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転送術士候補生 ―In the Fairy’s Forest―  作者: よのもり せいう
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その10 第三王女(Part.H)

「貴様…なぜ私の名前を…」


先輩のメモに書かれていたのは、ワープ航路開設に伴い、宮廷転送術士長レイジマッハ様と共に、村設立の立役者、ジルオール第三王女アリーシャ・フォン・ジルオール様とその付き人、勇者ルーシェ様がやってくるという内容。


先輩も急かされたのだろうけれども、私がそれをディアス先生に伝える暇さえなく、形だけでも先生に頭を下げさせようとして、大失敗。


とうとう怒ってしまったレイジマッハ様に怒鳴ったのは、なんとライ君だった。

やれやれと前に進み出て、姫様に丁寧に可愛く挨拶をすると、話始める。


「アリーシャ姫殿下、場を収めるためとはいえ、大きな声を出してしまったことに対する非礼、謹んでお詫び申し上げまする。」


「あらあら犬さん。おしゃべりできますのね。それにこの声、どこかで聞き覚えが・・・。」


首を傾げるお姫様に、勇者様が耳打ちする。

すると彼女は、まあ!と驚き喜んで、


「あなたは私が邪龍に狙われていることを知らせにきてくださった勇敢な犬さんだったのですね♪あの節は本当に大義でした。」

「ひ、姫様ーっ;」


アリーシャ様がお礼を言うものだから、レイジマッハ様は立つ瀬がなくなってたじたじになってしまう。

ポケット先生は勇者の揺り籠で姫様の危機をいち早く知って、それを伝えに行ったのバレて大変な目に遭ったんだったよね。


と、困ってしまった宮廷術士の前に進み出るライ君。


「レイジマッハよ、今はこんな姿じゃが・・・ワシじゃよ、ポケットじゃ(’ω’)」「ドアズ!?」

「故あってこの姿になっておる。」「馬鹿な…行方不明者だぞ…どう信じろと?!」


二人の言い合いを見つめる私達。もうね、気が気じゃない…;;。

正体を明かしても信じないレイジマッハ様にライ君はため息をついて、


「ワシらが学生時代、お前さんは右の上の奥歯が痛いと言って…」「なっ…!!」「歯医者に行くのが怖いからって転送術で歯を飛ばそうと二人で詠唱したら、それはあろうことか講堂脇の女子空中…」「な…な!やめいっ―;!!」


かなりのプライベートな話に、レイジマッハ様は顔を真っ赤にして制止する。

すごく続きが聞きたいけど、ライ君はまたまた別の内緒話を披露しようとしたので、彼はまたそれを制止して、そこでやっと少し落ち着いた。


「お主…本当にドアズなのか;」

「そう言っておるじゃろ。そしてこの方がルーシェ殿の師、ディアス殿じゃ。」

「まさか…;」


うろたえたような視線でレイジマッハ様はディアス先生を見る。

先生の方はきょとんとして、別に師匠だなんて、と否定しようとして、それをルーシェ様に強く否定される。


収集が付かなくなった頃に、周囲を見ていたアリーシャ様が口を開く。


「あの…なんとなくですが事情は分かりましたわ。とするとこの方は間接的に私の命を二度も救って下さった魔導士、ディアス様なのですね。レイジマッハ、やはり頭を下げるのは私の方でしょう。私はルーシェ様と、この犬さんの言葉を信じますよ。」


「…すいません。やっと事情が呑み込めました;姫様、恐れ多いことです。」


姫様の優しい声が部屋に響くと、術士長もやっと言葉の鉾を納め、先生も頭を下げた。

やっと周囲に平和が訪れた瞬間。


「オリヅルさんも、そちらの方も、どうぞ頭を上げてくださいな。私、皆さんと仲良くしたいのですよ(*‘∀‘)♪」


そおっと顔を上げると、アリーシャ様の眩しい笑顔にときめいてしまう。

なんて素敵な方なんだろう…!!

下々にも優しいお姿に私は感動してしまった。




その10・終


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