第19話 フライアウェイ!
どうせやるしかない。
救国を成し遂げるしかないのなら。
(……だったら)
――せめて、自分の見たものを信じたい。
ちらりと第二王子の様子を伺う。
相変わらずの無表情だ。
けれど、悲しみや悔しさがにじみ出ている。
(嘘を言っているようには見えないんだよね)
そもそもこの状況で、そんな嘘をつくメリットなんてないだろう。
「……わかりました。あなたを信じます」
それに、彼は私を庇って死にかけた。
もしも嵌めようとしていたり、利用しようとしているだけなら……。
あそこまで必死に守ろうとしないだろう。
「それに……私はあなたに助けられました。あなたがいたからこそ、今生きていられるんです。ありがとうございました。だから、謝らないでください」
自分にできる精いっぱいの笑顔で彼を見つめる。
まだ助けてもらったお礼を言えていなかったから、感謝を込めて。
彼は、驚いたように目を見開いた。
「…………そうか」
ぶっきらぼうにつぶやかれた言葉は短い。
けれど確かに安堵の色が滲んでいた。
照れたように頬を掻くその目元は少しだけ緩み、口角も上がっている。
微笑みと言ってもいい顔だった。
驚いて思わずじっと見てしまう。
それに気が付いた彼は、慌てて顔を反らしてしまった。
(あら? あらら??)
何だかちょっと可愛らしく見えた。
つい悪戯心がわいてしまう。
ちょっとだけからかってあげようか。
そうだ。さっきの意趣返しをしてやろう。
さっき笑われたこと。
実はちょっと根に持っていたりするわけで。
にやにやとする口を隠して尋ねる。
「もしかして照れてます?」
「はあ?」
思ったよりも愉快な声が出てしまった。
第二王子はそれに反応したのか、僅かに眉を上げながら振り返った。
不服そうな顔だ。
(でも、頬が赤らんでいるよ?)
それを見逃してあげる私ではない。
追撃のチャンス到来!
「いいんですよ照れなくても~!」
「別に照れてない。っていうかお前は簡単に人を信じすぎだ!」
「え? 別に簡単に信じたわけではないですよ? 自分のことよりも私ににげろって言ったあなただから、信じてみようと思ったわけですし」
「っ!」
彼は何かを言いたげな目線を送ってきた。
笑みで返す。
と、膝に肘をたててふてくされてしまった。
「……変な奴。こんな見た目のオレを信じるとか。なんのメリットもないのに」
「そう、それ!」
「は?」
「ずっと言おうと思ってたんですけど――この国の人たちって見かけで判断しすぎじゃありません!? 金目がどうのとか金髪が王家の証とか!!」
勢いよくしゃべり始める私に彼は困惑したような顔をした。
でも常々言いたかったことだ。
止めることはできない
「確かに見た目は大事だとは思いますよ? でもそれだけで聖女だとか王家の血筋だとか。そういう大事な判断を下すなんて正気ですか? って感じです!!」
「お、おう」
少なくとも日本にいた記憶のある私からすればね?
目とか髪の色だけで役職を決めたり優劣を決めたりする?
おかしくない?
と感じてしまうわけで。
(だって金髪の人も金色の目の人もそこら中にいたし。何なら髪を染めたりカラコンもあったし……)
見た目なんていくらでも変えられたのだ。
こちらの基準で言ったら、そこら中に聖女や王族があふれていることになる。
「見た目よりも中身で判断してほしいものです! ……まあ、そう言うことなので。金髪じゃないから信じないとかないです。少なくとも私はその人の内面を見て判断したい。それに見た目がどうであれその人はその人。あなたはあなたですよ」
「……」
自分で思っていたよりも鬱憤が溜まっていたようだ。
自分も金色の目だという理由で聖女にされているから、余計に。
「だから殿下も……?」
言い切ってから隣を見ると、うつむいたまま沈黙を貫く彼がいた。
心なしかフルフルと小刻みに震えている。
嫌な予感にさあっと血の気が引いた。
まさか……泣いてる!? それとも、怒ってる!?
「っえ、えっあっ嘘っ!? ご、ごめんなさい! すみません! 今日会ったばかりの奴に分かったような口聞くなって話ですね!?」
立ち上がっておろおろとするしかできない。
つい自分の考えを勢いよくぶつけてしまった。
でも、よくよく考えたら今日会ったばかりの人に分かったような口を叩かれたらいい気はしないだろう。
それに王家や国の伝統をぼろくそ言ってしまった。
怒るのも無理はない。
(どうしよう。王族を貶した罪で打ち首獄門!?)
これはもうスライディング土下座を決めるしかないのでは……。
私は覚悟を決めた。
と、その時。
「……ふ、ふふ。……ははは!」
「!? ごめんなさい!!」
彼は突然笑い出した。
つい反射で謝ってしまった。
怒りが沸点に達したのだろうか。
怖いのですが。
「ほんっとにお前は……」
「ご、ごごご、ごめんなさい! 土下座じゃダメですね!? もう一回崖から落ちてきます!」
慌てて崖を目指す。
もう一回くらい崖から落ちてきた方がいい。
そうすればこの性格も少しはマシになるかもしれない。
OK! いざ、フライアウェイ!!
「まてまてまて!! 飛ぼうとするな!」
……する前に腕を掴まれて止められてしまった。
「あっ、あっ、ごめんなさい! でもこのくらいでしか謝れないと思いますので!!」
「ダイナミックすぎるだろう!」
「飛ばなくてもいいんです? え、本当に……? 飛んだ方が性格矯正できそうですけど……」
「なぜ飛ぶことに積極的なんだ……?」
殿下は一つため息をつくと、言い聞かせるように視線を合わせてきた。
「何を勘違いしているのかはなんとなく想像がつく。だが、オレは別に怒ったり傷ついたりして笑っていたわけではない」
「え?」
「むしろその逆だ。ありがとう。そんな風に言ってくれる人間があいつの他にもいるなんて思っていなかった」
#逆とは。
頭をひねる。
けれど彼の言っている意味は分からなかった。
そんな私をみて、第二王子は苦笑いを零した。
「……初めてお前を見た時、なんだか放っておけないなって思ったんだ。その理由がさっき分かった。お前に似た友人がいたからだ」
「……ご友人、ですか?」
「ああ。あいつもお前と同じように見た目なんて気にするなと言ってくれた。それに髪も赤くてよく似ている」
「その人も崖からフライングを?」
「いや、しないから。なんでそこなんだ?」
「似ているっていうから……そうなのかな、って」
見た目はともかく。
私を見て似ているなんて言われたら、行動が同じなのかと思ってしまうだろう。
「そうそう居てたまるか。お前くらいだそんなやつは」
第二王子は呆れたように笑った。
どこか吹っ切れた様子だった。
「……ほら、戻るぞ」
「あ、はい」
掴まれていた腕を引っ張られる。
けれど痛くない。
私はそのまま素直に腕を引かれて、洞窟へと戻っていったのだった。
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