第34話 蕾の痣
「ところで聖女様。結局二人と一緒に来たんだね?」
「え? ま、まあね」
ジュリアはちらりと後ろの二人を見上げた。
何かを考えているようだ。
「どっちが好きなの?」
「いや、えっとね、ジュリア。本当にそういうのじゃないんだって!」
声を潜めて話す彼女につられて小声になる。
というか、本当に勘弁してほしい。
子供の純粋な善意だというのは分かるのだけど、私には不要だ。
熨斗をつけてお返ししたい。
「うーん。そうなの? でも……」
「本当だから!」
ジュリアは尚もうなっていたが、やがて屋台の方から呼ばれた。
人も多いし、店番も大変そうだ。
「じゃあ聖女様! あたし行くね! この後ダンスがあるから楽しんで!」
小走りにかけていくジュリアを見送る。
本当に嵐のような子だ。
でも、憎めない。
軽いため息を吐くと、手元のネックレスがちゃらっと音を立てた。
改めてみると、素朴ながらも私好みだ。
(せっかくだし、つけてみようかな)
カチャカチャ
「……ん、あれ」
金具がなかなかつけられない。
穴に通せたと思っても通っていない。
そうだった。
不器用なのを忘れていた。
しばらく格闘していると、すっと手を包まれた。
見上げると、あきれ顔の教皇様だった。
「貸してください聖女様。お付けします」
「え、へへ。すみません。お願いします」
このままではいつまでたってもつけられなさそうだったので、頼むことにした。
背を向けて髪をどける。
「…………この、」
「え?」
ぽそり、と零された声はにぎわいに紛れて掻き消えた。
いつまで経ってもつけ終わる気配がなくて、それどころか動いている気配すらない。
そろそろ首がスース―するのだが。
「教皇様?」
不思議に思って声をかければ、ハッと息を飲む音が聞こえた。
「……いえ、なんでも」
慌てた様子で付けられる。
(あ、もしかして……)
「首の痣、気になりますか?」
「っ!」
息を飲む音が聞こえた。
やっぱりそれだったようだ。
思わず苦笑いがもれる。
この体には初めから痣があった。
首の後ろに、蕾のようなものが。
普段は服や髪で隠れているから気にならないけれど、初見はやっぱり驚いてしまうだろう。
「たぶん生まれつき、なのかな。なんだかベルタード教の模様と似てますよね」
ベルタード教の建物にあるマーク。
あれも確か蕾を象った物だったはずだ。
まさにあれが体に刻まれているみたいな感じ。
聖女の体だからだと思う。
「ほう。本当だ。確かに蕾に見えなくもないな」
「……」
第二王子はさして気に留めた様子はない。
けれど教皇様は何やら考え込むように黙ってしまった。
何か気に障ったのだろうか?
「あの……きょ」
『さあさあ、お待ちかね! ダンスの時間だよ~!! 今夜は無礼講! 思うがままに踊りましょう!!』
教皇様に声をかけようとした。
けれど祭りの進行役の大声がそれを遮る。
広場はざわめき、浮足立った。
熱気がすごい。
「ダンス……」
「そう言えば、聖女は踊れるのか?」
「いや、全然。未経験です……」
今更ながらダンスの存在に気が付いた。
当然ながら、踊れるわけがない。
私は全力で逃げ出した……かった。
「そうか。まあこの場ではちゃんとしたダンスではなく、ただリズムに乗るタイプのダンスでもいいだろう」
逃げ出そうとしたのがバレたのか、第二王子にがっちりと腕を掴まれて逃げられなかった。
「やってみるのも悪くないだろう?」
「不戦敗で……」
「なにと勝負しているんだ?」
ぎこちない笑みを浮かべて逃げようとするけれど、無理だった。
「さ。ものは試しだ。行くぞ、聖女」
「いええええええ」
私は奇声を発しながら引きずられていった。
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