第61話 待ち人、来たり
――魔物の気配と共に、降り注いだ雷の光が消えていく。
どうやら、この場にいたすべての魔物を、浄化できたようだ。
「っ! ぅ……はあ、はぁ」
それを目にした後、襲ってくるのは激しい疲労感。
体中の力が抜けて、立っていられない。
気を強く持っていなければ、意識も失っていただろう。
でも、今は敵の間の前。
寝ている暇なんて、ないのだ。
私は襲い来る眠気を振り払って、地べたに座り込みながらも敵を見た。
「……なんてことっ!? せっかく手塩にかけて育てた魔物たちが……!」
王妃の金切り声に、フューリに動揺が広がる。
そのスキを見逃すレナセルト殿下たちではなかった。
「もらった!!」
ズシャッっという鈍い音と共に崩れていくフューリの陣形。
明らかにこちらが押していた。
あと数分もあれば、全員無力化できるだろう。
「ッチ! まさかこの段階で魔物を全部無くすとは思っていなかったけれど……忘れていない? この国には、まだまだ魔物がいるのよ?」
王妃は血走った目で高笑いをすると、傍に控えていた者達が詠唱を始めた。
私の目の前の空間に亀裂が走り、渦をまく。
「あれはっ! 空間転移魔術か!」
ノクスさんの焦った声が聞こえた。
空間転移というと、前にノクスさんが使っていた魔術と同じものだろう。
瞬間移動のようなものだ。
「どうして結界の中に魔物を入れられたと思う? それはね、内側からザハートにいる仲間と繋げたからよ! 魔物なんて、すぐに用意できるんだから!」
王妃は叫んだ。
言葉の通り、外から魔物を連れてくるつもりなのだろう。
今、また魔物の群れに会ってしまったら……。
しかも、こんな近距離に。
「エメシア様! そこは危険だ! 逃げてくれ!」
「聖女! 逃げろ!!」
仲間たちの焦った声が飛ぶ。
けれど……。
「っう」
理解していても、鳴神を使った反動を受けている体では、立ち上がることすらままならない。
ざあざあと霞のかかった頭では、どうすればという言葉だけがまわった。
「アハハハ! さあ魔物たちよ! 聖女を喰らえ! そうして邪神を蘇らせるのだ!!」
亀裂が鳴る。
闇色のその先で、何かがうごめいたのが見えた。
(あぁ、皆だけは守りたいのに……)
どうやら、私はここまでのようだ。
ぎゅっと目を閉じる。
「魔物は、きませんよ」
そのとき、聞きなれた優しい声が聞こえた。
次いで、頭にわずかにかかる重みと温かさ。
私は、この温度を知っている。
「…………セ、イラス様?」
顔を上げると、そこにはやはり、彼がいた。
「ええ。私たちがくるまで、よく耐えきりましたね」
いつも通りの穏やかなほほえみと、心地の良い声が、確かに彼だと物語る。
彼が、いる。
たったそれだけなのに。
安心感が広がり、目に熱いものがこみ上げた。
「あぁ、ほら。泣かないで」
「……だって」
セイラス様は、死地に向わせられたと聞いていた。
もしかしたら何か策があって、向かったのかも。
そうじゃなくても、魔術師たちがきっと連れ帰ってくれる。
そう思っていた。
けれど。
「心配……。心配、したんですよ。……もう会えないのかもって」
何も知らずに、罠にはまっていたとしたら?
救助が間にあわなかったとしたら?
不安は常にあった。
仲間を信じていても、「もしも」を考えてしまう。
それは仕方のないことだろう。
「心配させて、すみません。……でも、言ったでしょう? 何があっても、あなたを守る、と」
「……っ!」
「不穏な動きを見せていた者たちがいることは分かっていた。だからこの戦いに参加させないために、罠に掛かったふりをしていたんです。あなたが……いえ。皆で、生き残れるように。もう大丈夫ですよ」
優しい手つきで頭をなでられる。
(やっぱり、セイラス様は罠に掛かっていなかったんだ)
安心が心を満たす。
その間にも、亀裂から味方の魔術師や神官たちがぞくぞくと出てきて、戦っているレナセルト殿下達に加わっていった。
「さて、残るは……」
セイラス様は玉座を振り返る。
「王妃だけ。長い支配を終わらせるときが来たのです」
そういう彼の目には、最後の敵が映っていた。
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