入ってきた。
「これは私の世界だけかもしれないが、勇者とは、"魔王に立ち向かう剣士"って意味で知れ渡っている」
「"魔王に立ち向かう剣士"か……」
今考えてみると、勇者の定義って曖昧な気がする。
俺の元いた世界で、勇者は"職業"、もしくは"称号"として、漫画や小説に登場していた。
勇者について、今一度考えた方が良いのかもしれない……。
「さて、この話を聞いた上で聞くが──」
ユリアンは改めるかのように、二人に問いかけた。
「二人とも、剣術を学んでみる気はないか?」
「あっ、そういやそう言う話してたんだった」
剣術の話をしていたことを、ユリアンの言葉で思い出した。
魔王の復活、そして勇者の存在と、これまでの話を思い出しながら考えた。
考えた上で、俺はユリアンに言った。
「わかりました。俺剣術学んでみたいです!!」
魔王が存在しているなら、剣術は学んでおいて良いかもしれない、それに俺の《スキル》は、お世辞にも戦闘向きの《スキル》ではない、だからこそ、戦う術は持っておいた方が良いだろう、俺はそう思った。
俺の答えを聞いて、ユリアンは喜んだ。
「そうか、ありがとうハルト、ヒヨリは……」
ユリアンは次に日和の方を見た。
「わ、私も剣術学びたいです!!」
どうやら日和も学ぶ気まんまんらしい、それを聞いて、ユリアンは二人にお礼を言った。
「二人とも…ありがとう、それじゃあ早速外でやろうか」
「「……え?」」
唐突にそんなことを言われたため、思わず二人の声が重なった。
慌てて春兎はユリアンに聞いた。
「い、今からですか?」
「あぁそうだ。"前は急げ"って言うだろ?」
「そうですけど、剣はどうするんですか?」
日和がそう言うと、ユリアンはどこからか木刀を三本二人の前に見せてきた。
「実はこんなこともあろうかと、城から持ってきていたんだ」
「持ってきたって、何かユリアンさん怪しい…」
「確かに、"剣術を学ぶ"全体で持ってきた可能性がある」
春兎と日和はユリアンを怪しい目で見つめた。
「ま、まぁいいじゃないか、さぁ外に出るぞ!!」
「あ、逃げた」
こうして現在、春兎はユリアンに稽古をしてもらっていた。
弾かれた木刀を見ながら、ユリアンは春兎に言う。
「さぁもう一度来い、まずは武器の使い方を学ばないとな、流派はその後だ」
「は、はい!!」
春兎は飛ばされた木刀を手に持ち、ユリアンの方に木刀を構えながら距離を取ると、そのまま大きな声で叫んだ。
「それじゃいきます!!」
そう意気込み、ユリアンの方に勢いよく突っ込んで行った。
魔王アズレリオがどんな存在なのか、そして勇者とは何なのか、春兎はユリアンと稽古を続けると同時に、深く考えるようになった。
「──ねぇ、私は?」
日和はと言うと、二人の稽古を座りながら、近くでずっと見ていた。