119話
翌日、葵は案の定学校に来ていなかった。担任は体調を崩したからだと言っていたが、精神的に学校に来れる状態じゃないからだろう。
来ていたとしても周囲の声が気になって気が気じゃないだろうしな。
実際、
「なあ一真、大丈夫だよな!?!?!?」
と樹は周囲を気にせずひたすらながめの心配をしているしな。
「大丈夫だって。どう考えてもあの二人は別人なんだから」
「そ、そうだよな……」
「だから気にせずいつも通り生活していればいいんだよ。絶対に配信はするなよ」
「わ、分かった」
「ちょっと良いか?」
ながめを心配している樹をなだめていると、男子の面々がこちらにやってきた。
「何?」
「とりあえずついて来てくれ」
「うん」
そう言われて辿り着いたのはだれもいない空き教室。なんか身バレした時みたいだな。
「水晶ながめと柴犬って奴は別人なのは分かっているよな?」
そして到着すると、まずはクラスメイトでサッカー部の海東哲平がそう聞いてきた。
「勿論。どう考えても別人でしょ」
「それは良かった。まあ、配信で雛菊さんと一緒に説明しているから勘違いしてないとは分かっていたけど」
俺が正直に答えると、海東含めクラスメイトの方々は安心した表情をしていた。
「よく分かったね。結構騙されている人多かったのに」
アスカの話によると視聴者だけでなくながめと通話して遊んだことがあるVtuberですら騙されている人が結構居たらしい。
そんな中クラスの男子全員が別人だと確信しているのはなかなか凄いことである。
「そりゃあ声が全然違うからな。一度聞けば別人って分かるわ」
そう答えたのはカラオケが大好きな佐原将だった。
「そうなんだ。まあ俺の声見分けられるくらいならそうだよね」
よく考えたら俺=九重ヤイバってのを自然に受け入れている時点で素養はあった。
「じゃあ分かってるよな?」
「九重ヤイバとして水晶ながめが偽物だって皆を説得しろってこと?」
「甘い甘い。柴犬を別人だって言っている奴を叩き潰すんだよ」
「そんな物騒な」
いくら柴犬と水晶ながめが別人だと言っても視聴者目線だと叩き潰す程か?
裏事情知ったら叩き潰したいと思うかもしれないけど。
「これ見ろよ。匂わせまくりだろ?」
そう言って海東は柴犬のツリッターを見せてきた。
「匂わせ?」
「ほら、これとかこれとか」
そう言って写真付きのツリートを見せてきた。
「これがどうかしたの?」
見せられたのは柴犬が東京のカフェで食事をしているツリートと、自炊した料理の写真のツリートだ。どちらも大体1か月から2か月ほど前のものだ。
「次に見てくれ」
次に見せられたのは水晶ながめの配信画面と配信日とWoogleMapのスクリーンショットだった。
「そういうことね……」
1つ目のツリートの、柴犬が入ったカフェはゆめなまの事務所からかなり近い場所だったらしい。そして、そのカフェに入ったのは水晶ながめが事務所で行った当日らしい。
2つ目のツリートの自炊した料理の写真だが、水晶ながめの料理配信で出てきた食器と同じものを利用しているようだった。
「酷い話だろ?本物感を出すために随分と前から準備しているんだぞ?」
「だね。かなりの悪意を感じる」
これを知ってしまったら怒りを覚えるのも理解は出来る。偽物なのに匂わせが露骨すぎるもんな。
ここまで殺気立っているのは置いておくとして。
「でもこれはどうやって調べたの?」
ただ、あなたたち水晶ながめにそんなに興味なかったでしょうに。大半が俺と久保の姉である東雲リサ以外特に見てないだろ。ここまでやる意欲なんて無いでしょ。
「……まあ、それは個人のプライバシーに関わるからな!!」
「え?」
誰が調べたのかを聞こうとしたら全員が何故かそっぽを向いた。本当に誰が調べたの……?
「本当にこれ以上は黙っていてくれ」
海東はこれ以上は聞くなと目で訴えてきた。
「まあ、別に良いけどさ」
皆が俺や水晶ながめに対して悪意を一切持っていないのは分かるし。
「とりあえず頼むぞ。絶対に叩き潰してくれよ?」
「……分かったけどさ。結局どうしてそこまで叩き潰したいの?」
怒りを覚えている理由は分かったけど、叩き潰したいと成っている理由までにはならないだろう。
「そりゃあ、なあ?」