その5 行程(Part.D)
「先生が来てくださるなんて思ってもいませんでしたよ~。」「…でしょうねえ;」
馬車に揺られていると、オリヅルが話しかけてきた。
華奢で艶めかしい姿と仕草で、周囲の目を集めながらクスクス笑っている。
改めて女性の二人旅にさせずに済んでよかったと思う。
「もしかして先生…」「ん?」「私のこと、好きなんですかぁ?」
「「ええっ―;!?」」
驚いたのは、私とハーミア。
二人して大きな声を出してしまい、周囲に軽く会釈するはめに。
冗談ですよと微笑むオリヅルは、機嫌がよさそうだった。
「こんな大変なお役目、はーぼーも来てくれないかなって思いましたし。だって逆なら私、断りますもの(*’▽’)」「…そうですか;」「そうでしょうねえ;」
なんだか先程から、私達は彼女のペースにのせられてばかりである。
「それにしたって、わざわざ王都から出発しなくても良いですよね。」
「新しい転移点の開発ですから、ちゃんと初めから行くってルールなんです;」
旅程の話に切り替えると、以前も聞いた話が返ってくる。
協会の絡んだ仕事は、どれも厳格でよくない。
「ちなみに転送術士として今回必須となる工程は、どんな感じなのでしょう?」
二人の本職に問いかけると、はしっこい方はすぐにメモを取り出して、
「えっと…まずは目的地に到着することですね。それまではちゃんと道草していないか、3日に1度くらいは報告書を送ります。着いたら支部の転送陣を起動させて、行路を開きます。あとは村への行路を覚えたい術士の受け入れと、周囲の方への挨拶をしつつ…普通に支部の運営ですよね?」
物ぐさな方はその熱量に溶かされて、嫌そうな顔になる。
「うえぇ…;はーぼー、全部やっていいわよぉ。」「嫌ですよっ;」「じゃあディアスせんせーお願いできますかあ?」「無理です;」
「じゃあ…今はひとまずおやすみなさ~い…。」
小さなあくびをすると、にゅるりと馬車の壁に寄りかかる新支部長。
こんなで大丈夫だろうかと心配になる。
そんな調子で旅が暫くの間続き、馬車を乗り継ぎ、やっと現地に到着した。
その5 終