《スキル》を食らう少女
「ここで良いかな…」
俺は左手で触れないように、角の生えた少女を一階の脱衣所に寝かせた。
「タオルを枕代わりにしてるから大丈夫か」
そう思い、少女の様子を確認する。
何故だか服が汚れて、足に傷が見える。
「もしかして、逃げてきた…?」
多分だけど、そう感じた。
そしておそらくだが、少し匂いが臭いと感じた。
「風呂入れたいけど、気絶してるし、どうしよう」
気絶させてしまったことに、罪悪感を感じた。
俺は木刀で殴ったことを後悔した。
「……」
俺は少し気になっていた。
「魔族、なのかな……」
魔族、人族とは違う領域で暮らしてると言われる者達、それならば……なぜここにいるのだろうか?
俺が家に入れたことではなく、魔族である少女が、人族の住んでる場所に来た理由、いったい……この子は何者なのだろうか──。
「うぅ〜……ん…?」
「あっ」
どうやら目を覚ましたようだ。
目を覚ました少女は周りを確認していた。
「ここ、何処だ?」
「家にある脱衣所です」
「…ッ!!」
声を聞いてこちらに視線を向けた少女は、すぐさま俺から離れ、警戒していた。
「お前、何のつもりだ」
「え?」
「何のつもりだ」とは、もしや家に入れたことか?
それとも木刀で殴ったことか?
「気絶したから……家に入れたけど」
「そう言うことを聞いている訳では無い!!」
少女は大声でこちらを怒鳴った後、そのまま指を刺してきた。
「なぜ助けた」
「…は?」
「だから、なぜ人族のお前が、魔族である我を助けたのかと聞いている!!」
「え、助け…?」
どう言う意味だろうか、もしかして本当に逃げてきたのか?
俺はそこが気になって、少女に質問した。
「あの、どう言う意味?」
「……お前」
少女はこちらに近づくと、顔をグイッと近づけてきた。
何やら匂いを嗅いでいる。
「えっ…え?」
唐突の展開に少し驚いた。
なぜいきなり嗅いできたのか、一通り匂いを嗅いだ後、少女は鼻に指を当て、ボソッと呟いた。
「やはり、匂う…」
「えっ、俺って臭い?」
「そ、そう言う意味ではない」
そう言って、少女は腕を左右に広げた。
「おい、お前」
「お前!?」
唐突の「お前」呼びに驚いた。
「我は腹が減っている。食わせろ」
「え…わかった」
俺はまだ残っているであろうお粥を取りに、脱衣所の入り口に向かった。
「おい待て、どこに行く」
「どこって、食い物を取りに」
「はぁ?我は人族の料理は食えん」
「え?」
食えない?どう言うことだろうか、もしや人族と魔族では体の行動が違うのか?
そう思っていると、少女は呆れながらこちらに来るよう指で合図した。
「良いからとっとと食わせろ」
「いやだって…人族の食い物は食えないと」
「誰が"食い物"と言った」
「え?」
少女は混乱してる俺を他所に、鼻に指を当てて言ってきた。
「匂いでわかる。お前が使えるだろう」
「え……《スキル》って匂いするの?」
《スキル》に匂いが存在してることに驚いていると、少女は首を横に振り、淡々と説明を始めた。
「…我は《スキル》を持つ人間を、匂いで判別することができる」
「え、そうなの…?」
「あぁ、そして我は相手の《スキル》を食らうことができる」
「《スキル》って食えるの…?」
「まぁ、我にとっては……な」
「…?」
何だろう。何処となくだけど、悲しんでるに見える。
「…とにかく、早よ食わせろ」
そう言って、再び少女は両手を左右に広げた。
「いや、どうやって《スキル》食わせるの?」
「……」
何故だか少女は細目で呆れていた。
「……《スキル》を我に使えば良い、そうすれば勝手に腹が満たせる」
「なるほど……」
魔族は全員そうなのだろうか?俺は感心した。
「じゃあ早速──」
俺は左手を少女の肩に伸ばそうとしたが、途中でその手を止めた。
「?、おいどうした?」
「……」
このまま、《スキル》を使うべきか?
考えてみれば、この少女に《スキル》の影響が無いとも限らない、それに相手が魔族となると、フェーズ2の効果が発動してしまう。
『魔族の女性と契約を交わした場合、その者は《スキル》所有者を夫または旦那と思い込み、強制的に性行為を迫ってくる』
(どうしよう…)
このまま《スキル》を使うべきか悩む、そんな俺に痺れを切らしたのか、少女が俺の腕を掴んで、自分のこと肩に当てた。
「おい、早くしろ」
「あっ、やば──」
左手が少女の肩に触れてしまった。
そしてあのメッセージも、同時に聞こえてきた。
『《スキル》発動を確認、これより相手との奴隷契約を結びます』
(やっぱり…)
この後の展開は、何となくわかった。
少女は絶対俺を旦那呼ばわりする、そして必ず性行為を迫ってくる。
もはや《スキル》が発動した以上、避けられない事実、もう俺に逃げると言う選択肢は無い、この後どうするか……。
そう思っていると、メッセージに違和感を感じた。
『《スキル》発…確……これ…との……契約……』
「ん…?」
何やらバグったように発音が悪くなった。
『発……こ……結──』
そのメッセージを最後に、完全に聞こえなくなった。
「あれ…」
いつもの展開と明らかに違う。
そう思い、少女の方を見てみると──。
「ふぃ〜、食った食った……」
何やらものすごく満足していた。
「しっかし、たったの一回で腹が満たせるとは、お前何者だ?」
「え…何で……」
目の前の少女は笑っていた。
てっきり少女も奴隷になると思ったが、どうやら少女自体に変化はなかった。
俺が混乱していると、少女は不思議な顔をしていた。
「どうした?」
「いや、その……」
「……あぁ、なるほど」
俺の様子を察して、少女はまじまじと顔を見始めた。
「"なぜ"と疑問に感じておるな…?」
「ま、まぁ…」
「なら、特別に教えてやろう」
少女は俺から距離を取ると、自分の胸に手を置いて自己紹介を始めた。
「我の異名は【《スキル》食らいの魔族乙女】、名は──」
少女は顔を上に上げ、名を名乗ろうとしたが、何故かその場で固まっていた。
「おい?どうした…?」
「……」
しばらくして、少女は自身の名を口にした。
「アズ……そう我の名は、"アズ・リオ"だ」
「アズ…リオ?」
「うむ、アズでもリオでも好きに呼ぶと良い」
「え、そ…そう……」
突然元気になった。
そんな少女を見ていると、少女はこちらに近づいてきた。
「して、お前の名前は?」
そう言って、俺の顔に指を刺してきた。
「あっ、轟春兎……」
「う〜ん、じゃあハルで良いな」
「は…ハル?」
「別に良いだろ?それとも「ハルちゃん」が良いか?」
「え、それはちょっと……」
何かものすごく距離が近くなった気がした。
「…さて、先ほどの続きだが」
少女は再度距離を取った。
「我は異名の通り、【《スキル》食らいの魔族乙女】、文字通り相手の《スキル》を食らう」
「まぁ…それはさっき聞いた──」
「それだけではない」
そう言って、少女はこちらに近づいてきた。
「我は…相手の《スキル》の力を"確認"することが出来る」
「えーと、つまり…?」
「……」
俺が疑問に思っていると、少女は笑いながら、衝撃的な言葉を口にした。
「お前の《スキル》、解除したくないか?」
「…え──」
《スキル》を"解除"する。
もしや少女は知っているのだろうか、俺の持つ、【劣情王】の《スキル》解除方法を──。