エピローグ 「ただいま」
熱い雫が頬を伝う感覚があった。
重い瞼を開く。
「エメシア……?」
うっすらと見えたのは、泣き顔のレナセルト殿下。
いつもは無表情のくせに、こういうときは迷子の子どもみたいな顔をするんだな。
そう思うと、笑みがこぼれた。
「……ひど、い、顔」
うまく声が出せずに、途切れ途切れになってしまった。
それでも届いたのだろう。
私は、ここにいる、と。
ぎゅっと抱きしめられた体に、彼の体温が伝わってくる。
存在を確かめるように、きつく腕の中に囲われる。
「…………お前を、失ってしまうのかと思った」
振るえる声で、独白のようにつぶやかれる。
「それが……なによりも恐ろしくて……っ。守って見せると、誓ったのに……」
声だけではない。
体までも震えていた。
やっぱり、守れなかったと悔やんでいたのだろう。
でも……。
「守って、くれたじゃないですか」
知り合ってからずっと。
少なくとも、私はそう思っている。
それに、目を覚ますまで、ずっと名前を呼んでくれていた。
この世界の、私としての名を。
だから戻ってこれたのだ。
「あなたのせいなんかじゃ、ない。……だから、そんな顔しないで」
私が戻ってきたのは、それを伝えたかったから。
いつも一人で背負いすぎるあなたが、これ以上背負いすぎないように。
そして。
「ありがとうございます。呼んでくれて」
一度は眠りにつこうとしていた私を、彼が呼び止めてくれた。
彼の声が聞こえたから、戻りたいと思えたのだ。
なけなしの力を振り絞って、涙を流す彼の頬へ、手を伸ばす。
その手に手を重ねて、より強く抱きしめられた。
鼓動が聞こえて、生きているのだと実感する。
「当然だろ。エメシアがどこにいたって、呼び戻してやる。だって、オレは……お前が……」
涙にぬれた目でも、その奥に熱い炎を見た気がした。
ああ、この光があれば、きっと彼は大丈夫だ。
そう思える、強い意志だった。
なにを思っているのだろう。
続く言葉を待つ。
「ごほんっ!」
突然、隣から大きな咳払いが聞こえた。
「私たちもいることを、お忘れなく?」
セイラス様も、ノクスさんも、良い笑みでこちらを見ていた。
その奥では、ララフィーネ伯爵がジーグ殿下の手当をしている。
皆ボロボロで満身創痍だった。
けれど、ちゃんと生きてここにいてくれた。
それが、飛び上がるほど、嬉しい。
皆のもとに、帰ってこられたのだ。
「だいたいですね、レナセルト。エメシア様を守りたいのなら、兄である私を超えてからにしてほしいんですが」
「は?」
「おや。君を超えたらエメシア様のパートナーと認めてもらえるということか? なら、僕にも勝算はあるな?」
「ああ!?」
3人はボロボロでも元気そうで、仲良く言い合いをしだした。
「……ふふっ」
内容はよくわからないけれど、なんとなく面白くなってきて笑ってしまう。
つられたのか、皆も笑い出した。
ひとしきり笑い終わると、彼らを見回した。
私の帰って来るべき場所を。
そして
「……ただいま!」
「「「おかえり」」」
当たり前のように返ってくる返事が、とても嬉しい。
ほっとした。
そして、同時に思う。
やっぱりこの場所が好きだ、と。
街も、城も。
いたるところが壊れているし、皆ボロボロだ。
やることはまだまだたくさんある。
それでも、皆と一緒なら。
きっとなんだってできる。
だから私は、これからも皆の傍で、この場所で、生き続けていたい。
「……ねえ、皆。私、これからもここにいて、良いのかな?」
返事なんて分かりきっていたけれど、聞かずにはいられなかった。
初めから比べたらだいぶマシになったとはいえ、まだまだビビりのままだから。
それでもそんな私を受け入れてくれる。
そんな確証があった。
「当然だろ」
「そうですね。エメシア様にはいてもらわないと」
「君が率いていく国なら、魔術師も共存できそうだしな」
それぞれがそれぞれの言葉で、歓迎してくれる。
だから、私も言葉にしていこう。
皆のことが大切だから。
伝えられる時間が、とても大切だって、気がついたから。
「ありがとう! 皆、大好きだよ」
今はまだ、皆に対しての思いしか口にできないけれど。
国の問題が片付いたら、あの人への思いも口にしよう。
そう思って空を見上げた。
美しい朝日が昇り始める、夜明けの空を。
暗い夜が終わる。
隠れることのない太陽が、キラキラと輝いていた。
――完――
ここまでお読みいただきありがとうございました!
これにて完結となります!
長くなってしまいましたが、たくさんの方に読んでいただけて、とても嬉しかったです(*´ω`*)
ついてきていただき、ありがとうございました!!
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