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89話

『ハイパーゴア~♪』


「……」


 曲が始まってから全てを察した。単にアスカは俺が『ハイパー大天才』の歌ってみたで選んだキーで歌いたかっただけだった。


 歌い方もいつものアスカの歌い方ってよりは当時の俺の歌い方だし。


 別に実力的には大きく変わっているわけではないんだけど、九重ヤイバとしての声が明確に固まっていなかった時期の歌い方なので恥ずかしい。ちょいちょい斎藤一真が出てるから。


「ふう」


 顔を若干赤くしながら無心でマラカスとタンバリンを振り続けること約3分、アスカが歌い終えた。


「はい、ヤイバきゅんの番だよ」


「うん。もう一回歌おうか」


 清々しい顔でアスカが渡してきたデンモクとマイクを突き返し、俺はそう言った。


「え?」


「アスカのいつもの歌い方はそんなんじゃないよね?」


「いつもこうだよ?何を言っているの?」


「すっとぼけても無駄だからね。二人、特にレンガさんはアスカの歌い方を知らないんだから。まともに歌わないと。OK?ほらこれを歌って」


 俺は突き返したデンモクを回収し、アスカが以前歌っていた記憶がある『NOCK BACK』の画面を表示させて見せた。


「ヤイバきゅん……私の歌枠を聴いてくれてたんだね!嬉しい!!」


「うわっと、どうしたの急に」


 アスカが突然俺に抱き着こうとしてきたので全力で回避した。


「感極まってつい」


「感動のラインがやけに低いね」


 偶然アスカの歌枠を聞いただけで感動しないでくれ。その調子だと俺がお忍びでアスカの単独イベントに参加した瞬間に呼吸困難とかになるから。


「とりあえず、ヤイバきゅんのご指名とあれば歌わないわけにはいかないよね。雛菊アスカ、全力で歌わせていただきます!」


 そしてやたらと気合を入れて歌った『NOCK BACK』はこれまでに聞いたアスカの歌唱の中で最も上手だった気がする。



「これくらいで良いですか?」


 それから俺とアスカがそれぞれ5曲程歌ってから、真面目にメモをしていたレンガさんにアスカがそう質問した。


「はい。十分です。私の為に10曲以上も歌っていただきありがとうございます」


「いえいえ。私たちが歌を作って欲しいってお願いしているのでこれくらい当然ですよ」


「そう言っていただけると嬉しいです。これだけの情報があれば最高の曲が作れそうです。期待していてください」


「凄い自信ですね」


「ここまでの尊み……じゃなくてここまで素晴らしい歌唱を10曲以上も摂取出来たらどれだけ下手だったとしても人生最高の曲が作れますよ」


「そうなんですか……」


 レンガさんって実は自分の実力に相当な自信があるんだなと思っていたら想定の斜め上の理由が飛んできた。やっぱりクリエイターってのは良く分からない。


「はい。是非大船に乗った気持ちで待っていてくださいください。ところでサケビさん」


「どうしました?」


「あなたも一度歌っていただけませんか?以前からサケビさんの生歌を一度聞いてみたくて」


「良いですけど……」


 恐らく今日は全く歌う予定が無かったであろう宮崎さんは困惑の表情を見せつつも頷いた。


「やった!ありがとうございます!!」


 歌ってくれると分かったレンガさんは不思議な笑みを浮かべながら宮崎さんにマイクとデンモクを渡した。


「それでは……」


 宮崎さんは困りつつも、淀みない手つきでデンモクを操作して曲を選んだ。



 そして歌った『炉心溶融』の完成度は異常なまでに高かった。そこらの女性では到底歌えないレベルで高音な上にハイテンポだったのに。



 宮崎さんの歌唱を期に、俺とアスカの歌唱を確認するための会から普通のカラオケ大会になった。


 といってもアスカが完全に俺に寄せた歌唱をするようになったくらいで、俺や宮崎さんの歌唱は特に変わることは無かったんだけど。



 ただ、一つだけ意外な事があった。


「すみません……」

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