第53話 封印場所
私たちは魔術師の隠れ里を後にし、二手に分かれることになった。
1班は王宮での決戦へと向かう部隊。
もう1班は死地へと送られたであろう神殿勢の加勢、救出をする少数精鋭の部隊だ。
レナセルト殿下も、セイラス様も、諦めたくない。
そんな私の願いを、里の魔術師たちは聞き入れてくれたのだ。
「聖女。君は僕と一緒に王宮へ向かうぞ」
「え? で、でも」
正直、私に戦闘力はない。
王宮に向かうということはすなわち、フューリと戦うということだ。
対人である以上、私はどうしても足手まといになってしまう。
それなら、セイラス様を探しに走った方がいいのではないだろうか。
「あっちは探知魔術を用いて迅速に動く必要がある。君には向かない仕事だ」
「……っ」
自分が戦力外なのは分かっているが、面と向かって言われると、不甲斐なさがこみ上げてくる。
「だが、こっちには君にしかできない仕事がある」
「え?」
「むしろ、君がいなければ、勝機はないだろう。君はこの勝負のキーパーソンだ」
「……私が?」
「ああ」
ノクスさんは何の疑いもない目で私を見ていた。
確実に、私を必要としている。
――こんな私を。
(……私にできることは、ないと思っていたけど)
でも、そうじゃない。
こんな私でも、できることがある。
そう分かった瞬間、胸に熱いものがこみ上げた。
「――分かりました! がんばってみせます!」
私にできることがあるのなら、なんでもやってみよう。
そう覚悟を決めた。
「いい返事だ。……作戦だが、内部を探ってみて分かったことだが、恐らく、邪神復活の為の儀式は王宮内で行われている」
「内部で……? でも王宮は、セイラス様の強固な結界の中のはずじゃ……」
「ああ。僕も最近まではそう考えていた。結界は魔物や瘴気を中に入れない為のものだとな。けれど、王都のものに限っては違った。……ではなぜ、そんなにも強固な結界が必要だったと思う?」
「……まさか」
嫌な考えが浮かんだ。
どこよりも強力な結界が必要な理由。
外の結界を破って魔物が入ってくる理由。
アルカディエだけしか襲われない理由。
それは……。
「邪神が、王都に封印されているから……?」
近くにいる人間を襲う習性だからこそ、結界を破ろうとしているのかと思っていた。
けれど、それならアルカディエ以外が狙われてもおかしくない。
けれどそんな話は聞いたことがなかった。
「正解だ。さすがにはっきりとした場所は分からなかったが、恐らくは王宮のどこかに、邪神が封印された媒体があるはずだ。フューリも、まだその場所は分かっていない。だから奴らが見つける前にことを起こす必要がある。だが……万が一、先を越されれば、邪神と戦うことは避けられないだろう」
とんでもない事実に、軽くめまいがおきる。
でも、確かに。
邪神は荒ぶる神。
魔物や瘴気を生み出す親玉だ。
瘴気だけでも耐性がなくては戦えないし、魔物は強靭な肉体を持ち戦闘力も高く厄介だ。
その親玉である邪神の力は、言うまでもないだろう。
普通の人では、戦闘にすらならない。
なにせ、邪神と戦って打ち負かしたことがあるのは、雷神ベルタード様だけなのだから。
私には、その力が宿っている。
邪神を止められる可能性があるとしたら、「聖女」の私だけだろう。
(必ず、止めてみせる!)
私は覚悟を決めた。
◇
少数精鋭の皆を送りだすと、私たちも作戦を開始した。
「まずは里の外、ゴルンタへと向う。その後、国中に設置してある転移魔石を乗り継いで王宮へと入る」
転移魔石とは、ワープゲートみたいなものだ。
転移魔石で飛べる場所は、1つにつき1カ所。
例えば、里の氷の木に備わった魔石からはゴルンタにつながり、ゴルンタにある魔石からは次の経由地へとつながる、という感じだ。
つまり、いろんな街を経由しながら王都へと入ることになる。
「ノクスさんの転移魔術は使わないんですか?」
「あれは数人しか運べないからな。それに魔力の消費が激しい。いざという時の緊急用だ」
「そうなんだ」
大人数で向かう必要がある以上、少し面倒でも転移魔石を使った方がいいとのことだ。
魔術もなんでもかんでも自由にできる訳ではないらしい。
「僕と聖女は先に王宮に侵入する。お前たちは後に続き、攪乱を頼む」
ノクスさんからの指示に、魔術師たちはうなづきを返した。
私たちがレナセルト殿下を探している間、フューリに気がつかれないようにしてくれるのだ。
その後のことは、まだ分からない。
けれど、迷っている暇などない。
今は、一刻を争うのだ。
私たちは一斉に走り出した。
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