新人芸人、山内の苦悩
主人公、山内等の人間の会話分には「」を、
ぬいぐるみの会話部分には『』を使用しています。
「どうもーどうもどうもー!山内です!」
『・・・』
「『そこはバナナでーーす!』やろ!こいつぅ!俺らコンビ結成してそろそろ2年経つんですけど、1回もこのバナナは俺と喋ってくれたことなくてー」
『・・・』
「どうも、俺ら2人で!」
そう言いながら自分の頭をバナナの抱き枕の上の方に押し付け、
「チョコバナナでーーす!!」
と叫ぶ。
『・・・』
はぁ。何が悲しくて1人でぬいぐるみと漫才(?)をしているのか。
いや、冷静になったらダメだ。余計なことを考えずやりきれ!!
顔をまた観客席の方へ戻し、家で一人で何度も噛まないように練習したネタを続けていく。
「というわけでね、どう?バナナくん!!」
『・・・』
「もぉええわ!!どうも、ありがとうございましたー!」
パラパラとしたまばらな拍手をもらいながら、バナナを小脇に抱え舞台袖へといそいそとはける。
このコンビ?の結成のきっかけは、バナナの抱き枕で寝てたところを写真にとられた時、
これは、チョコバナナ!と思ったから。
最近ではなるべくチョコバナナに見えるように髪も伸ばしている。
思いついた当初こそは、我ながらナイスアイディアだと思ったものだ。
一緒に漫才をやろう、なんて声をかける相手も勇気もなくて、でも始めてみたかった。
そんな自分には手軽な相手だと、そう思ったのだが。
公演を終え、先輩が帰ってきて声をかけてくられる。
「おつかれ、前座ありがとな!今日はどやったか?やまちーー」
「先輩!お疲れ様っす!自分は、あんまウケなかったっす。先輩の舞台は湧いてましたね!」
「おう!ありがとな!この後飲みいくか?」
「誘いありがとうござっす!ただ、明日は朝からバイトあるんで。遠慮します。」
「そっか、それは残念だ。頑張れよ!」
そう言って先輩は他の人を誘いに行く。
「お疲れ様っしたー!お先失礼しますっ!」
そう言ってバナナの入ったバックを背負い、1人帰路につく。
途中で公演終わりのご褒美にコンビニで缶ビールとつまみを買った。
バッグからバナナを出し、酒を飲み。
今日の客席の様子を思い出す。
すべったなーー。。。
頭の上に「???」が浮かんで見えたわ。
漫才を2人でするのは、普通に考えたら「2人でするからこそ面白いから」だろ。
それを1人でしたら魅力潰してるよなー。
そろそろこのスタイルやめるかなー。
なんてバナナを見ながら考える。
「どう思う?バナナくん。」
なんて呼びかけてみても、何か言葉が返ってくる訳もなく。
当たり前のことだがなんか落ち込む。
いや、やめだやめ!
明日も朝からバイトあるし、こんな落ち込んでないで
おれのスタイルにまだ時代が着いてきてないだけだ!
もうちょっとしたらみんな分かってくれるさ!
ネタを、ネタを洗練していこう!!
ビールを煽りながらネタの構想を練り、明日の用意をして寝る。
「おやすみ、バナナ」
一人暮らしって正直ちょっと寂しくて。
何となくバナナに声をかけて寝る。
傍から見たらヤバいやつかもしれんが、これくらいは許してくれ。
とか誰かへの言い訳を考えていたら、舞台の緊張で疲れていたらしく、すぐ眠りについていた。
だから俺には聞こえなかったんだ。
『おやすみ、山内。』
注釈
・「チョコバナナでーす」
の部分の描写がかなり雑になってるのですが、
バナナの抱き枕(1mくらい)を立てるようにして持ち、
その上の方に顔を押し付けることにより、客席側から見ると髪の毛が垂れ、チョコバナナのチョコのように見える、
という仕組みになっております。
・バナナは折りたたんで大きめのバックに押し込んでます。