33話
「はい、初対面同士の組み合わせがあるとは言っても誰とも絡んだことが無いって方は居なかったので普通に和気あいあいとした感じで仲良く談笑していましたね」
「でも最初、光ちゃんは人見知り発動して楽屋の端っこで隠れるかのように体操座りしてたよね」
「アレは端っこが好きだからで別に人見知りじゃないです!」
「じゃあ今日のイベントが終わったらハルちゃんと二人きりでご飯に行ってよ」
「あっそれはちょっと、お腹がイタタタタ……」
「え、光センパイ、ハルとご飯を食べるのは嫌なんですか?」
「そ、そういうわけじゃなくて。皆で食べるのは駄目なんですかね?」
「その提案は嬉しいけど、たった今私とリラちゃんとながめちゃんでご飯に行くことが決まっちゃった」
「3人で行くなら私たちも入れてくださいよ」
「そうしたいのは山々なんですけど、陽ノさんとアゼリアさんの二人だけの時間を邪魔するのは悪いので……」
「水晶さんまで……」
「じゃあ決まりだね、センパイ。ハルが場所は決めるから安心して待っててね」
『イベントの後食事に行くことが決まる位仲が良さそうでてぇてぇって感じですね。では男性陣の方はどうでしょう?』
「そうですね。終始ヤイバくんがハヤサカの音楽トークに捕まっていたのが印象的でしたね」
おい奏多。捕まっていたって分かっていたんなら助け船を出せ。
「奏多、捕まるって表現は何だ。俺はあくまで九重ヤイバが出した歌ってみたの出来が素晴らしかったからリハーサルが始まるまでの短い時間で話を聞いていただけだ」
「ハヤサカさん、世間一般ではそれを捕まると表現するんです」
「ってもよ~。仕事の一環でもあるんだから正当なものだぞ?なあヤイバ。イベント後も話してくれるよな?」
は?付き合ってられるわけねえだろ。どんだけ長い時間話させられるか分かったもんじゃねえ。
「歌音サケビの連絡先を教えるから代わりに二人で話してくれ」
アイツならハヤサカの話に何時間でもついていけるだろ。
「マジか!サンキュー!」
あ、それで良いのか。
「あ、そうだ。これ言っていいのか分からないんだけど、配信外でのヤイバ君って普段の俺様的な口調じゃなくて普通の優しい子って感じの口調だった」
「ヘスト。何を言ってるんだ」
「いや、分かる。もしかしてツッコミ待ちなのかな?って思ってたけど、そうじゃなくて素がああなんだ、普通に敬語使ってくれるタイプの子なんだって思った」
「奏多、そんなことは無い」
俺には九重ヤイバというキャラがあるんだ。
「何なら声も違いましたしね。表ではカッコいい系のイケボでしたが裏では爽やかな好青年って感じの優しい良い声でした」
士。ふざけるな。声に突っ込みを入れるのは駄目だろ。
「決してそんなことは無い!!ふざけたことを言うな!!」
お前ら楽屋で何もツッコんでこねえなとは思ったけどそういう事かよ!
アメサンジは芸人気質のVtuberが多いとは聞いていたがまさかここまでやってくるとは思わなかった。
「じゃあこの中で一番関わりの深い水晶さんに聞いてみようよ。どうなの?普段の九重君って」
奏多はながめに話を振った。頼む!分かってるよな!?!?!?
「私がヤイバ君と話す時は基本的に配信の時と同じ感じかな」
良いぞ!ながめ!その調子で誤解を解くんだ!!
