第4話 蓋を開けてみたら
「――ということで、ベルタード教は国中に教会を持っています。そこを拠点に結界を張り、民を、土地を守っているのです」
ガタゴト。
揺れる馬車の中、私はベールで顔を覆って教皇様の話を聞いていた。
白と金色のシルクのような生地で半透明。
視界はよくないが仕方がない。
「聞いていますか、聖女様?」
「……はい」
「というかそれ、いい加減外しません?」
「嫌です。これは私の生命最終防衛ラインなのです」
だって、これから人の前に出るのだ。
コレがなければ出られる自信がない。
というか、なければすぐに死ぬぞ(メンタルが)。
いいのか?
「まあいいですけどね。……なんていうわけないでしょう!」
「いやああああ!!!」
許しが出たと思ったら、ベールを奪い取られてしまった。
油断させておきながら、ヒドい!
「カエシテェ!! カエシテェ!!」
「ダメです。聖女は見られてなんぼ! 前にも言ったはずです!」
私は必死にベールを取り返そうと手を伸ばす。
けれど残念ながら長さが足りなかった。悲しい。
カエシテェ、カエシテェ、と泣きじゃくる。
「置いてけぼり」ならぬ「返してぼり」になってしまった。
「ええん! 教皇様の変態!! 嫌がる婦女子に乱暴するんだっ!」
「誰が変態ですか! 誤解を招く発言をしないでください!」
馬車の中でバタバタと動く。
御者に大きな咳ばらいをされてしまった。
「ほら、もう! あなたのせいですよ、聖女様。聞き分けてください」
「うっうっ」
「真面目な話、顔を隠したままでは偽物が出てくるかもしれないんです」
「……グス」
確かに、偽物が出てきたら怖い。
やってもない罪で処刑されるパターンは絶対にお断りだ。
そう言う意味では、教皇様のいうことも一理あるのは理解している。
「……仕方ないですね」
「分かってくれましたか?」
「じゃあ折衷案で……教皇様の後ろに隠れます!」
「馬鹿ですか、あなた」
バカって言った! バカって!
この人優しそうに見えたのに、蓋を開けてみたら割と毒舌なんですけど!
どの辺が『穏やかで美しい、理想の教皇様』なのだ。
見た目だけじゃないか。
(おばあちゃん、あなたの言う通りだったよ)
“危ない男”は笑顔で近づいてくるものだった。
今の私は、不満を前面に押し出した顔をしていることだろう。
「それよりも……この国のこと、大体はお分かりいただけました?」
教皇様はベールをたたんで懐にしまうと、露骨に話題を変えてきた。
「……ええと、なんとか?」
「では、結界のことも覚えられました?」
これ以上駄々をこねてもベールは返ってこない。
仕方がなく座り直す。
私は一昨日、ベルタード教と協力して国を救う(できるかどうかは別問題)ことを約束した。
国を抜けることも考えたけれど、そのためには魔物がうじゃうじゃしている外を出なくてはいけない。
実質、不可能だ。早々に諦めた。
つまり、この世界で生き残るためにはそれしかないということ。
ということで。
この国がどうなっているのかを知る必要があった。
教皇様もそう思っていたようで、いろいろと説明をしてくれているのだ。
そして現在。
神殿のある「王都」という場所以外の国を見せてもらうため、馬車で移動しているのだ。
そこで仕事を見せてくれるらしい。
何をやるかは聞いていない。
まあ、それはおいおい分かるとして。
「神聖力って力を使って張るんですよね。張られている場所によって、強度が異なるんでしたっけ?」
神聖力とは、雷神ベルタードを信仰することで授かることのできる力らしい。
授かる力の量や質は人それぞれだときいた。
「ええ。魔物や瘴気が再び現れたとき、ベルタード教はそこまで力を持っていなかった。平和な時間が長すぎたのですね。時と共に信仰は薄れ、国中にあった教会も形骸化していた。だから……」
「結界を張るのが遅くなった地には瘴気が残ってしまった、と」
「そうです」
魔物が現れた当時、ベルタード教は辛うじて王都の神殿……つまり総本山だけが機能している状態だったらしい。
まあどれだけ勢力があったものでも、いつかは勢いを無くすものだ。
400年も昔の教えを守り続けたものはそんなにいなかったのだろう。
「瘴気は我々の結界で防げはしますが、祓えはしない。結果、瘴気の残ってしまった土地では、結界を施しても、瘴気とのぶつかり合いで常に結界が削れてしまう。弱い結界しか張れないのです」
当然、魔物に破られてしまうことも多かったらしい。
つまり常に危険が付きまとう訳だ。
「だから力のある人間は絶対安全の王都に逃げて、そうじゃないものは追いやられた、と」
「そうです」
「なんだかなぁ」
思わず顔をしかめてしまった。
滅亡へのカウントダウン、秒読みって感じ。
「大丈夫ですか、この国」
「大丈夫じゃないでしょうねぇ」
そんなまったりといわないでほしい。
「というか普通そう言うのって、国が何とかするものじゃないんです?」
アルカディエは聖女と戦った仲間が興した国だ。
その仲間のうち一人は国王に、一人は教皇となり互いに力を合わせながら国を発展させてきたらしい。
ゆえに、対等な立場にあるというが……。
(今のところ国を守っているの、神殿側だけな気がするんだけど)
「まあ王家は攻撃を担当していますからね。侵略から守る役はどうしてもこちらに回ってきます」
「それにしてもジャマしかしてなくないです?」
金目政策とか、余計なことをしなければ。
もう少し今の状態はマシだったかもしれないのに。
というか、足を引っ張っているだろう。
どう考えても。
「仕方がないですよ。魔物の侵略の際、神殿と王家は仲違いをしてしまったのですから」
教皇様は遠い目をしていた。
心なしかハイライトも消えている。
(この人も相当苦労してるんだなぁ)
いったい何があったのだろうか。
これ以上は怖くて踏み込めそうにない。
(聞かなかったことにしよう)
私は素知らぬ顔で馬車の外を眺めた。
のどかな風景だ。
その先に、白い建物が立ち並ぶ街が見えた。
「あそこがラケンの街。今日の目的地です」
「あそこが……」
王都の外と言っても思っていたほど荒れていない。
もっとボロボロの街を想像していたけれど、キレイそうな町ではないか。
(とはいえ、魔物や瘴気もあるかもしれないんだよね)
王都も治安悪かったし、油断しないで行こうではないか。
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