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side レナセルト



 オレはレナセルト・トゥル・アルカディエ。


 王家の象徴しょうちょうは現れず、側妃腹そくひばらの生まれ。


 それ故『厄介者やっかいものの第二王子』と呼ばれている。



 本来であれば王位争いの土俵どひょうにすら立たなかったはずだが……。

 とある理由から、今でも継承権を有している。



 だからこそ王妃からは目の敵にされてきた。


 母が亡くなった時、オレの周りからは人が消えた。

 乳母うばも、使用人も、全て追い出されたのだ。


『第二王子に近づいたものは、罰を受ける』


 そんな暗黙あんもくの了解が、城にはあった。


 だからこそ、好んで近づく者などいるはずもない。



 父親である国王は、オレたちに関心がない。

 昔は仲のよかった兄上とも、いつの間にか険悪けんあくになっていた。


 ……王妃の子と側妃の子、そして王位継承を争う相手なのだから仕方がないともいえるが。



 城の中にオレの居場所などなかった。

 オレはずっと一人だった。


 オレは居場所を求めて、こっそりと外へ抜け出すようになった。



 何度か抜け出したある日、街の子供が声を掛けてきた。

 土埃つちぼこりで汚れた赤い髪が特徴とくちょう的な男の子だった。


 彼はとても優しい子供だった。

 彼の家族も優しかった。



 たくさんの遊びを教えてもらった。

 平民たちの生活を教えてもらった。

 初めて温かいものを食べた。

 自分に笑いかけてもらえることの嬉しさを知った。


 ひたすらに、居心地がよかった。


 もしもこの家に生まれてきていたのなら……。

 そんな想像をするほどに。


 汚れていても輝きを失わない、真っ赤な花のような家族だった。



 なんでそんなに優しくできるのか。

 不思議に思って聞いたころがある。


 彼は言った。

 金色の目を持った、可愛らしい妹がいた、と。


 もしも、人さらいに遭わなければ、オレと同じ年の子が。



 だから、オレを放っておけなかったらしい。


『あの子と似ている君に、悲しそうな顔をしてほしくないんだ』


 悲しそうに微笑む彼を、鮮明に覚えている。




 国民がこんな思いをしていることを、その時初めて知った。


 民は皆、怯えて暮らしていたのだ。


 魔物や瘴気、そして搾取さくしゅに……。



『なら、オレが変えるよ。この国を』


 オレは彼に、そう誓った。


 民がいるからこそ、国が国としていられる。

 母の口癖くちぐせだ。



 母はいつも「人を大切にしなさい」と、そう言っていた。


 オレは、その言葉を守ろうとした。




 だから――


 ……進言してしまったのだ。


 『本当に、金目政策は必要なのか』と。


 民がどんな生活をしているのか。

 どんな状況にあるのか。


 国王は知らないだけで、知れば考えを直してくれるだろう。

 国のことを一番に考えてくれる王なら、正してくれる。


 そう……思っていた。



 それが間違いだったと知ったのは、その後すぐのことだ。


『くだらないことを言うな。そんなものの為にやめて、何か利があるのか』


『金目政策で我らにどれだけ利が回ってきていると思っている』


『今の国では平民を気にかける余裕などない。民を養うのもただではない。間引きが必要なのだ。むしろ、利を産まない者たちを減らせてよかったではないか』


 そう告げた父王はどこまでも冷たい目をしていた。



 その後すぐ――赤毛の一家は処刑された。


 オレに悪影響を及ぼしたから。


 そんなくだらない理由で。



 その時になって初めて、王は、国のことを考えているのではないと悟った。


 自分たちに利があるかどうか。


 それだけを求めているのだ。



 なぜ、気が付かなかったのか。

 なぜ、信じていたのか。



 絶望に、支配された。


 オレと関わりさえしなければ、あの家族は死ななかったのではないか。

 オレが余計なことをしなければ……。


 何度も後悔した。


 それでも……。

 あの約束だけは……守らなくては。


 一人で、国を変える。

 それだけがオレの――。




「……ん」


 オレは心地いい微睡まどろみから覚めた。


 どうやら寝ていたらしい。


「随分と、昔の夢を見たな……」


 体を起こすと真っ暗な窓に自分の姿が映る。

 ランプの小さな灯りに灯されたオレの顔は、相変わらずの無表情。



 自分の計画を、誰にも知られるわけにはいかない。

 悟られるわけにはいかない。


 だからこそオレは、感情を消した。

 表情を消したのだ。


 無表情でいれば、気取られにくいから。



 けれど。


 わずかに痛みを主張する頬を撫でる。



 聖女といたら、自然と笑っていた。

 数年ぶりに、頬が動いていたのだ。


「あいつと似ているから……だろうな」


 自分が死ぬかもしれないという時に、会ったばかりの人を庇おうとするお人よし。


 オレの問題に巻き込まれたかもしれないというのに、むしろ励まされてしまった。


「ほんっとに変わってる」



 小さく呟きがもれた。


 救国の聖女だからなのか、彼女だからなのかは分からない。


 けれど彼女の輝きは、例え汚れても決して輝きを失わないのだろう。


 それこそ、あの赤毛の家族と同じように。



「今度こそは、守ってみせる」


 同じあやまちは踏まない。


 だから去り際に警告をした。

 その光を失うことがないように。



『国王には、気をつけろ』



 聖女の力は神の力。

 唯一無二ゆいいつむにの力。


 そんな()()()()()である彼女を、あの国王が放っておくわけがない。


 何かにつけて、あいつを囲おうとするだろう。


 もしかしたら、こっそりと閉じ込め、力を独占どくせんするつもりだったかもしれない。


「そんなことは、させない」


 聖女には、自由でいてほしい。

 そうでないと、あの輝きが曇ってしまうだろうから。


 そのためには……。


「……。そろそろ行くか」


 目的の場所へと歩き出した。


 見上げれば、窓の外には大きく明るい月が輝いていた。


 その煌めきはこの先の道を照らしてくれることだろう。




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