第20話 救援
「まー!! ……さま~?」
「ん?」
洞窟まで戻ると、なんだか聞き覚えのある声がした。
小さい声だったそれは次第に大きく、はっきりと聞こえてくる。
「あっ! 聖女様!!」
遠くに見えた白い髪。
全体的に白い衣装の集団。
間違いない。
神殿の人たちだ。
「聖女様!! ご無事で!?」
「……教皇様!?」
教皇様は一目散に私の元へと走って来た。
がしっと肩を掴まれる。
「ほんっとうに心配しました! どこか痛いところなどありませんか!?」
「え、あ、だ、大丈夫です」
「本当に!?」
「は、はい!」
鬼気迫る顔で迫られると怖い。
思わず教官に対する様にびしりと姿勢を正してしまった。
「っ! よかった……本当に」
私が無事だと分かると、教皇様は脱力した。
よく見れば、服の裾がところどころ破れている。
足場の悪い山の中をずっと探してくれたのだろう。
改めて、彼には探してもらってばかりだ。
申し訳なくなってくる。
「すみません、お手数をおかけしました。……でも、どうしてここが?」
そう問えば、彼はああ、という顔をした。
「少し前に、力を使ったでしょう? 浄化の雷を。ならば、その先に貴女がいるはず。だから雷の落ちた方角を探していたんですよ。……暗くなる前に見つけられてよかったです」
「そう、だったんですね」
脳裏にあの力のことが浮かぶ。
(そういえば、どうやって使ったんだろう?)
あの時はとにかく必死だったから、何も覚えていない。
なにを願ったのか。
どう力を込めたのか。
知らなければいけないこと、考えるべきことはたくさんある。
けれど。
今は、あれが目印になったのならよかったと思おう。
「さあ神殿に帰りましょう」
いつくしむような、優しい声が降ってきた。
見上げれば、いつもの優しい顔がある。
その顔を見たら、緊張が解けていった。
ずっと、無意識に気を張っていたらしい。
足がもつれて教皇様に寄りかかってしまった。
ぽすんと音がする。
「大丈夫ですか?」
「あっ、はい。安心したら気が抜けちゃって……」
「そうですか。もう大丈夫ですよ」
教皇様はそう言って優しく頭を撫でてきた。
いつもなら嫌がるところだけれど……。
今は周りの視線を気にしている余裕はなかった。
だから黙って受け入れる。
(それにしても、教皇様の顔を見たら気が緩むって……)
いつの間に、こんなに安心するようになっていたのだろう。
思わず笑ってしまった。
(初めはあんなに警戒していたのになぁ)
「お前、教皇聖下に随分と懐いているんだな」
「え?」
ふいに後ろから声がかかった。
第二王子の声だ。
なんとなく棘を感じる言い方だ。
不思議に思って振り返る。
相変わらずの無表情だ。
気のせいだったのだろうか。
「教皇聖下、捜索、感謝する。そちらも無事だったようで何より」
「そちらこそ、ご無事で何よりです」
「こんなに早く見つけてくださるとは、さすが神殿。どうやったので?」
「はは、それほどでも。この地区を整備している教会へ協力を要請しただけですよ。早いに越したことはないでしょう?」
気にはなったけれど、二人はそのまま話し始めてしまった。
真面目な話だし、割って入れるような空気でもない。
……。
心なしか、ピりついているような気もするけれど……。
でも、まあ。
無事だし、山の浄化も済んだ。
これで王家の協力も得られるし、金目政策も終わらせられる。
(一歩前進、一件落着!!)
何はともあれ、だ。
ようやく一つ荷を降ろせたようで安心した。
「あ、そうだ。聖女」
「うえ?」
喜びを噛みしめる途中、第二王子に声を掛けられた。
何かと思って振り返れば徐に手を取られて……。
「…… …… ?」
状況が頭に入ってこない。
なぜ手の甲にキスをしているのだろう。
というかキス??
キスって……
「ミッ!!!?」
驚き過ぎて首を絞められた鶏のような声が出てしまった。
「え、へ、あ……???」
今すぐにでも腕を引っ込めたい。
けれど、体が硬直して動かない。
頭が、完全に沸騰していた。
「……お前のおかげで死なずにすんだ。この恩は必ず返す」
「……っ!?」
顔に掛かった赤髪がアンニュイな雰囲気を出す。
無表情の瞳の奥に、熱い炎を見た気がした。
そのまますっと手を離し、すれ違う。
「近いうち、また会いに行く。だから――」
私だけに聞こえる声でそう告げると、彼はそのまま下山していった。
「……」
最後に言われた言葉が気になった。
けれど、顔の良い異性に口づけられて平気なわけがない。
痛みを主張する心臓。
破れそうな鼓膜。
上がる息。
なんだか目の前が真っ白になって来た気が……。
(……あれ。あれれ?)
「聖女様? 大丈夫ですか? 聖女様……。し、死んでる!!」
私の意識はそこで途絶えたのだった。
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