純の新たな役目
「雨降ってんなあ…車がありゃ早く帰れんのに」
「滝さん運転するんですか?」
俺がそう聞くと声が明るくなった
「ああ、1人でドライブすることもまあまああるよ! っていうか、敵に見つかりやすいんならそっちが良かったんだけどなあ」
歩いていた足を急に止めた滝さん
「悪い、ちょっと心当たりがある仲間がいてな」
「誰ですか?」
「純だよ あいつなら…助けてくれる」
施設から少し離れた先にある、荒井病院へ向かった
「あっしまった…今日特に予約もしてねえんだよ」
「純さんの友達ですが今日はいませんか?で聞けないですかね」
「無理だろ、あいつも仕事中は出られない」
ロビーでずっと2人で考えていると
偶然にも裏口から純さんが入ってきた
「あれ?滝、それに大胡」
「純さん、お疲れ様です」
「純、今仕事か?」
「いや?17時だから上がりだけど?司令官から連絡あって下へ下がったんだ どうしたんだよ?」
滝さんはホッと胸を撫で下ろす
「純…今、敵に狙われてる状態で、歩きで帰りたいけど歩きじゃ危険なんだ 常に目を見張っている状態で だから、車で送ってくれないかな…」
純さんはケラケラ笑う
「いいよ、けど携帯で連絡しても良かっただろ、次から通信機とか携帯で連絡してくれよなー」
「ありがとう!純!能力者じゃないのに」
滝さんは深く頭を下げた
「…能力者じゃなくても仲間だよ 俺たちは」
純さんは後ろ向きで少し悲しげな顔をして話した
「……純さん…?」
「さ、敵に見つからないうちに帰るぞ」
「純!今度ビール奢るから!」
「3人で飲む日がくるといいなあ」
などと笑いながら純さんの車に乗ろうとした時 やはり感じた
背後から敵の気配を
「……いますよ」
「滝、早く助手席へ乗り込め!このまま瞳の家へ突っ走るぞ!!」
<挿絵>
「分かった!!」
純さんはやや急ぎ気味に瞳さんの家へ向かった
「なんとか巻いたか」
純さんはずっと運転中肩が緊張していた
「大丈夫ですか純さん」
俺は後ろで純さんを心配そうに見ていた
「ああ、大丈夫 ありがとう 敵の気配も感じないな 滝 このまま瞳の家で避難しろ!」
「分かってる! 純、ありがとな」
そういうと、滝さんは駆け足で家へ戻っていった
「やばいな、滝を俺が送ったってことは、敵に俺の存在も知られたってことか…」
「でも純さんは戦えないんでしょう?」
純さんはひとまず自分の車に乗って腕組みをして仰ぎみる
「参ったなあ…仲間を巻き込んでしまうよ敵に見つかったら」
「だから滝さんは、迷った挙げ句に敵になってしまったんですね 敵の技で仲間を巻き込みたくないから」
「大胡 お前は」
突然純さんは俺の顔を見る
「なんですか?」
「お前はなんで、能力者になろうとしたんだ こうなるって分かっていたのか? 滝の存在を知っていたのか?」
俺は黙って首を横に振った
「俺は1人でした 高校生活もずっと1人 誰も仲間も作らないで一人で過ごそうって思ってた けど、貴方や滝さんと出会って仲間が出来た 俺は能力者になって良かったですよ」
「大胡…」
「俺の環境はクズの集まりばかり 高校もそう 1年経たずしてやっと声を掛けてくれたのがあの雅人でした 」
純さんは車のエンジンをかけた
「施設まで送るよ」
「純さんも狙われているのに?」
「施設に行けば、戦えるみんながいるだろ?ここに居るより安全だ」
「了解です!」
俺たちはテレポートを使わず車で能力者施設へ戻った
「リーダーが滝じゃなくて正解だな あいつはどうも、不幸を招く」
司令官は地下の能力増強室にいた
「施設の力がまだ弱い…更に強化せねば」
俺と純さんは智嬉さんに聞いて司令官の居場所を探した
「司令官!」
「おお、純、大胡 戻ったか ご苦労さん」
「敵に、つけられてしまいました」
「とりあえず俺の車で滝は送り届けたよ!」
司令官は床の魔法陣を解いた
「更に施設を強化した 私の能力でな 滝には、情報支部にいてもらう 敵として侵入しているから、アジトのことはよく知っているだろう」
「じゃ、俺はこれで」
純さんは踵を返そうとしたが、司令官に止められた
「待ちたまえ純! やはりトヴァースにはここの世界に長く滞在するには限界があってな トヴァースは私の住んでいる世界の人間だ だから」
「嫌だ!!」
純さんは力強く怒鳴ったが、司令官には1ミリも効いていない
司令官は構わず純さんの肩を叩いた
「リーダーの経験者は君しかいないんだ それに大胡も純のことを気に入ってるみたいだしな」
「滝より力はありませんよ」
「戦う力より、仲間をまとめる力がいるんだよ 今回の敵はな」
純さんは盛大なため息をついた
「ったく、仕方ねぇな やりますか」
ついにリーダーへの決意を固めた