第32話 お祝い
「聖女様! おはようございます!」
「おはよう、ジュリア」
朝、教会の礼拝堂にいくと、少女が嬉しそうに駆け寄って来た。
柔らかな飴色の髪を二つに結んだ少女の名は、ジュリア。
あの日、狂暴化した父親を必死に呼び止めていた子だ。
ちらりと様子を見るが、あの時受けていた傷はきれいさっぱり消えている。
「よかった。傷、残らなかったんだね」
「はい! 聖女様のおかげです! パパも起き上がれるようになったし、本当にありがとうございます!!」
ジュリアは輝く笑みを向けてきた。
その目は希望にあふれている。
気が付いたら微笑み返していた。
「パパさんの体調はどう?」
「もう大丈夫そうですよ! 今は壊してしまったものを直しながら一緒に暮らしています!」
「そっか。それならよかった」
あの日狂暴化していたジュリアの父は、浄化されて正気を取り戻すことができた。
今回死者が出なかったのは、不幸中の幸いと言えるだろう。
だからこそ、彼とジュリアは今もこの街に留まっていられるのだ。
けが人の治癒など、事件後も頑張ったかいがあったというものだ。
「聖女様も、もうお加減はいいんですよね?」
「ええ、だいぶ良くなったよ」
「よかったぁ! もう街中がお祝いムードだよ! 夜には舞台も完成するって言ってたから、楽しみにしていてね!」
「そんな、気を使わなくても……」
「いえいえ! 皆やりたくてやっているんです! だって、三日ぶりに聖女様がご快復されたんですから!」
「あ、ははは」
ジュリアのいう通り、実はすでに3日が過ぎていた。
本当は早いところ神殿に戻りたかったのだけど……残念ながらできなかった。
なぜか。
体調が絶妙に悪かったからだ。
体はだるいし、すぐに眠くなってしまう。
まるでフルマラソンでもした時のような(したことないけど)疲労感があるのだ。
どうやら鳴神を使うと、体への負担が激しいらしい。
それか、広範囲過ぎたのかもしれない。
(いきなり街一つは無謀だったかな……)
まあそう言う訳で。
もともと体力がある方ではないけれど、輪をかけてよわよわなままでは移動もままならない。
そのためしばらく滞在していたのだ。
そしたらなぜか。
私の体調が街中の人に把握されていた。
体調を崩した時はお通夜ムード。
そして回復した今日はお祝いムード一色。
なぜか、屋台やら出店までも準備されている。
もはや完全にお祭りだ。
たかだか人一人の回復に、全力かけすぎじゃないだろうか。
「あれ、楽しみじゃない? 聖女様のご快復を祝福するためのお祭りだよ?」
「あ、いや。楽しみじゃない、わけじゃないんだけど……」
心配そうなジュリアに覗き込まれ、言葉を濁す。
正直に言うと、あまり乗り気ではない。
お祭りとか行けた試しがないから分からないけれど、コミュ障には荷が重い。
絶対に。
それに、せっかくのお休みなのだ。
それなら部屋で惰眠をむさぼっていたいと思う。
(とはいっても、面と向かってそう言える度胸もないんだけどさ)
「あ、分かった! ね、聖女様。お耳を貸して?」
「ん?」
言われた通り耳を近づけると、ジュリアはニヤリと笑った。
「どっちと回るかで迷ってるんでしょ?」
「へ?」
「分かるよ~! どっちもかっこいいもんね!」
「え、えと?」
ジュリアの言っている意味が分からず首をかしげる。
なんの話だろうか。
「もう! お祭りと言えば、恋人になるには最適なイベントでしょう?」
「っはぁ!?」
予想外な言葉が出てきてすっとんきょうな声を上げてしまった。
礼拝堂の警備兵が飛んで来る。
「ごめんなさい! ごめんなさい! 何でもないです!!」
謝りつつ何とか納得してもらい、元の位置に戻ってもらう。
危ない。
こんな会話誰にも聞かれるわけにはいかない。
変な誤解が広まっては困るのだ。
「あー、えっと。ジュリア? 私は別にそんなこと考えてないんだけど……」
「あたしのオススメは教皇様かなぁ。ほら、優しそうだし!」
「いや、あの」
「でも第二王子殿下も素敵よね! 聖女様を見る目、心なしか優しいし……」
「ジュリアさん~? 話きいて~?」
完全に自分の世界に入ってしまっている。
さすがは女の子。
幼くてもそういう話が大好きなようだ。
(でも第二王子はともかく、教皇様の本性を知ったら、きっとびっくりするだろうな……)
彼女の中の教皇像がいつか崩れないことを願おう。
「ともかく! どちらかと回りたいんだったらあたし達、協力するからね!」
「あ、はい」
反射的に返事をしてしまった。
「あ、もう時間だ! 手伝いに行かないと! じゃあ今夜、楽しみにしていてね~!」
ジュリアは言うだけ言ったら、すぐに走り去っていった。
(なんだか嵐みたいだったな……)
ちょっとだけ疲れた。
(……でもそっか。お祭りに参加するんだったら、どっちかと行かなきゃいけないよね)
あの日以降、二人と一緒にいるとなんだかそわそわしてしまうようになった。
なんだかよくわからないけれど、むず痒いというか、恥ずかしくなってくるというか……。
前と違ってうまく接せれなくなった。
いや、前もうまくはないのだけど。
もしかしたら初めて仲間だと認めてもらえたから、浮足立っているのかもしれない。
「まっ、考えても仕方ないか。それよりも……」
今日の夜のことを考えないと。
あの日以降、一人では行動できないようになっていた。
どこに行くにもどちらか、もしくは両方が付いてきてくれるのだ。
だから、きっと今夜のお祭りもそうなのだろう。
「お祭り……。お祭りか」
確かにジュリアのいう通り、日本のお祭りでもカップルは多く誕生するイベントだったはず。
ということは、祭りに誘う=そういう目で見ているよ、ということにならないだろうか。
「いやいやいや」
一人で悶絶する。
確かに二人には気を許しているけれど。
別に異性として好きとか、そういう話ではない。
手の甲にキスされたり、髪留めをもらったりしたときはうっかりときめいてしまったけれど。
「いや、あれはときめきじゃない。心不全だよ」
だから思い出すな、私よ。
「というか変に意識しなくてもいいはずじゃない?」
せっかく自分のために開いてもらったお祭りなのだから、顔を出さないわけにはいかない。
だから祭りに出かけるという体でついてきてもらえばいい話のはず。
そう。なんの問題もないはずだ。
この時の私は、そう疑っていなかった……。
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