第62話 決着
「お前、なぜここに!? お前が向かった先には、フューリの戦闘員と魔物を置いていたはず!」
王妃の金切り声が広間に響く。
くやしさの滲む声だった。
「そんなに驚かないでください。ただ単に、あなたの策を逆手に取っただけです。罠が張られているのは初めから分かっていましたからね」
「バカな! お前は国王を疑っていたはず! だから国王は、ぼろを出さないように動かしていなかったのに!」
確かに、セイラス様は初めから国王と対立していた。
国王に疑いの目が向いていれば、王妃である自分への警戒も薄れると思ったのだろう。
けれどセイラス様は、嘲るような吐息をもらした。
「確かに、私は国王を疑っていました。彼は自分の利に執着していましたから。けれど別に、あなたを疑っていなかったとは言ってません。それに、あなたの敗因は別にある」
「……なに?」
唸るように絞り出される声は、震えていた。
視線はあちこちを彷徨っている。
本当に心当たりがないようだ。
「まだお気づきになりません? レナセルトですよ。あなたは彼を侮りすぎたのです」
「!?」
彼女は目を見開いてレナセルト殿下を見つめた。
フューリを無力化し続けている彼は、ちらりとセイラス様に視線を送ると、ニッと笑った。
「あなた、彼には身の回りの世話をする使用人すら付けなかったそうですね。彼の部屋には、誰も近づかなかった。もちろん、部屋の外に見張は付けていたみたいですが……」
そんなある日、自分の部屋から外に続く抜け穴を見つけた。
抜け穴はずいぶんと古いもので、城のいたるところに繋がっていた。
全ての道を網羅するにはそれなりの時間が必要だった。
けれど彼には時間だけは有り余るほどあった。
「そしてレナセルトは見つけた。あなた達がアジトにしていた地下牢や広間を。その中で、あなた達のたくらみを聞いていたんです」
「バカな! 仮にみつけたとしても、話すときは防音魔術を使っていたはず……!」
「だから侮りすぎだと言っているんですよ」
セイラス様はため息交じりに薄く笑った。
「ねえ、レナセルト」
「ああ」
そのとき、フューリを無力化し終わったレナセルト殿下が、私たちの元へやって来た。
汗を流し、疲れも感じるけれど、その顔はすがすがしいほどの笑みを称えていた。
今までの無表情がウソのようだ。
「何年も、ずっと諦めずに忍び続けた。誰かが油断しやしないかってな。そして決定的な話を聞くことができた。5年前のことだ。お前らは、オレのことを愚かな子供としか見ていなかったけれど、オレは昔からこの国を諦めちゃいなかった。だからこそ表情を消し、秘密裏に動いていたんだ」
5年前。
それは、レナセルト殿下が表情を消した後のことだ。
自分の計画を、誰にも悟らせないために、表情を消し、諦めたふりをしていた。
そういうことだろう。
けれど実際は、微塵もあきらめていなかった。
彼はただひたすら待ち続けた。
そして掴んだのだ。
反撃の糸口を。
「そう言うこと。つまり、あなた達は、レナセルトに出し抜かれた、という訳です。そして私はその情報をもとに、罠にかかったふりをして、あなたの手足をもいで回った。その間、エメシア様の警護を頼んでね」
セイラス様も、レナセルト殿下に負けないほど、黒い笑みを王妃に向けている。
つまり、私が心配することはなかったのだ。
全てが作戦のうちだったのだから。
「まあ、魔術師や第一王子まで絡んでくるのは、ちょっと予想外でしたけどね」
「そうだな。けれど、助かった。ちょうど人手が欲しかったところだからな。さすがにこの数は、オレとお前だけじゃ手に余る」
彼らの視線は、フューリを取り押さえ封じている魔術師達に注がれている。
「ええ、そうですね。この場に来ていない彼らには、神殿勢と一緒にフューリと王妃の悪事を白日の下に知らしめてもらってます。もうすぐ、国中が知ることになるでしょう」
セイラス様を助けにいった魔術師たちは、また別の仕事をしてくれているらしい。
「つまりあなたは、見下していた者達に負けたのです」
地下でこそこそしていると笑っていた「魔術師たち」に。
厄介者と見下し器にするつもりだった「第二王子」に。
罠にはまった愚か者と嘲っていた「教皇」に。
「――残念でしたね?」
今日一番のいい笑顔だった。
煽るための、黒い笑み。悪役顔と言った方がいいかもしれない。
でも、それでこそセイラス様。
お変わりないようでなによりだ。
変なところで安心してしまった。
「……っく、あは! あはははは!!」
突然、王妃は壊れたように笑い出した。
頭をかきむしり、髪が乱れる。
自分の負けを悟ったのだろう。
謁見の間にいたフューリは全て捕まり、操っていた魔物も浄化された。
補給用に作っていたはずの道も結界で阻まれ、追加することもできない。
さらには、自分たちのやって来たことが国民たちに知れ渡っていく。
誰がどう見ても、完全に負けだ。
彼女は泣き笑いの表情で、玉座から崩れおちる。
そして、すぐに取り押さえられた。
終わったのだ。
張り詰めていた空気が、一気に緩んだ。
「なんて様だ、王妃よ」
それがいけなかった。
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