第40話 パーティー会場
『聖女様、並びに教皇聖下のご入来です!』
そのアナウンスと共に扉が開かれる。
会場は、光が満ち溢れていた。
煌びやかにセッティングされた広間。
豪華な食事が振舞われているテーブル。
集まった人々も、皆キラキラしい衣装をまとっている。
その会場中の視線が、私へと注がれた。
(う……)
好奇、期待、品定め……。
それらがないまぜになったかのような視線だ。
当然ながらそんな視線を浴びたらたじろぐに決まっている。
私は思わずセイラス様の背に隠れた。
エスコートの腕に引っ付いている形だ。
やっぱり全力で仮病を使えばよかった。
水風呂に入って放置すれば、熱くらい出すことができたはずだ。
今更ながらに後悔する。
(大丈夫です。さあ、私についてきて)
私にだけ聞こえるようにつぶやかれた。
見上げれば穏やかな笑みが見える。
「周りが気になるのなら、私のことだけ考えていてください」
「!」
そういうセイラス様の顔は、どことなく嬉しそうだ。
……今日の彼は、やはりいつもと何かが違う。
見ていると、心臓が騒がしくなるし、恥ずかしくて顔が見られない。
でも、嫌な気分ではないのが不思議だ。
「行きましょうか」
彼に導かれて階段を降りていく。
会場からは「ほら、ご覧になって」とか「まあ……」という声が上がっていたけれど、今はそんなこと気にしていられない。
私の頭を占めるのは、いつもと何が違うのか、どうして心臓がこんなに騒ぐのか。
そんなことばかりだった。
◇
「聖女様! お初にお目にかかります!」
「私はグラン伯爵家の――」
「お召し物、とても素敵ですわ!」
「う……あ、は、はは」
入場が終わるとすぐにご令嬢たちに囲まれた。
大方、「聖女とお近づきになれ」とでも言われているのだろう。
私は張り付けた笑みで接していた。
もちろん、ちゃんとした笑みではない。
頬は引きつっているし、目も痙攣しそう。
間違いなく酷い笑みだ。
それでも笑みを絶やせないのは辛いところだ。
(早く一人になりたい……)
王族が入場してダンスが始まれば、こうして人に囲まれることも終わる。
そうなれば、こっそり休憩室に避難でもしよう。
あと少しの辛抱だ。
ちなみにセイラス様はセイラス様で、別の集団に囲まれていた。
普段社交の場に出てこない教皇が、王族主催のパーティーにいるのが珍しいのだろう。
男にも女にも、すごい数に群がられていた。
それでもにこやかに対話を続けている。
私にはまねできそうにない。
「聖女様、聞きましてよ? なんでも第二王子殿下と教皇聖下から求婚されているとか!」
「あ、わたくしも気になっていましたの!」
「お美しい聖女様ですもの! そりゃあ殿方が放っておきませんわ!」
私の周りに集まった令嬢たちは、やはりというか、その話題の真偽が気になって仕方がない様子だ。
全力で聖女を持ち上げておきながら、聞き出そうとしてくる。
「あー……えっと。わ、私にはもったいないお話ですので」
「えー! お似合いですのに!」
「そうですわ! 今一番の話題でしてよ? 聖女様がどちらを選ぶのか!」
「わたしは教皇聖下がよいと思いますわ!」
「あら! 第二王子殿下も遠目から拝見しましたけど、とても麗しい方でしたわよ? 魔物を退けた功績もありますし」
令嬢たちは興奮した様子でキャーキャー言っている。
ついていけないから勘弁してほしい。
「いや……私は、今のところどちらとも……」
「「「えーーー!?」」」
「……はあ」
本当に勘弁してくれ。
思わず死んだ顔になってしまう。
なおも追求したそうな令嬢たちだったが、ちょうど国王たちの入場のアナウンスにかき消された。
国王と王妃が入ってきて、スピーチが聞こえてくる。
私は一つ息を吐き、気合を入れ直した。
だって、本番はここからなのだから。
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