109話
『チョロいな……』
と思っていたらばけるも同意見だったらしい。思わず口にだしていた。
『えへへ……』
そして気付いていないのかこいつ。本当にチョロすぎるな。
『ってことで配信はこのまま終わるつもりだけど、皆宣伝とかあるかな?』
そしていつものコラボと同じく個々の宣伝をした後、配信を終了した。
「さて、どうしたものかな……」
水晶ながめこと羽柴葵に学力テストの点数で負けてしまった。いくらこっちのミスが原因とは言え、斎藤一真として葵に関わっている以上関係が無い。確実に調子乗っているだろうな……
「決めた」
もしあいつが調子に乗るのであれば散々からかってやれば良い。
そして迎えた翌日の夕食。
「いやあ、やっぱりながめちゃんって頭良かったでしょ?」
案の定葵は調子に乗りまくっていた。一応自分の事では無い筈なんだけど。
「そうだね。本当に葵位頭良いんじゃない?」
食事を作っている間絡まれ続けるのはうっとうしいので攻めて退治することにした。
「私?ど、どうして私が出てくるの?」
「点数の取り方が思いっきり葵と同じだったじゃん。国語が高めな割に英語が苦手なところとか」
俺も苦手だから人の事は言えないが、何故か葵は英語が苦手なんだよな。
一般的に普段から真面目に勉強をしている人が得意とする教科だから葵は得意な方が自然なんだがな。
「あ、あれは英語の問題がおかしすぎたからじゃないの?」
「確かに内容はおかしかったけど、難易度としては普通だったよ」
俺もテストを解いていた時はなんだこれはと思っていたが、ばけるがテスト問題を公開してからの視聴者の反応を見る限り、大学受験の難易度としては適正だったらしい。
「そうなんだ……」
「だから完全に葵みたいだなって思ったんだよ。丁度年齢も誕生日も同じだしね」
「あっ……」
あっじゃないよ。単なる偶然だよとか言ってちゃんと誤魔化せよ。それは認めているっていうんだよ。
「葵は配信活動とかに興味は無いの?丁度配信に使えそうなマイクもあるし、ゲームもそこそこ上手だったよね?」
「え?あ、あー、興味はな、無いかな」
「そうなんだ、結構向いていそうに思ったんだけど。声とか水晶ながめさんに結構似てるし」
動揺はしていたものの、反応が微妙だったのでもっと直接的に言ってみることにした。
「え!?そ、そんなことないよ!?全然違うからね!!!!」
すると葵は想像以上の反応を見せてくれた。10歩ほど後ずさり、腰を抜かしたかのような状態で地面に座り込んでいた。
「何がどうしたらそうなるの……?」
葵の反応に対する感想は心の中に留めておこうと思っていたのだが、この反応には思わず突っ込みを入れてしまった。
「え?あ、その、あまりにも恐れ多すぎて……」
自分が水晶ながめであることを誤魔化すためか、無意識に水晶ながめの事を神格化する葵。
それバレた時どうするつもりなんだ……?
「恐れ多いって。別にただの同じ高校2年生の女子でしょ?」
「同じだけど、同じじゃないじゃん。一真だってヤイバ君に声が似ているって言われたら同じ反応をするに決まってるよ!!」
葵は誤魔化すために九重ヤイバを引き合いに出してきた。
「いや、別にしないかな……」
実際に似たような経験というか、クラスの男子に俺が九重ヤイバであることを特定されたが最初に出た反応は「は?」だったからな。
葵と違って俺はかなり声を変えているんだ。何を言っているんだこいつという反応しかない。
まあ、俺が九重ヤイバじゃなかったとしても似たような反応だろうが。
「え?」
え?じゃないよ。大半が同じ反応だよ。
「普通そんなもんでしょ。突然そんなこと言われても困るだけだよ。本人とかじゃない限り」
多分本人でもそんな過敏な反応はしない気はするけど。
「本人!?わ、私は本人じゃないからね!!?」
にしても丁寧に墓穴を掘るな。その反応は本人以外しないが。
「別に葵がとは言ってないけど?」
「そ、そうだよね?私が水晶ながめなんてわけないもんね?」
「どうだろうね」
明らかに安心しようとしていたので、あえてぼかすような事を言ってみた。
「え?」
完全にそうだよって言ってくれる流れだと思っていたであろう葵は混乱していた。
残念。俺は葵が水晶ながめであることを既に知っているんだ。
「え?」
「私はただの華の女子高生だよ?」
「別に華の女子高生でもネット活動はするでしょ」
1分くらいの動画を投稿するためのTokTikってプラットフォームは中高生がメインなくらいだしね。そんな偏見は通用しない。
葵は多分TokTikに関しては事務所に言われない限りやらないと思うけど。
「そうかな?」
「そうだよ。じゃあ水晶ながめと九重ヤイバはなんなのさ。年齢詐称?」
「確かに……」
「ってことでご飯できたよ」
からかうを通り越してよく分からない流れになってきたので夕食で話題を切ることにした。