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第59話 ラーシェ・トゥル・アルカディエ



 不気味ぶきみなほど静かな廊下ろうかを走り抜け、私たちは謁見えっけんへとたどり着いた。



 ランプも灯されていないそこは、普段であれば厳重げんじゅうな警備と王が待つはずの場所だ。

 けれど玉座には、王ではなく一人の女が座っていた。



「あら、にえがのこのことやってきたのね。歓迎するわ」



 ――ラーシェ・トゥル・アルカディエ


 王妃にして、国家転覆(てんぷく)目論もくろむフューリのボス。



 彼女は当然という顔をして、ニコリとほほえんで見せた。


 本来の主である国王は、床にぐったりと倒れて動かない。

 明らかに異常事態だった。



「……父上に、何をしたのです?」

「それを知ったところで、どうするのかしら」


 レナセルト殿下が問うも、王妃はただ笑みを深めるだけだ。


「まあでも、冥途めいど土産みやげに教えてあげましょうか。……ワタクシは嫁いできてからずっとこの()()()()に暗示をかけていたの」


 明らかに侮蔑ぶべつが込められたもの言いは、自分が王よりも偉いのだと思っていることを如実にょじつに表している。


「暗示……?」

「ええそうよ。ワタクシたちのいうことを聞きたくなるような、ね」

「精神に干渉かんしょうするということか……? だが魔術にはそんなもの、あるはずが……」


 ノクスさんがいぶかしげな声を上げた。


 確かに、魔術は自然の力を使うものだと聞いている。

 人を操ることなどできるはずがない。



「魔術ではできないかもね。でもワタクシたちの神からのめぐみなら、可能なのよ」

「フューリの神? ……まさかっ!」

「あら、さすが本家のご当主は気がつくのも早いわね」


 王妃は楽し気に笑い声を上げた。

 対するノクスさんは冷や汗を浮かべている。


 いったい、どういうことだろうか。


「分かっていない者の為に教えてあげる。ワタクシたちの神は『邪神』様。その邪神様から生み出された魔物まものは、()を放っていたかしら?」

「何って……っ!」


 嫌な予感がした。


 だって、魔物から放たれるものと言えば――瘴気しょうき

 瘴気は「()()()()()()()」ものだ。


 精神が壊されて発症する()を、私は知っていた。



「まさか……」

「うふふ。気がついたみたいね? そう。瘴気を使って、精神を少しずつ壊していくの。貴方たちが瘴魔病しょうまびょうと呼んでいるのは、ワタクシたちの実験ででた()()()よ」

「っ!?」


 衝撃しょうげきの事実に頭が真っ白になる。

 だって、多くの人が苦しんでいた病気が、人為じんい的なものだと言われたのだから。


「あ、なた。何を……言っているか、分かっているの!?」


 失敗作。

 その言葉が表すことは、彼らは人間を、消耗品しょうもうひんと考えているということ。


 壊れたら、替えの効く()()のように……。



「人をなんだと……! そんなこと、許されるわけない!」


 思わず叫んでしまう。

 腹の底から怒りがわいてきた。



 その人にはその人の家族が、友人が、人生があったのに。

 ゴルンタで救った、ジュリアの父親を思いだす。


 友人も、我が子ですら分からずに傷つけ、自分自身も傷ついて……。


 いったい、どれほどの悲劇ひげきを生んできたことか。



「あんたの許しなんて必要ない。魔術も力もない、ただの人間をどう扱うかなんて、ワタクシたちの自由じゃない。有効活用してあげたのだから、感謝して欲しいくらいだわ」


 王妃は楽しくてたまらないというかのように目を細めた。


 頭の血管が切れそうなほどの嫌悪けんお感を感じる。


 この女は放っておいてはダメだと、本能が叫んでいた。



「まあいいわ。もうすぐ、国王できのぼうを操る必要もなくなるのだから」


 ふいに、ひどく無機質むきしつな視線が向けられる。

 人ではない、道具に向けられる目だ。


 彼女にとっては、自分たち以外は等しく道具でしかないのだろう。



「さあ、ジーグ。早くこっちにいらっしゃい。貴方が王になれば、我らフューリの念願も叶うのだから!」


 夢を見ているような表情だった。

 ようやく念願だった国が手に入るのだと、信じて疑わない目だ。



 けれど。



「……俺は、いきません」

「……なに?」


 ジーグ殿下はきっぱりと断った。

 真っ直ぐな目で王妃を見返す。


「俺は王位などいらない。邪神の復活など、どうでもいい! 俺にとって大事なのはレナセルトだけだ! 俺から弟を奪おうというのなら、母上と言えど、容赦はしない!」


 彼はもう、覚悟を決めていたのだ。

 自分よりも、弟のことを気にかけてしまう兄が、弟を害す王妃の手をとるわけがない。



「……はあ。わがままをいうのはやめなさい。()()()()()()()()()。それがあなたの存在意義よ。聖女も教皇も、邪魔な厄介者たちも、全て片付ければ終わりなの。分かっているでしょう? 国中がそいつらの敵になっているって。もうおしまいなのよ?」


 王妃は面倒めんどう臭そうにため息をついた。

 恍惚こうこつとした表情が、一気に温度のないものとなる。


「いいえ、母上。俺は……もう、あなたの隠れみのはやめる。そう決めた。あなたと、フューリの罪を、白日はくじつの下にさらす。そしてもう終わらせるんです!」

「……ああそう。ならもう、()()()


 王妃は心底しんそこどうでもいいという顔をして、手を上げた。

 無数の火の玉が浮かび上がる。



「思い通りにならない子供(道具)なんて、いらないわ。まったく、もう一人子供ができていればお前など、すぐににえにしていたというのに。うまくいかないものね。……まあいいわ。国王も王子もいなくなれば、必然的にワタクシが女王として国を納めることになるもの」


 にやりといびつな笑みが浮かぶ。

 どうやら彼女にとってはジーグ殿下ですら、こまの一つだったようだ。


(ヒドい……)


 不快感ふかいかんが胸に広がる。

 それは私だけではなかったようで。



「オレは、貴様が国を納めるなど許さん」



 低い、怒りのこもった声が聞こえた。


「オレのみならず、民を、兄上を、国の全てを食い荒らす貴様らは、今ここで始末しまつする」


 レナセルト殿下だ。

 いつも無表情な顔には、今は激しい憤怒ふんぬが現れている。

 手にした剣を真っ直ぐに王妃に向けた。


 彼のいう通り、全ての元凶げんきょうはこの人だった。


 レナセルト殿下がしいたげられてきたのも。

 金目政策きんめせいさくなんてものが始まり、国が滅びかけているのも。

 ジーグ殿下が苦しんできたのも。


 全て。


 ここで食い止めなければ、悲劇は終わらない。



 レナセルト殿下に応える様に、皆が戦闘態勢に入る。

 国を救えるかどうか、最終決戦がはじまるのだ。




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