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第54話 裏切り者は?



 氷の木を抜け、ゴルンタへ出た。


 聖木の広場から少しだけ離れた場所のようだ。

 大きな根でおおい隠された扉は、街に住んでいても気がつかないほどたくみに隠されていた。



「ゴルンタの魔石は、街の北側のはじ。その根元にある。まずはそこへ向かおう」

「わかりました。……あれ?」

「どうした?」


 ふと、街にいくつもの灯りが付いているのが見えた。

 もう遅い時間だし、眠りについている人が多いはず。


 けれど今は、多くの明かりがゆらゆらと揺れていた。

 灯りを持った人があちこちを行ったり来たりしているのだ。


 まるで……なにかを探しているかのように。



 あの光を見ていると、なんだか変に心がざわつく。


「……なんだか、街の方が騒がしいな」


 私の視線に気がついたのか、ノクスさんも警戒色を強めた。



 この時間に多くの人が外に出ている。

 その普通ではありえない光景に、何かが起こっている。そんな気がするのだ。



「……なるべく見つからないように移動しよう」


 聖女と黄色の目の集団。

 確かに目立つ。


 隠密おんみつに動く必要がある以上、慎重しんちょうにならざるを得ない。


「こっちの道は、知っている者も少ないはずだ」


 ノクスさんの指さす道は、忘れ去られた道だった。

 手入れがされずに、木の根や植物がたくさん生えている。


 私たちはその中を進んでいった。




 崩れた石をよけながら途中まで進んで行く。

 と、そのとき。


「聖女様!」


 明かりもともさずに、真っ直ぐと走ってくる気配けはいがあった。

 その声は聞き覚えのあるものだ。


「ジュリア?」

「お願い、すぐに逃げて!」

「!?」


 もう一度聞こえた声は、やはり彼女のものだ。

 切羽詰せっぱつまった様子で、私のところにたどり着く前にそう告げられた。


 いったい、どういうことだろうか。


「ど、どういうこと?」

「聖女様が、魔術師と繋がって国家をあざむいたって……、偽の聖女だって! 城の兵たちが探してる!」


 ジュリアはそこまで言うと激しく咳き込んだ。

 さあっと血の気が引いていく。


「聖女様が偽物なんかじゃないことは分かっている。だから街の人たちも反発はんぱつしたんだけど、意義を唱えた民は強引ごういんに抑え込まれちゃって……。皆、家族や友人を盾にされてる。偽聖女をだすか、死ぬかって……」

「!」


 ジュリアは咳が収まると、息も切れ切れにそう訴える。

 本当なら一大事だ。



「まて。君、なんで聖女様の居場所が分かった?」


 ノクスさんが前にでた。

 ジュリアも捕えに来たのではないかと思っているようだ。


「街の様子がおかしいと分かったら、普通の道は使わないでしょう? そうじゃなくても、聖女様なら人目を避けると思って。だから、待っていたの。この道は、父さんと仕事の材料を集めるときに見つけた場所で、知っている人は少ないはずだから……。それよりも、お願いだから早く逃げて!」


 ジュリアはノクスさんの警戒にも怯えなかった。

 どうやら、この道を通ることにかけていたらしい。


 彼女は息を整えると、泣きそうな顔で私を見つめた。



「聖女様は誰にも見つかっちゃダメ! だって、あたし、聞いちゃったの! 兵士たちが、聖女様の話なんて聞かずに処刑しょけいするって……。王様に突き出すまでいたぶるって! そんなの嫌だよ! 聖女様に痛い思いなんてしてほしくない!」


