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第36話 絶対に…… sideセイラス

 


 祭りの喧騒けんそうが遠くに聞こえる。

 外ではまだ、多くの人が踊りあかしているのだろう。


 けれど、その中に混ざる気分にはなれない。

 俺は一人、暗い部屋で夜空を見上げていた。


 先ほどみた、彼女のあざが頭から離れない。

 あの、少しいびつつぼみのような痣。


 思いだすのは、幼いころに連れていかれた妹分――チアのことだった。


 チアにも、似たような痣があった。

 首の後ろ、ちょうどエメシアと同じ場所に……。


「あの子は……」


 ズキンと脇腹の傷が傷んだ。

 彼女を連れていかれた時に負った傷。


 そう、確かに連れていかれたのだ。


 そして、連れていかれた者達は、誰一人として帰ってこなかった。

 きっと、もう、この世には……。



 そう思っていた。


「……いや。そう思おうとしていただけなのかもな」



 エメシアが、連れていかれた妹分なのではないか。

 彼女が、チアなのではないか。


 そんな期待は、前々から持っていた。

 でも違った時の落胆らくたんを考えると、ふたをするしかなかった。


 10年以上探しても見つからなかったのだから。

 どこを探しても、影も形も見当たらなかったのだから。

 だから、チアはもういない。


 希望なんて持っちゃだめだと、暗示を掛ける様に。

 そうでもしないと、正気でいられそうになかったから。


「だから、深入りはしなかったはずだったんだがなぁ……」



 過去を話そうとしない。

 この国のことを知らない。

 ときどき、よくわからない単語を話す。


 問いつめるべきことはたくさんあった。


 聖女という地位にいるのであれば、余計に明らかにするべきことだったけれど。

 うっかりでも彼女自身の話を聞いてしまえば、戻れない気がしたんだ。


 だから、何も聞かないまま今日まで共にいた。



 けれど、もっと早くに聞いておくべきだった。

 そう思うようになったのは、彼女と出会って、そう遅くない時だった。


 共にいる時間が長くなればなるほど、蓋をした期待はどんどん膨らんでいった。

 何気ない仕草や考え方に、どうしてもチアが重なるのだ。


 チアと同じ赤色の髪に、金色の目。

 生きていたと仮定すれば、年もぴったり。


 それに、困ったり怯えたりすると、俺の服をつかむくせも同じ。

 頭をでられると、ほっとした顔をするのも……。


 極めつけには、首の後ろに、蕾に見えなくもない痣があることまで一緒。



 あんな特徴的とくちょうてきな痣、見間違えるわけも、忘れるわけもない。



「……神よ。そういうことなのか?」


 声が揺れた。

 頬には熱いしずくが伝う。


「あの子……エメシアは……エメシアが、チアなんだな」


 ずっと、死んだと思っていた。

 助けることができなかったと。


 何度もうなされ、後悔し、自責じせきの念にとらわれ続けてきた。


 でも……



「生きていたなんて……!」


 こんなに嬉しいことがあるのだろうか。



 あの痣を見た時、すぐにでもすがってしまいたかった。

 抱きしめて、許しをいたかった。




 でも、しなかった。



 彼女は昔のことを、何も覚えていなさそうだったから。

 きれいさっぱり、何も。


 それがさすのは……。


記憶きおくがなくなるほど、辛い目にあったのだろうな……」


 人は、耐えがたい記憶を消すことで、心をたもつことがあるという。

 きっと彼女もそうなのだろう。



 だとしたら、何も思い出さない方がいいに決まっている。

 辛いこととは無縁むえんの生活を送ってほしい。



 それなのに……。


「よりにもよって、俺がこの戦いにあの子を巻き込むはめになるとは……」


 俺が、彼女から選択権を奪って引き込んだ。

 逃げられないようにかこって、前線ぜんせんに引っ張っていった。



 ……きっと、これはむくいだ。

 あの時、あの子を守れなかった、その報い。


 だったら。


 俺は……、いや、私は、手を空に向けた。

 夜空に輝く丸い大きな月を掴むように。


「今度こそ、何があろうと、どれだけ離れようと」


 どんなに絶望的な状況でも。

 例えまた、連れ去られることになっても。


 今度は、絶対に諦めない。


「必ず君を、迎えに行く」


 もう二度と失ってたまるものか。


 私はもう、なんの力も持たないただの子供ではないのだから。

 今の私は、教皇、セイラス・イル・フィエルテ、その人なのだから。



ここまでお読みいただきありがとうございました!

3章完結です!!


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