第6話 瘴魔病(しょうまびょう)
案内されたのは薄暗い、6畳くらいの部屋だった。
入口に“薄い黄色の膜”が張っていること以外は普通の部屋だ。
人さらいたちから助けてもらった時、教皇様が使っていたものに似ている。
これは……。
「結界?」
「ええ。こうして隔離しているんです」
「隔離?」
先ほど「なんとか病」と言っていた。
病人を隔離しているということだろうか。
(個室に隔離されて結界まで張られるとか、一体どんな患者?)
中をのぞくと、壁際に置かれたベッドには男性が寝かされていた。
よく見ると男の人は、手足をベッドに縛り付けられていた。
それに、体には赤黒い斑点が浮き出ている。
そこから、黒いモヤが立ち上っていた。
「な、なんですか、あれ!?」
「あれは瘴魔病。魔物の放つ瘴気に当てられると陥る病です。治ることはなく、放っておけば確実に死に至ります」
教皇様は私の手を離させて、ためらいなく足を踏み入れていく。
ブオンと結界を通り抜ける音がした。
「ちょっ! だ、大丈夫なんですか!?」
「心配いりません。我らは瘴気に耐性を持っていますから。……ですが少し危ないので、あなたはそこで待っていてくださいね」
「え?」
言葉の真意がつかめずに彼を見る。
危険とは何のことだろうか。
――ガタアアアン!!
「うおおおおああああ!?」
そう思ったのもつかの間。
突然の大きな音に驚いて飛び上がった。
目を向けると、ベッドに横たわっていた男の人が暴れているところだった。
「ヴアアアアア!!」
ガタンガタン。
縛り付けられていてもベッドごと破壊しそうな勢いだ。
「えっ!? えっ!? な、なに!?」
「瘴魔病は人の精神を少しずつ壊していく。ゆえに進行が進むとこのように狂暴化し、人を襲うようになる。治療法はありません。ですが、私にはこの症状を抑える力があるのです」
教皇様は平然と男性に近づき、そっと手をかざして口を開く。
『わが身に宿る癒しの力よ。かの者に光を』
呪文のような。
祈りのような。
そんな言葉を受け、ぽうっと柔らかい黄色の光が男性を包む。
その光は、どんどんと患者の体の中に入っていく。
それと同時におとなしくなった。
そして数秒もすると、体に浮かんでいた赤黒い痣も薄れていた。
「すごい……」
思わずそう零してしまう程神秘的な光景だった。
「あれが歴代教皇の中で最強といわれるセイラス教皇聖下のお力……」
入口で様子をみていたグレイシスさんがぽつりとこぼした。
「……歴代最強?」
気になるワードがでて、つい問い返してしまった。
グレイシスさんの切れ長の目がこちらをむく。
「ええ。瘴魔病の進行を止めるのは、ベルタード教と言えど不可能だと聞いています。僕も詳しくはないのですが……」
「そうなんですよ。でも、あのお方だけは押しとどめられるほど強い力を持っているんです! 我々など、束になってもあの方の足元にも及びません!」
グレイシスさんに視線を向けられた神官が言葉を引き継いだ。
目の前の光景に興奮しているのが伝わってくる。
「浄化こそできないですが、緻密な結界操作で体内の瘴気を抑えているのだとか!」
「へぇ……」
興奮しているところ悪いのだが、結界の操作だの瘴気を抑えるだの言われても。
正直、どう凄いのかパッとしない。
「王都の結界をお一人で維持されている、といえばお分かりになりますか?」
そんな空気がもれ出ていたのだろう。
神官さんは少し考えて、そう口にした。
「え、ひ、1人で?」
「はい! 通常、教会では3,4人の神官が結界に力を注いてやっと維持できます。それでも王都の結界のように頑丈なものにはできませんが……。つまり、セイラス様の神聖力は質・量ともに最高級のものということです」
「え、やば……」
物腰はおだやかだし、ちょっと親しみやすさを感じていたけれど。
(もしかしなくても、気軽に話しかけていい人じゃないのでは?)
ごくりとツバを飲み込む。
よくよく考えてみれば教皇って相当の地位だったはずだ。
今更ながらに気が付いてしまった。
「……」
行きの馬車での無礼を思いだす。
かなりひどい会話をしたような……。
(……これからはちょっと礼儀正しくしよう)
いまさらだと思うけれど。
私はそう心に誓った。
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