その7 酒場にて(Part.D)
「なるほど、ここは他種族との…」
村に着くなり我々は、ユリウスの酒場で食事の歓待を受けた。
胚芽の混ざった班目のハードパンに、近隣産のワインに干しブドウ、それに鹿肉の燻製だろうか…が、地味に溢れて実に良い。
光をよく取り込み、木の香りに満ちた新築の店内も居心地がよかった。
そんな環境の中で、まずはお互いの情報交換から始める。
「ああ、交流拠点の1つだ。アリーシャ様の御意向の元に、領土内の東西南北にある、各種族の領地との中間地点に村が建設されている。」「…。」
気性の荒そうな大男からは、“他”種族、“異”種族といった言葉は聞かれない。
どうやら獣人族のカンパーニアとは夫婦である様子からも、彼の姿勢が伺える。
彼ら村人の選出には、第三王女の理想が見て取れた。
「この村は『妖精の森』に隣接していますね。となると、それを挟んだ先には、人族ではない種族が暮らしているのですか?」
「ああ、例えば雪エルフ、人猫族は森の奥に住み、山…トキリ山脈と言い、まだ会ったことはないが、そこには少数ながら龍族もいると聞く。」「ほう…」
現在の龍族…知り合いが残っているでしょうか。
機があれば、いつか訪ねてみたいですね。
「ここには診療所もあるし、交易もできる仕組みもある。龍族には人と化して文化を知ろうという者もあるというから、もし交流をもつことができれば嬉しいな。」
実は私がその龍です…と言いたい気持ちをぐっと抑え、村人の夢に耳を傾けた。
その7 終
ひとこと事項
村の設備
酒場や宿、馬車駅など村民や冒険者のために役立つものの他、診療所や交易所など人間族として種族間での交流にも役立つことを想定した施設が整えられている。
雪エルフ
森に住む耳の長い長寿な人型の種族。北方の森に住む者は降雪により日射が少ないことから他のエルフに比較して色素が薄いため、雪エルフと呼ばれている。
人猫族
ネコ科の耳をもった人型の種族。猫と似た習性を持ち、夜目が効く。
龍族
高い知性を持ち、強大な魔力を誇る龍の種族。人の姿を取り、人の文化に溶け込む個体や、龍の姿のまま高山で過ごす個体がある。
トキリ山脈
ジルオール北方に広がる高山地帯。