 ジュリアはついに泣きだした。

 逃げて、逃げて、と訴えてくる。



 頭を金づちで殴られたようだった。

 呆然ぼうぜんとした頭で考える。



 どうしてこの場所(ゴルンタにいること)がわかったのだろう。


 だって、いくら何でも感づかれるのが早すぎる。

 初めからゴルンタを包囲ほういしていないと、こんな短時間で村人を制圧なんてできないはず。


 それに魔術師の里がゴルンタにつながっていることなんて、同じ魔術師しか知らないはずだ。

 それなのに、すでにこの街は包囲されている。


 それは、つまり……。



「話が進みすぎているな……。裏切り者が……?」


 ノクスさんもその可能性を考えているようだ。

 険しい顔で考え込んでいる。


 ともかく、今はここを早急そうきゅうに離れなくてはいけないことは間違いない。


「ジュリア、教えてくれてありがとう。あなたはもう戻りなさい。私たちといるところを誰かに見られたら」


 街の人ならばまだ良いだろう。

 けれど、もし兵士にでも見つかったら。


 ジュリアも無事ではすまないはずだ。


 ジュリアはそれでもしぶっていた。

 私を心配してのことだろう。


 優しい子だ。

 だからこそ、まきこみたくない。


「大丈夫。皆が苦しむ必要がないように、終わらせてくるから!」


 安心させるように、私はニコリと笑う。

 誰がこの国をこんな状態にしたのか、もう分かったから。


 だからその元凶げんきょうちにいくのだ。



 ◇


 ジュリアと別れた私たちは、人目につかないように歩き続けていた。


 けれど、誰の目にも止まらずに移動することはできなかった。

 街中の人が私を血眼で探していたからだ。


 結果、兵士たちに見つかってしまった。

 もう少しで魔石に辿りつくところだったけれど、あっという間に囲まれてしまう。


「そっちに行ったぞ!」

「どこに隠れやがった!」

「探せ! まだ近くにいる!」


 怒号どごうが飛び交い、かがり火を持った兵士たちが走り回る。

 何かを燃やす音まで聞こえてきた。


 恐らく、街を焼いてあぶりだそうとしているのだろう。


(ここまでするなんて……!!)


 兵は民家に火をつけた。

 私たちを見つけ出すために、民のことなんて考えていないのがよくわかる。


「聖女。これでは見つからずに魔石まで進むのはムリだろう。だから今から先にお前だけ次の街に送る」

「でも!」

「今、君が出ていけば、それこそやつらの思うつぼだぞ」


 ギリっと拳が音を立てる。


 彼らのことは許せない。

 本当は今すぐにでも出て行って、止めたい。


 けれどそれはできない。

 ここで私が捕まれば、より悲惨なことが国中で起こるだろう。


「僕も足止めしたらすぐに向かう。消火もできる限りしていく。君は、とにかく先を急ぐんだ」

「……わかりました」


 私が残っても魔術師みたいに、何かができる訳でもない。

 私にできるのは、邪神に備えることだけなのだから。


 だから罪悪感に苛まれつつも進むしかないのだ。


「――いたぞ!」


 兵の怒号が聞こえた。

 どうやら見つかってしまったようだ。


「ッチ!」


 ノクスさんは部下たちに命令を出して、本を開いた。

 白の光が私を包み込む。


()()()()()()()()()()に送る! ここで知ったことを伝えてくれ!」

「わかりました!」


 その言葉を最後に、白い光に包まれた私の視界はぐるんと回った。


 ◇


 目を開けると、どこかの屋敷の中だった。

 恐らく、ララフィーネ伯爵の屋敷なのだろう。


 けれど、部屋の中はシンと静まり返っていて、人の気配がない。


 薄暗い部屋の中、とにかく起き上がろうとする。


 ――カツン


 その時、固い足音が聞こえた。


 振り返ると、老紳士・ララフィーネ伯爵の姿があった。

 初めて会ったときからノクスさんと共にいたので、彼も魔術師なのだろう。


 だとすれば、ゴルンタの街を助けに行ってほしい。

 とにかく、先ほどのことを伝えなくては。


「あぁ、よかった! じつは……っ」


 けれど、私の言葉はそこで途切れた。



 口と鼻を覆うように、布を押し当てられたのだ。


 変に甘い香りがする。

 吸ってはいけない。


 そう直感が告げてくる。


 抵抗しようとした。

 けれど。


 ぐらりと、体が重くなる。

 力が入らない。


 意識が、朦朧もうろうとしてきた。

 目の前にいるララフィーネ伯爵の顔が、歪んで見える。


(まさ、か……裏切り者は……)


 そこまで考えたけれど、どうすることもできなかった。


 ただ意識を失う直前、誰かもう一人の足が見えた気がした。



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