第39話 おめかし
「ドナドナ~。はあ、もうやだ。帰りたい……」
私は出荷される子牛のような心境で、馬車にゆられていた。
向かっているのは出荷場……ではなく王族主催のパーティー会場だ。
聖女の帰還と功績をたたえるパーティーを開くから、と呼ばれてしまった。
表向きはその為のパーティーだけれど、ぶっちゃけると第一王子の問題行動のお詫びを兼ねている。
(できればそんなことしてほしくなかった……)
詫びというのならパーティーへの招待ではなくて、なにかおいしいものでもくれればいいのに。
むしろ、なんでパーティーが詫びになると思うのだろうか。
私はわりと大きなため息をついてしまった。
シャラリ
ドレスの飾りが音を立てた。
今着ているのはいつものワンピースではなく、体のラインを強調する白と赤のドレスだ。
髪も自分ではできないような凝ったアレンジを加えられていて、本物の花まで編み込まれている。
せめていつも通りの恰好で行きたかったのに、神女さんたちがやたらと気合を入れて支度してしまったのだ。
これでは私自身がパーティーを楽しみにしていたようになってしまうではないか。
「はあ~」
背もたれに沈み、本日何度目かのため息をはく。
「もういい加減腹を括りなさい」
かけられた声ははずんでいる。
顔を上げれば、いつもよりも楽しそうな表情が見えた。
「……セイラス様、楽しんでますね」
「ふふ、ええ。まあ」
セイラス様だって今から注目の的になるというのに、全く意に介していない。
むしろ平然としていた。
「こういうのは堂々としていればいいんですよ」
「それができたら苦労しないんですわ」
誰もがそんな度胸を持ち合わせていると思わないでいただきたい。
思わずジトっとした目線を送ってしまった。
「あれだけレッスンも頑張ったのですから、大丈夫ですよ」
「心配しているのはそこじゃないんですよ……」
セイラス様の少しズレたフォローにやはりため息をこぼす。
確かに鬼のようなレッスンはこなした。
パーティーにダンスはつきもので、全く踊らないわけにもいかないらしい。
だからひじょーに不本意ではあるけれど、レッスンはこなしましたとも。
そのかいもあって1曲2曲程度だったら体力ももつようになったし、ダンスとして見られる形にはなっていると思う。
だからそこはもう心配しても仕方がない。
というかそこに心配を回す余裕なんてないのだ。
「絶対注目されるってわかりきってるじゃん! ムリなんですけど!」
何度もいうが、私はコミュ障だ。
人に見られるのも、話しかけられるのも苦手な人種だ。
それなのに自分が主賓のパーティーにいき、挙句の果てにダンスを披露しなければならないなんて……。
(拷問以外のなんだっていうのよ……)
そんなの、逃げられるのなら逃げているに決まっている。
そう言う訳で、私はつく前から屍と化しているのだ。
はじまる前から終わっているようなものである。
「ほら。もうつきますよ。しゃんとしてください」
「うう……」
馬車が止まった。
セイラス様は先に降りて、手を差し出してくる。
白い手袋をした、大きな手だ。
「お手をどうぞ、エメシア様」
「う……」
なるべく直視しないようにしていたが、今この時ばかりは見ざるを得ない。
パーティーの為におめかしをしたセイラス様を……。
品のよい白のマント。
金と薄紫で刺繍がされたベスト。
長い脚が強調されるパンツ。
片方撫でつけられた前髪。
そして、優しくこちらを見つめる瞳……。
(いや、色気の暴力か?)
この世のものと思えない、完成された美だ。
いや、普段も美しいのだが、今日の彼は自分が触れるのをためらう程きれいでカッコイイ。
「聖職者と言えば」という恰好しか見ていなかったから、体のラインが出る服を着られるとギャップがすごいのだ。
小さいころに夢見た王子様が、こういう服装だった気がする。
(実際は王子様じゃなくて教皇様なんだけど)
とにかく、年上の色気がいかんなく発揮されていた。
それでいて下品になっていないのだから、凄まじいというほかない。
「そうみられると……。気合を入れたかいがありましたね?」
「!!」
セイラス様はいたずらな笑みを向けてきた。
見惚れていたことがバレてしまった。
恥ずかしくて、急いで言い訳を考える。
でも……。
「……今宵のあなたは、なによりも美しい。情熱的な赤い髪も、私を捉えて離さない、すべてを見透かすような瞳も。神に愛されているのも頷ける。……エメシア様。そんなあなたの隣に立つ栄光を、私にくださいませんか?」
「っ!」
そんな言葉と共に手を取られてしまうから、何も言えなくなってしまった。
きっと頬どころか、首や耳まで赤くなっているだろう。
本当に、さらっと言ってのけるから恐ろしい。
(そんな風に懇願されたら、断れないじゃない……)
小さく頷くのが精いっぱいだ。
私はそのまま、セイラス様のエスコートで会場に入っていった。
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