勃発…?
「知ってるのか?《スキル》解除方法を」
この少女、アズは確かに言った。
「お前の《スキル》、解除したくないか?」と、もしその言葉が本当なら、この少女は俺の《スキル》、【劣情王】の、解除方法を知ってる事になる。
俺の言葉に、少女はニヤリと答えた。
「あぁ、我は《スキル》の持ち主ですら知らない、《スキル》の力を把握できる。つまり解除方法も、《スキル》の上限すらも、我には見え見えなのだよ」
「なるほど」
「ちなみに、これは一度相手の《スキル》を食う必要がある。食った事ない味は流石に我でも知らん」
「……」
この少女、何者だ?
魔族なのは確かだけど、《スキル》を食うなんて、そんな事をする魔族が存在するなんて、今まで考えていなかった。
てっきり魔族と人族が分かれてる程度に考えていたけど、魔族についてもっと知る必要があるのか?
「んで、解除方法って?」
俺はとりあえず、一番知りたいことを少女に聞いてみた。
もしかしたら、日和とユリアンを自由に出来るかもしれない、いや契約後もかなり自由にしてるけど、それでも俺は《スキル》を解除したい、それに──。
(俺は、《スキル》の力無しで二人と……)
「わからんな」
目の前にいるアズは、怪訝な表情でこちらを見ていた。
「なぜ"解除する必要"がある」
「それは…」
「お前の《スキル》は、人族にとって便利な力だろう、何せ強制的に子孫を残せるんだ。わざわざ解除させる理由がわからん」
「……」
確かにアズの言う通りだ。
日和かユリアン、どちらかと性行為をすれば、たったの一回で、間違いなく子供が産まれるし、契約さへすれば、女性と性行為し放題だ。
なんせ相手は必ず、俺への"好感度"が高くなる、それが《スキル》【劣情王】の力だ。
俺から望めば、日和もユリアンも、喜んで性行為してくれるだろう。
(でも、俺は──)
俺は拳を握りしめた。
(俺は、《スキル》に頼りたくない、ただそれだけだ)
《スキル》に頼ってまで、相手と性行為しようと思わない、性行為は奴隷契約を解除してから、それが"約束"だから……。
「ふ〜ん、つまらん男だな」
「なっ…」
俺の顔を察してか、アルは嫌味を言ってきた。
「《スキル》を持ってる以上、それを使わないのは《スキル》が可哀想だ」
「《スキル》が、可哀想?」
「だってそうだろう?《スキル》とは、人族に与えられし力、"魔族に対抗"するための力だ」
「…その言い方、魔族は《スキル》を"持って無い"のか…?」
「ほう?そこに気づくか」
「……」
アルの言ってることが事実なら、魔族は《スキル》を持っていない、でもアルが《スキル》を食えるとなると、魔族には《スキル》とは"異なる力"が使えるんじゃないか?
「お前の考えは、概ね正しい」
俺の考えを読んだのか、はたまた"アル自身の力"でわかったのか、アルは少し笑っていた。
「魔族は《スキル》を使えない、しかし……代わりに"魔法"を使うことができる」
「えっ、魔族って魔法使えるの!?」
衝撃の事実に、俺は驚きの声を上げた。
まさか魔法が存在していたなんて、てっきり《スキル》だけかと思っていた。
「…お前、もしかして魔族のこと何も知らないのか?」
俺の反応を見て、アルは不思議に思ったのか、怪訝そうな顔でこちらを見ていた。
「まぁ…俺この世界の人間じゃないし」
「は?どう言う意味だ?」
「だって、別の世界から転移で来ただけで、この世界のこと何も知らなくて」
「……」
(…あれ?)
何故だか、アルは目を丸くしてこちらを見ていた。
(何かおかしなこと言ったか?)
そう思っていると、アルは俺の顔を疑いの目で凝視してきた。
「お前、まさか"転移者"か?」
「えっ、そうだけど…」
俺は正直に答えた。
しかしどう言うわけか、アルは呆れていた。
「お前、我が魔族なの知ってるよな?」
「え、そうだね」
「…なぜ転移者なのをバラした」
「は?どう言う意味?」
アルの言ってることが、いまいち理解出来なかった。
俺が不思議そうな顔でアルを見ていると、アルはため息を吐いた。
「あのな、魔族に転移者の存在を知らせるのは……魔族への"宣戦布告"になるんだぞ」
「えっ、何で?」
「はぁ…」
アルは頭を抱えていた。
頭を抱えながら、俺に説明した。
「今魔族領域には、魔王が存在する。魔王にとって転移者とは、自分を倒そうとする敵でしかない」
「…えっと、つまり?」
「……」
俺の疑問に、アルは少し焦りながら答えた。
「魔王に転移者の存在を知られれば、人族と魔族の"戦争"が勃発する」
「……」
「……」
お互いが無言になり、数秒が経過した。
「…それって、マジ?」
「マジだ」
「……」
「……」
再び無言の状態が続いた。
俺はと言うと、少し焦りを感じ、汗をかいていた。
「どうしよう…」
そうボソッと呟く、それを聞いたアルは、再び頭を抱えていた。
「たく、せっかく人族の領域まで逃げてきたのに、まさか転移者がこの世界に来ていたとは」
「……」
「……」
アルはこちらをチラッと見た後、そのまま俺の肩に手を置いた。
「とにかく、転移者の存在を魔族側に"絶対"知られるな、良いな」
力強い声で俺に話しかけた。
「いや、既に君に知られたけど──」
「わ、我は良いのだ!!」
「どうして…?」
「いや、それは…」
アルは後ろを向き、少し俺から離れた。
「冗談じゃない、我は平和に暮らしたいんだ。これ以上転移者と戦ってたまるか」
そうボソッと小声で、独り言を呟いていた。
「大丈夫?」
アルの様子が変なので、俺は思わず声をかけていた。
アルはこちらを見ながら、再度小声で呟いていた。
「誰のせいだよ、はぁ…」
アルはその場でため息を吐いた。
そしてこちらを振り向き、俺の顔をジッと見つめた。
「仕方がない、我はお前と行動を共にするぞ」
そう言って、こちらに指を刺した。
「えっ…何で?」
俺は訳がわからず、しばらく混乱していた。
しかし俺の混乱を他所に、アルはグイグイとこちらに近づいてきた。
「転移者の存在を魔族に知られたくないからだっ、とにかく絶対我以外の魔族と会っても自分が転移者だと口にするな、わかったか?」
「うっ…」
アルからの"圧"が凄い、どうやらアル自身にも何か事情がありそうだ。
まぁ理由も無しに人族にくるような人?だし、きっと知られたくない事なのだろう。
俺はアルに返事を返した。
「わかった。絶対他の魔族に言わない」
「……」
俺の答えを聞いて、アルは少し安堵していた。
「なら良い…」
そう言って、再度ため息を吐いていた。
「……」
なぜそこまで俺の存在、すなわち転移者の存在を知られたくないのだろうか、魔族の少女にとって、魔王に知られるのはむしろ良い事なのでは?
この少女、何か隠してる気がする。
何となくだけど、そう感じた──。