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第8話 教皇様は……



「彼も随分ずいぶん落ち着きましたよ」


 夕方、一人でぼんやりと中庭を眺めていると、そう声を掛けられた。

 振り返ると穏やかに微笑ほほえむ教皇様の姿が。


 彼はそのまま私の隣に座った。



(……近いな)


 隣に誰かがいるなんて今まで無かった。

 だから思わず距離を取ってしまった。


「逃げられると傷つくのですが」

「すみません……」


 目ざとく見つけられてしまった。


 でも、これはもはやくせだから仕方がない。

 パーソナルスペースはできるだけ広めにとっておきたいのだ。


「まあいいです」


 教皇様は呆れたように息を吐いた。


「それよりも、あちらではパーティが開かれているのに。()()が参加しなくていいのですか?」

「うっ……」


 浄化の力を使った後、本当にお祭り騒ぎになってしまった。


 その熱は一向に覚める気配がなく、ついにはパーティを開こうという話になってしまったのだ。


 ララフィーネ伯爵やグレイシスさんの協力もあって、領内から大勢の人たちが集まった。



 当然私はそんな場は絶対にお断り。

 初めの顔見せだけで精いっぱいだった。



 という訳で、疲れを理由に逃げてきたのだ。


「ああいう場は苦手です……。最低限の顔見せはちゃんとやったので……いいでしょう?」


 当初の目的通り、聖女として覚えてもらうための()()()はもう済んだ。


 大勢の人に見られて、話しかけられて……。


 正直のところ、もう疲れ果てている。

 普段使わない愛想あいそを使ったせいで、顔も痛いのだ。



 もしも連れ戻しに来たのだったら、すぐに逃げられるように準備をしなければ。


 私はいつでも走り出せるように腰を上げた。


「ふふ、そう警戒しなくても。別に迎えに来たわけじゃありませんよ」

「……そう、なんです?」


 勘違かんちがいだったようだ。


 安心して腰を落とした。


「ふっ。信じやすい人ですね」

「っ! もしかして嘘でした!?」

「いえいえ。そういう訳では。……今はね」

「今はっ!?」

「あっはは!」


 なんだ。どういうことだ。

 真意がつかめずに目を白黒させていると噴き出された。


(これは……)


「もしかして……からかって遊んでますね?」

「いいえ? なんのことだか」


(絶対にそう!!)


 ニヤニヤと楽しそうに笑う彼は意外とSっ気が強いのかもしれない。

 私の反応を見て楽しんでいるのだ。


 とても聖職者とは思えない。


(ドS系教皇……ってこと!?)


 なにそれ、どんな乙女ゲーム?


 あれは仮想だから需要があるだけで、リアルにいたらすごい怖いんですが。


 もしも地位を盾に命令とかしてきたら、それはただのパワハラなんよ。

 メンタルに大変よろしくないので、一刻も早くやめていただきたい。



 思わず毛を逆立てて威嚇いかくしてしまった。


「ふ、あはは。すみません。つい……反応が面白いので」

「つい、じゃないですよ! もう!」


「すみません。本当は患者さんのお礼を伝えるために探していたんです」

「あっ……」


 瘴魔病しょうまびょうから目覚めた患者さんは、まだしばらく療養りょうようが必要で寝かされている。

 私は騒ぎが大きくなる前に退散したので、直接は話していないのだ。


「今日はよくやってくださいましたね。とても感謝されていましたよ」

「え、本当に?」


 他人に感謝などされたことがない。

 そんな私が?


「ええ、もちろん」

「……そっか。そっかぁ」


 なんだか不思議ふしぎな気分だ。

 温かいような、くすぐったいような。


「ねえ」

「はい?」


「……あの人、もう苦しまなくていいってことですよね?」

「ええ、もちろん。愛する者を傷つけることも、苦しみに身を焼かれることもありません」


「……そっか。よかった」


 自然と笑みがもれる。

 自分にも、誰かを助けることができたんだ。


 なんだかすごく……


(うれしいな……)



 教皇様は意外そうに目を見開くと、やがて私の手をやんわりとつつんだ。


「聖女様」

「え?」

「改めて、この手を取ってくださりありがとうございます。あなたを守り共に戦えること、嬉しく思います」


 ふわりと顔がほころんだ。


 今まで見てきたどの表情よりも優しい。

 慈愛に満ちた笑みだった。



 そして――。


 チュッ


「へぁ!!??!? 」


 可愛らしいリップ音と、手の甲へのぬくもりが……。



 ……え? 何をされた?


 手の甲に……唇が……


「おふぅ………………」

「聖女様!? 聖女様ぁー!!」


 私の意識はそこで途切れた。

 教皇様の慌てた声が、どこか遠くに聞こえた気がした。




 次に起きた時、自分の部屋にいたからたぶん気絶したのだろう。


 敗因、刺激が強すぎた。


 この世界で生きていくにはもっと耐性たいせいをつけなくてはいけないようだ。



 ◇


“神殿に現れた聖女が瘴気を浄化した”


 そのニュースは、すぐさま国中に広がっていったのだった。




ここまでお読みいただきありがとうございました!


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