その3 選抜(Part.L)
オリヅルの提案をハーミアに受け入れさせた一件の後、ディアスはワシにまだ用があると言って、彼女だけを退室させた。
「なぜオリヅルさんが選ばれたのだと思いますか?」
不気味な死霊術のオブジェの中で、彼は口を開く。
その質問は、恐らく我々が共に抱く疑惑に通ずるもの。
「…王都の支部は多く、最も余剰戦力があり、かつあの子には新開拓地でやっていけるだけの若さや器量がある。それらを総合的に判断して…」
話していくごとにディアスの顔がみるみる険悪になっていく。
だが、最後まで聞いてくれているのがありがたい。
「…というのが表向きな理由じゃろうな;」「…では?」
「直接的な庇護が遠く、危険な地に派遣する者として選びやすかったのかもな。」
「あり得ますよね。」「うむ。」
あの場所なら、と彼も何か得心がいったように頷く。妖精の森と呼ばれる以前のその地について、何か心当たりがあるのかもしれない。
「じゃからワシもハーミアについていくよう言い添えたのじゃ。こんな体でも、近くにおれば何とかなるじゃろうてな。じゃが、お前さんがそこまで肩を持とうとする理由はなんじゃ?」
ワシには最後の卒業生を守ってやりたいという気持ちがある。
しかしディアスとオリヅルとの接点はあまりないように思えたのだが。
「嫌いなんです。そういうのがね。あとは単純にその森に興味が湧きました。」
彼はふっと笑うと、少し遠い目をしてそう言った。
その3 終
ひとこと事項
龍への供物
龍に生贄を差し出す習慣は、世界中にみられる。龍の中には要望してもいないのにそのようなことをされ、その処遇に難儀した者もあったとか。龍たちによれば、おおかた選ばれた生贄たちとは、社会的な弱者であったという。