「けど、ヤイバ君はマイクが回っていない時は皆が言っていたような感じの子になるってオフコラボをしたことのある友達が言ってました」
「ふざっけんな!!!!!違うわ!!!!」
お前は味方だと思っていた俺が馬鹿だった。単にオンライン上でしか会話したことが無かったから普段の声を知らないだけかよ。
『男性陣の方も和気あいあいとした楽屋だったようで何よりです。ちなみに補足情報ですが、リハーサルの際、九重さんはスタッフに対して凄く優しい話し方をしていましたね』
「おい!!!」
平原までそっち側に立つか。味方は居ねえのか俺には。
『リアルイベントに初めて参加するというアゼリアさんと九重さんの緊張も取れたことでしょうし、早速ゲームに入っていきましょうか』
なるほど、俺たちの為の配慮か。別に緊張してなかったけどな!挨拶普通だったろ?
『今回行うのはワードウルフ。ゲーム開始前に参加者全員に配られたお題に沿ってトークしてもらいます。しかし、全員が同じお題というわけではありません。1人だけ異なるお題が配られています。多数派のお題を配られた皆さんは、会話の中でそれが誰かを見極めてください。ただし、自分が多数派なのか少数派なのかは分からないので攻め過ぎて自らの墓穴を掘らないように注意してくださいね』
人数が多い事以外特に何の変哲もないワードウルフだ。人狼と違って複数回指名することが出来ない為、この人数だと多数派が圧倒的不利だ。
多分運営的はイベントを盛り上げるためにVtuberがたくさん話してくれるから普通のワードウルフよりも少数派を見つけやすいとでも思っているんだろうな。
『では早速始めていきましょうか。スタッフの皆さん、お題を配ってください』
平原の指示を受け、スタッフが俺の元にお題の書かれた紙を置いてきた。
紙を開いてみると、【仕事】と書かれていた。
それと同時にウッという苦しみの声が聞こえてきたが、気にしない方向で行こう。
『皆さん確認できましたか?』
と平原に聞かれたので大きく頷く。
『大丈夫そうですね。では話し合いを始めてください!』
カーンというゴングの音と共にゲームが始まった。
「皆さん、これって楽しいですか?」
早速奏多が話題を振ってきた。
仕事が楽しい、か。やったことが無いから分からないんだよな。一応Vtuberを仕事と捉えることも可能だが、ゲームをやっているだけなので仕事という感じはしないんだよな。
「俺は経験無いから分からないな」
ということで素直に答えることにした。
「私もヤイバ君と同じ」
それに続くのはながめ。同じ高校生だしな。
「僕は楽しくないかな」
「ハルも」
微妙な顔で楽しくないと答えたのはヘストとハル。二人は恐らく社会人経験者として大変な目にあってきたんだろう。
「私は楽しいですね」
「私も!」
「うん。とっても楽しくて私は幸せだよ~」
楽しい派は光とリラとタツマキ。光とリラは本業とVtuber活動のどちらを指しているのか分からないが、タツマキはほぼ確実にVtuber活動の事だな。
流石に今の考察が全て曲解だったとは思えないし、俺はほぼほぼ多数派だろう。
「で、士くんはどうかな?」
この中で唯一答えていない士に奏多が質問した。
「楽しくないに決まってるでしょうが!!!!」
士は一瞬タメてから、迫真の大声で答えた。
「あ、うん。ありがとう」
「なるほどね」
「念のため別の人にも聞いておきましょう」
「だね~」
士の言葉を受けた瞬間、何故かアメサンジの全員が全てを理解していた。
「ねえねえヤイバ君にながめちゃん。経験無いから分からないって言ってたけど、経験あると考えたら楽しいかな?」
リラの質問は文面だけで言えば支離滅裂だが、Vtuberを仕事と捉えた場合は楽しいかを少数派のお題の人に勘付かれないように聞きたいからこうなったのだろう。
「それなら楽しいかな」
「俺も楽しいと言えるな。やって良かったと思う」
配信に一切興味は無く、完全にゲーム目的でVtuberになったが、今は配信そのものも楽しいと断言できる。
「そっか、ありがとう」
それからアメサンジの面々が他の人に話題を何個か振った後、時間となった。
『それでは少数派だと思う相手を指名してください』
平原の言葉と共にモニターに入力画面が出てきた。打てってことか。