その2 説得(Part.D)
「…と、いうわけだったんです(๑°ㅁ°๑)!!」「ほう…」
死霊術準備室に、少女の訴える声が響き終わる。
転送術士オリヅルが新規開拓の村『妖精の森の村』への異動となり、移動先での補佐を付ける権利をハーミアに行使しようとしている。
そんな内容だった。
「妖精の森の村って、どこですか―?」
聞いたことのない地名。この地を離れていた数百年の中でできた場所だろうか。
ライトの中にいるポケットに尋ねれば、ふむ、と少し考えて、
「王国北部の地で、そこに数多の亜空間が広がり、多種多様な生物、魔法生物が棲みついた、謎の多い森林であると聞く。調査計画が立ち上がっておったが、他種族の領地との境界にもあたる場所故、その計画は進んでいなかったはずじゃが…。」
なるほど、勇者ルーシェと第三王女アリーシャの活躍で他種族との友和が図られたがために、それが前進したと…。
あの地が妖精の森なんて、実に面白い名前である。
「先生、私っ―;」「やっておいでなさいな。」「え―!!で、でもっ;」
口調からわかるイヤイヤを、先手で封じる。
後ろ盾を得損ねた教え子は、目を潤ませて必死で抵抗する。
「補佐の日以外は王都に帰って良いようですし、その時はワープで一瞬でしょう。何より彼女を一人で行かせるのは、可哀そうではありませんか?」「う…;」
「お前さんも卒業後確実に母と同じ任地になるとは限らないからのう。良い経験になるのではないかや?」「うう…;;」
「大丈夫です。暫く私もそっちにお邪魔しますから。」「えっ!!」
私も来ると知って彼女の顔が少しだけ晴れる。
私とライトの説得、というより大丈夫、大丈夫と子供をあやすような感覚で、とうとう教え子は先輩の依頼を受け入れる覚悟を決めた。
その2 終
ひとこと事項
ディアス
異世界からきた先代勇者と共に世界を旅したことのあるカオス級の龍で、人の姿では死霊術士。先代勇者帰還後の現在、故あってスコラ・リンデの死霊術科と転送術科を兼任する教師となった。得意とする生命術がいつしか死霊術と呼ばれている世に不満がある。準備室に置いてあるはく製は、死霊術で再生させた自身の一部。
勇者ルーシェ
現代の勇者。ブラウテューベンで死霊術士から第三王女を救い、種族間の融和を図る彼女を狙ってけしかけられた邪龍ブロセルニルを討伐し、その元凶であった魔族長・オストラシウスを倒した。
アリーシャ姫
ジルオール王国の現国王の三女で名前は今回が初出。人間族を含め、種族を問わない国造りこそが国の繁栄と平和をもたらすという思想の下、同志を集め、活動を行ってきた王女。何度も危険に晒されるものの、勇者ルーシェの活躍により、その本懐を遂げた。