第66話 邪神
玉座を壊し終わった邪神が、こちらを振り返る。
虚ろな瞳が私をとらえた瞬間に、怒りと悲しみの色を見せた。
真っ直ぐに、私へと向かってくる。
自分を封印した相手の力を持つ私を、消すために。
邪神を浄化するには、今までよりも遥かに強大な力が必要だろう。
限界まで集中して、時間をかけて練り上げた鳴神でなければ、炎ですら消せない。
だから狙われると分かっていても、丸腰でもその場に立ち、ひたすらに願いを込めるしかない。
(「鳴神」ができあがるまでは、きっと仲間が時間を稼いでくれるから)
そう信じて術に集中する。
だから、今までで、最大の術を。
すべてを、あるべきところへおくろう。
「があああああ!!」
獣のような咆哮が大気をゆらす。
のびた爪が、私を切りさこうと振り上げられた。
――ガキイイィン
金属の高い音がすぐそばで聞こえる。
きっとレナセルト殿下が爪を大剣で食い止めているのだろう。
そのすきに魔術で攻撃を繰り出している音がする。
きっとノクスさんだ。
皆、自分の役目を果たそうと頑張っている。
私も負けていられない。
(その憎しみも、渇きも、痛みも……もう消してあげるから)
雷の光を集めるように、神の力を、すべて体の中に蓄える。
願いを込めると、体は一層光を増していった。
邪神は悲しい神だ。
姉を失い悲しみにくれ、取り戻そうとして兄に封じられた。
すべては兄弟を思ってのことだったのに……。
その怒りも悲しみも、何百年経とうと色あせない。
魔物から果てのない怒りを感じたように、今もその感情に囚われているのだ。
(ずっと、一人で……)
そんな激情を、たった一人で抱え続けなくてはならないなんて、どれほど苦しいことだろうか。
私なら、耐えられない。
愛しい人を、家族を奪われて。
復讐しようとしても、家族にとめられて。
そして痛みを抱えたまま、眠り続けていた。
だから。
「……一人は、寂しいものね」
浄化の力を身に纏い、金色の光で包まれる。
私は――そのまま邪神へと抱き着いた。
「聖女!?」
レナセルト殿下の驚いた声が聞こえたけれど、離すわけにはいかない。
だって。
(これが、一番確実だもの。それに、彼をずっと一人のままにさせるわけにはいかないから……)
私の身に溜まった浄化の力を余すことなく、全て彼にそそぐ。
雷が降り注ぐ目印になるように。
(――私を目掛けて、落ちておいで)
私は、もう覚悟をしているから。
「っ!」
髪が、肌が、邪神の放つ瘴気とまじりあって消えていく。
瘴気と共に、邪神の感情が、記憶が流れ込んできた。
それは、遠い日の3人共にいた記憶――。
(ああ、そっか)
彼は戻りたかっただけなのだ。
兄弟3人が仲良く暮らしていた、あのときに……。
一人は、寂しいから。
(大丈夫だよ。私が一緒に行ってあげる。だからもう、そんなに悲しまないで)
邪神の頭を優しくなでる。
そして最後の言葉を口にした。
国中を包み込むかのような稲光が降ってくる。
白に染まる視界で、レナセルト殿下が手を伸ばして走ってくるのが見えた気がした。
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