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第35話 名前と罰



「もう……ムリぽょ……」


 私は顔をおおって地にしていた。


 第二王子に誘われたダンス。

 当然人目を集める。


 それだけで死にそうなのに。


(まさか、あんなに密着するだなんて!!)


 出来れば今は避けたかった。

 変なドキドキが収まっていないのだから。


「これ、そのうち私死んじゃわないかな……」


 割と本気で心配だ。



「まあ、案の定、私にダンスなんて百年早かった訳だけど……」


 まずもって、体力がついていけない。

 そしてリズムにも乗れない。

 ステップなど、もってのほかだった。


 結局、第二王子の足に乗せてもらって踊ったわけだが、それがまた密着度が高すぎてパニックを起こした。


 やはり、日本人にダンスは厳しい。


「お疲れ様ですね」


 周りの様子を伺っていた教皇様が飲み物を持ってきてくれた。

 受け取り飲むと、柑橘かんきつ系の爽やかな甘さが広がった。


「それにしても、よく踊れますね……」


 第二王子は民たちに誘われて踊っている。

 その一帯はずいぶんと盛り上がっていた。


 さすがは王族。

 素人目しろうとめにもうまいと分かる。


「教皇様も踊れるんですか?」

「私ですか? ……まあ、一応は」

「なんだか含みのある言い方ですね」


 目を見ると反らされた。

 今までに見たことのない反応だ。


 もしかしたら。


「ダンス、苦手だったりします?」

「……」


 余計に反らされた。

 やっぱりそうなんだ。


「へえ~? あの教皇様がね?」

「……なんです? その顔は」

「いえ、別に?」


 完璧に思えた教皇様の弱点を見つけた嬉しさでニヤニヤとしてしまう。


 何か言われたときに言い返す要素を見つけられた。


(これで無敵だ……!)


「私のダンスの腕前うでまえはいいんですよ」

「ええ~? 教皇様のダンス、見てみたいなぁ?」

「あなたねぇ……」


 教皇様はぐっと言葉をつまらせた。


 が、すぐに黒い笑みを浮かべた。



(やっべ)


 いじりすぎてしまったようだ。

 私は反射的に顔を反らした。


「いいですよ? 見せて差し上げます。もちろん、相手はしてくれるんでしょう?」

「あ、オカマイナク」

「いえいえ。そう遠慮えんりょなさらず!」

「遠慮じゃないです……」


 墓穴ぼけつをほった。

 また公衆の面前で恥を晒すなんて、冗談じゃない。


勘弁かんべんしてください……」

「……いいでしょう」


 珍しくすぐに引き下がってくれた。


(よかった。そんなに根に持たれなかったみたい)


「セイラス、と。そう呼んでくださるのなら、許して差し上げましょう?」

「おぇ?」


 驚いて見上げると、先ほどよりもいい笑顔がある。


「どうしました? ほら、セイラスですよ? セ・イ・ラ・ス」

「え、は、な、なんで??」

「なんでって……。そうですねぇ。いて言えば、罰を与えるといって決めていなかったのを思い出しまして」


 罰として名前呼びにしろというだろうか。


「聞いたところによると、グレイス商会のノクス・グレイシスのことは名前で呼んでいる様ですし。それなら私のことも呼べるはずですよね?」

「なんで知ってるの!?」

「さて、なぜでしょう」


 なぜバレているのだ。

 あの場には私とノクスさんしかいなかったはずなのに。


 やはり、この人は底が知れない。


 考えている間もにじり、にじりと距離を詰めてくるものだから、たちが悪い。

 名前を呼ぶまで追いつめてくるつもりだろう。


(遊んでいる!! この人私で遊んでる!!)


 もう諦めた方がいいのは明白めいはくだった。


「……っ」

「聞こえませんよ?」

「ああ、もう! セイラス様!! これでいいですか!?」


 私は半ば投げやりになってそう告げた。


 すると、セイラス様の頬にすっと赤みがさした。


 ほんのりと染められた頬、わずかにうるんだ瞳、そして穏やかな笑み。

 それは天女てんにょ見紛みまごうほどに美しく、そしてなまめかしかった。



「っ!」


 ただ、名前を呼んだだけなのに。


(なんて顔するのよ……!)


 親愛と、ほのかな甘さ。

 それとは別の、なにか、もある気がする。



「~~っ! の、喉がかわいたなぁ! あっ、ジュースお代わり貰ってきますね!?」


 私はその顔をみていられなくて、ちょうど空になっていたドリンクを口実こうじつに逃げ出したのだった。



 本当に、何を考えているのか分からない。

 セイラス様も、レナセルト殿下も。


 そして――私も。



 確かな顔の熱を感じながらも、夜が更けていく。


 音楽が鳴り、明るい声が上がる。


 守りの街は、その全てを包み込む。

 聖木せいぼくが、静かに見守っていた。



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