封印の指輪
アルが「空気を吸ってくる」と言ってから、約一週間が経過した。
その間は何も起きることなく、俺はユリアンとの訓練を続けていた。
「うん、少しはマシになったかな?」
ユリアンからもそう言われ、俺は少しずつ、剣の腕を磨いていった。
ある日のこと、城にいるであろう兵士が、ユリアンと玄関で話をしているのを目撃した。
「わかった。私から伝えておくから、ハルトのことも知らせておいてくれ」
「わかりました。何かあればまた来ます」
兵士がお辞儀をした後、玄関から離れるのを見送った。
何やら小包を抱え、ユリアンはこちらに向かって来た。
「ハルト、ヒヨリを呼んできてくれないか?大事な話があるんだ」
「日和も?わかりました」
大事な話とは何なのだろうか、俺は日和を呼びに行き、三人でリビングの椅子に向かい合わせで座った。
「あの、大事な話とは?」
その言葉を聞き、ユリアンは持っていた小包を開け、中に入ってた指輪を取り出した。
「わぁ、綺麗な指輪」
目の前の指輪は銀色に輝いていて、小さくダイヤの宝石が付いていた。
「これは城の研究室で開発されていた。【封印の指輪】だ」
「封印の指輪?」
「あぁ…これをはめた者の"《スキル》を封印"できる。強力な指輪だ」
「《スキル》を封印!?そんな指輪が存在していたなんて……」
一見ただの綺麗な指輪、しかし実際は《スキル》の力を封印することができる特別な指輪、それは城の研究機関で密かに開発されており、様々なアイテムが城で研究、開発されていた。
その試作品第一号が、封印の指輪である。
ユリアンは指輪を俺の目の前に差し出した。
「じゃあハルト、この指輪を着けてくれ」
「え、俺がつけて良いんですか?」
俺の問いに、ユリアンはコクンと頷いた。
「これは君のために開発された物だ。これに関して、姫様も着けることを認めている」
「姫様が?どうしてまた…」
俺は姫様と面識が無い、何だったら存在すら知らなかった。
つまり俺の《スキル》を警戒してる。
まぁ危険なのは事実だから仕方ないけど……。
俺は目の前に置かれた指輪を念の為左手に着けた。
「それじゃあ、《スキル》の確認を頼めるか?」
「はい、ステータスオープン」
その場で《スキル》の確認をし、変わったところがないかじっくりと読み始めた。
「…あっ!」
ふとある部分が目に入り、二人に報告した。
「なんか"任意"って書かれてます」
《スキル》を確認するとこんな感じだ。
《スキル》【劣情王】
『左手で触れた者の性的な欲望、または好奇心を強制的に向上させる。そして触れた相手が女またはメスだった場合、その者を"性的奴隷"として強制的に従わせ、扱うことができる。
【任意】
そして《スキル》を使われた者が他の人間に触れられた場合、《スキル》所有者以外は警戒者とみなされ、膨大な拒絶反応を引き起こす。そして《スキル》解除は、【ギレイ液】を飲まなければ"絶対"解除させることができない』
次にフェーズ2の方を確認する。
【劣情王.フェーズ2】
《追加効果》+2。
『奴隷契約した者と性行為した場合、無条件で子供を孕ませることが出来る』
『魔族の女性と契約を交わした場合、その者は《スキル》所有者を夫または旦那と思い込む』
前まで書かれていた二つ目の効果、『近づいてきた(または近づいた)女性が契約者以外の女性だった場合、その者の理性を10分間の間あいだ失わせ、強制的に性行為以外考えられなくさせる。※若い女性ほど効果を受けやすい《25歳〜15歳の人族限定》※ただしこの場合、奴隷契約の《スキル》は発動しない。』と、三つ目の最後に書かれていた。
『強制的に性行為を迫ってくる』の文章が消えていた。
そんなことより俺が気になったところは、前まで『《スキル》所有者以外は』のところに、『ギレイ液』の文が代わりに書かれていた。
「確かに変わっているけど……」
これは封印したと言うより、《スキル》の効果を書き換えたと言われた方が納得がいく、二つ目の効果が消えたのは良いことであるが、完全に《スキル》を押さえるのは無理らしかった。
「前よりかはマシになりました。でもこれって封印と呼ぶんですか?」
「まぁまだ試作品だし、仕方ないだろう」
「そうなのかな……」
少し疑問を感じるが、《スキル》を制限したと考えれば多少は納得できた。
「それじゃあ、今から町に出かけるか」
「「えっ」」
俺と日和の声が重なった。
「指輪の効果が本当に効いてるのか知りたいだろ?それに町のことも少しは知ってほしいからな」
「それは…そうかもしれないけど……」
日和は心配そうにこちらを見ていた。
確かに《スキル》の影響が、今どのくらいなのかは、確かめなければならないと思う。
本当に指輪の力が効いているのか、俺自身の為にも必要だと感じた。
「わかりました。ちょっと準備してきますね」
「あ…私も……」
俺と日和、そしてユリアンも一旦二階に上がり、各々が準備を整えた。
準備が終わり、玄関へ向かう。
日和とユリアンは先に玄関で待っており、俺だけ二人より遅れてしまった。
「じゃあ行くか」
ユリアンの言葉で、俺達は町へと出掛けて行った。
そしてしばらく歩いていると、何やら賑やかな場所に来た。
頭上を見上げると看板があり、そこの文字をユリアンが指差していた。
「ここは"ヘルメル通り"と言ってな、いろんな店があるから、歩きながら寄って行こう」
歩いていると、いろんな店があった。
服屋、本屋、宝石店など、俺達は話をしながら道を進んでいた。
「ユリアンさん、姫様ってどんな人なんですか?」
俺は少し気になって、ユリアンに聞いた。
ユリアンは意外にも、困った表情でこちらを見ていた。
「…少し子供っぽくて、優しくて……私の憧れの人だ」
「憧れの人?」
「……」
ユリアンが姫様と出会ったのは、騎士への入団試験を受けた時だった。




