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第56話 幼いころの記憶 sideジーグ


 


 初めてレナセルトのことを知ったとき、この子だけは守ってやりたいと、そう思った。




『いいですかジーグ。この国はいずれ、お前のものになる。だから賢く立ち回りなさい』

『いいですかジーグ。この母の役にたつのです。それがお前の役目。生まれた意味なのです』

『いいですかジーグ。お前は誇り高きフューリの王子。魔術まじゅつを扱えるようになりなさい』


『はい、母上』


 幼いころ、俺は母上の言葉を何一つ疑わなかった。

 自ら進んで母上の役にたとうと、ほめてもらおうと頑張っていた。


 言われた通りに学び、立ち回り、()()を果たしていた。

 あのころは、それが全てだったから。



 けれど7歳のとき、好奇心こうきしんに負けた俺は、近づくのを禁じられていた地下へと入った。




 そこにいたのがレナセルトの母親だった。


 彼女はレナセルトによく似た深紅しんくの髪と、翡翠ひすいの目を持っていた。

 あまりにキレイで、天使だと思ったことをよく覚えている。



『お姉さんは、どうしてこんなところにいるの?』

『……』


 壁につながったくさりが音を上げるだけで、彼女は何も言わなかった。

 ただ強い光を宿した瞳で、じっと俺を見ていた。



『そこでなにをしているのです、ジーグ』

『!』


 ふいに母上の声が聞こえた。

 言いつけを破って入り込んだのがばれてしまったのだ。


 怒られると思った。

 だが母上は、ひどく愉悦ゆえつに歪んだ顔で彼女のことを教えてきた。



『あの女は()()()を産むための道具。情など不要。どんな扱いをしても許される』


 そういいながら、赤毛の彼女を痛めつけ始めたのだ。


 幼い俺の、目の前で。



 そのとき初めて、王妃の異常性を理解した。

 怖かった。逃げ出したかった。けれど、体は固まってしまって動かない。


 そして、さらに驚くことを口にしたんだ。


『生まれた子が10を超えれば、我らが神に捧げるよい()になるでしょう』

『喜びなさい。()()()()()()()その身を捧げてくれる子を産んでくれたのだから』



 俺に弟がいるのだ、と。

 4つになる、レナセルトが。


 レナセルトは、邪神を降ろすための器になるために生まれてきた子だった。


 そのとき言われた言葉で、俺はようやく母上の心の内を知った。

 レナセルトが生まれてこなければ、()()()()()()()()()()()()()()()のだと。


 母上は俺のことを、()()としか見ていないのだと。



 役目を果たせない者は、使い捨てられる。

 役目を果たしていても、気まぐれに捧げられる。


 直感的にそう感じた。


 逃げられるのなら、逃げ出したかった。

 だから俺はレナセルトに会いに行った。



 王妃の子の自分ですら、明日をもしれぬ身。

 だったらせめて、弟というものがどんなものか知りたいと……。


 それは初めて持った、小さなわがままだった。




 レナセルトは乳母うばと、この城で最も地位の低い下男げなんに育てられていた。


 母親と同じ赤い髪に、翡翠の目をした、玉のように可愛い男の子。

 何も知らない、弟。

 生まれてきてしまった、かわいそうな子。


 その姿を目にした瞬間、涙がこぼれた。

 母の言葉をきき、絶望していた時すら流れなかった涙が。



 自分と同じく、道具にされる為に生まれてきた子。

 なにも分からないまま、死に絶えるのを待つだけの子供。


 母から離され、離されて。


 それなのに、無邪気むじゃきに笑うあの子を見たとき、守らなくてはと思ったのだ。


 なにも知らないままでいてほしい。

 歪んだ国の、王家のことなんて……。



 本当は自分もそうやって生きていたかったけれど。


 自分はもう、この場所での生き方しか知らない。

 自分はどうあがいても、ここから離れられない。


 母上の呪縛じゅばくは、すでに深い部分まで食い込んでいたから。



 だったら、せめて。

 あの子だけは守りたい。


 どうすればいいのかなんて分からないけれど、母上から、彼を取り巻くすべてから、守ってやりたい。



 幼いときはその方法が分からず、レナセルトに近づいて、赤髪の彼女を葬る口実を作ってしまった。

 王妃は、俺があの親子に近づくことをよしとしなかったから。


 だから、離れることにした。

 距離をおいて、バカなふりをした。


 優秀なままでは、ダメだった。

 王子のスペアがいると思われるくらいに、バカなふりを、愚かな者にならなくては。


 でないと、弟は……。




 勉強から逃げ出し、人を見下し、問題行動に走る。


 そうしていると、父上が頭を悩ませ始めた。

 俺を王太子にすることに抵抗を覚え始めたのだ。


 そして白羽しらはの矢が立ったのが、レナセルトだった。


 目論見もくろみ通り、弟は10歳を超える年になっても、王位継承おういけいしょうのスペアとして生きていられた。



 もちろん母上はそれに反発し、排除しようとした。

 そのたびに、()()を装って計画が崩れる様に動きつづけた。


 時間をかけて練り上げた計画を、アホで間抜けな子どもが全て台無しにする。

 フューリのやつらからしたら、うっとうしいことこの上もなかっただろう。


 俺が母上の……フューリのボスの子どもでなかったら、すぐにでも消されていたに違いない。


 そうやって10年以上守ってきたのに……。



 聖女が現れたことで、全てが変わってしまった。


 今まで誰も頼ることのなかった弟は、いつの間にか失った表情を取り戻していた。

 聖女について回るようになり、俺から遠ざかった。



 俺の目の……手の届かないところへ……。



 だから王妃の計画を阻止できなくなった。


 今では弟は捕まり、聖女もこうして牢にいる。

 もう庇うことすら難しい。


 それに国中があいつの敵となった今、逃がしたところで生き残ることなどできないだろう。



 それならば……聖女を盾にしてでも、レナセルトを奪い取る。


 母上は絶対に首を振らないだろう。

 下手をすれば、俺も()()()にされる可能性はある。


 だが、それが何だというのだ。


 あいつが生き残れるのであれば、俺はなんでもやってやる。

 それが――俺の生きる意味だ。




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