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終末街の迷宮  作者: 高橋五鹿
第三章 泡沫の街のセレネ

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第67話 名前の意味

 筋骨隆々の赤みがかった肌。

 露出多めの部分的な衣装と防具。

 右手にはカトラスをデカくしたような片刃の剣。

 牙のはみ出た口に頭には二本の角。そして凶悪な目つき。

 推定身長二メートル半、物理アタッカーの見本の如きモンスター。


 オーガ。オーガねえ……。


 もし西の隣町から直接《終わりの迷宮》に乗り込んでいた場合、ドゥームダンジョンエリアに侵入するための門番はこいつになっていたわけか。

 俺たちは今、本来の侵入経路を逆走しているわけだ。

 ワーウルフと戦ったときも同じシチュエーションだったな。


「初めて遭遇する相手だな。悪いんだけどエーコ、俺ひとりで戦ってもいいかな?」

「えっ?」


 何その俺への心配というよりも「私が倒したかったんだけど?」みたいな顔。


「あ、うん。いいよいいよ。どうぞ……」


 ちょっと未練が見え隠れしている。

 ゲームと違ってレアドロップとか無いから安心してくれ。いやあるか。あるけどエーコさんが倒した場合は装備も普通に消えちゃうじゃん。


 明日からはソロで潜るつもりだ。

 ワーカーホリック魔女にはしばらくのんびりしててもらいたいからな。

 探索を休んでもアマテラスのデスクワークがある?

 そこまでは知らん……。


 ソロで潜るにあたって、この先の敵とひとりでどの程度戦えるかを知っておくのは大事なことだ。

 エーコを置いてゆっくりと前へ出る。


 アックスホルダーからキャンピングアックス改め片手斧《マムシ》を引き抜いた。


「さて、初見だし一応聞いとくぜ。見逃してくれる気はあるか?」


 グゥゥ、という腹の虫みたいな唸り声で返された。

 念の為聞いてみたものの、もう殺気とかで友好的か否かは丸分かりなんだよね……。


 じゃあ、()るか!


 間合いに踏み込んだ次の瞬間に振り下ろされる巨大な剣。しかし素直な動きだ。横へのステップで躱し、露出した肌を斧で斬り付けながら交差する。

 俺が先に攻撃を当てられたが、互いにノーダメージみたいなもんだなこれ。振り返って再び睨み合う。


 ひたすら躱して斬り刻む、で勝てるのは分かってる。速度なら俺のほうが上だからな。でもこの程度の敵ならば、相手の土俵でも勝てるくらいでなくては駄目だ。

 すなわち真っ向勝負!

 オーガが再び動く。

 水平に繰り出された剣を、斧の刃で迎え撃った。

 甲高い音と共に火花が散る。

 手に痺れが走る。

 割とヤバいか? と一瞬思うが、相手の動きが止まった。

 向こうも手にダメージを受けたのだろう。


 三合目は俺が先に動いた。

 リーチの差は圧倒的に不利。

 初めから武器狙いで手斧を振り下ろす。

 武器よへし折れろとばかりに放った気合の一撃。

 オーガは手の痺れも回復していなかったのか、たまらず剣を落とした。


 どうする?

 この剣を蹴り飛ばせば、後は素手の敵相手に有利に立ち回れる。

 いや、こいつを最も速く仕留めるなら――


 後ろにステップし、敵との位置関係を調整する。

 俺が離れたことで、オーガは剣を拾うことを選択した。

 地面に右手を伸ばし、身長差で届かなかった頭部の位置が下がる。


 再び前に踏み込み振り上げられた《マムシ》は、オーガの喉笛に正確に喰らい付いた。




 光の粒子を《継承》で吸収していると、エーコが声をかけてきた。


「まさか魔法抜きで倒すとは思わなかった……」

「俺の攻撃魔法はコスパが悪すぎて連射できないんだよ。探索中にはあんま使えないから、白兵戦も練習しとく必要があるんだ」

「リアル戦士なの?」


 リアル戦士とは一体……。

 現実に戦ってるからまあリアル戦士なんじゃないかな?

 でもそれだとエーコもカテゴライズされるのでは。

 リアル魔女? あーね(ああそうね)


 魔術士を名乗るには俺はちょっとな……。

 魔力が無尽蔵にあるからといって、調子に乗って魔法連射するとすぐに疲れ、めまい、吐き気、倦怠感などに襲われます。

 ジャンクフード召喚とか鑑定は割と乱用に耐えられるんだけど。

 戦闘に不向き~。


 さて、オーガが塞いでいた道を通って地下洞窟エリアの通路に出る。

 構造はそんなに複雑ではなかった。

 広さこそ見当もつかないが、傾斜のある場所を素直に上に登っていくことで、目的である地上への出口はすぐに発見できたのだ。


 地上への出口といっても、これは《終わりの街》に最初に出現した地下迷宮の入り口でもある。

 いわば正面入り口だ。今まで使っていた北の入り口は、どちらかといえば裏口みたいなものだろう。

 地上へと出て視界に入ったのは、西の隣町の駅構内。


 ――だったはずの場所だった。


 片側だけ駅の建物がねえ!

 高架線もねえ!

 床と迷宮入り口の大穴しか残ってねえよ!

 うん、モニクが前に試しに壊したって言ってたやつだな。

 今度こそここで合ってるっぽい。


「えーと? 駅だったのは間違いないみたいだけど、建物がずいぶん壊されてるね?」


「エーコも地元で似たようなことしてたじゃん……。モニクも同じこと考えたらしくてね」


 剣の迷宮の入り口にあった建物は、魔力剣で何度も斬り刻まれていた。

 エーコは水攻めかなんかでもするつもりだったのだろう。

 モニクは単に侵入しようとしていただけだが。


「これ全部モニクさんが壊したの? その割には継ぎ目が……なんだか一度の攻撃で全部壊されているように見えるんだけど」


 ハハハ。

 いくらモニク先生でもそこまでは。

 いやいや、一太刀でこの有様とかあの剣どうなってんの?


 多分入り口正面に立って攻撃したのだろう。

 対超越者結界に阻まれた反対側だけ駅の施設が残っている。

 周りが吹っ飛ばされてるのに壁と券売機が残ってるのシュールだよな……。


 その奥には元駅だった残骸と瓦礫が積み上がっていた。

 もし終わりの街を開放しても、この駅が営業再開する日は遠そうだ……。


「まあずっと気になってた正面入り口も確認できたし。今となってはそんなに目新しいものはなかったというか、どっちから侵入しても同じだなこれ」


「んー、ドゥームダンジョンエリアに直行するなら、私はこっちのほうが早いかな。地上なら速く移動できるし」


「そだね。で、俺が提供できる終わりの街の情報はこれで全部。じゃ、明日からアマテラスへの報告頑張ってね」


「ええ~」


 ええ~じゃない。

 多分情報提供や意見のすり合わせだけで何日もかかるだろう。

 エーコは明日から強制的に探索休止だ。


「『テレビゲームの敵キャラと同じ生物が出現します』とか、幹部のおじさんたちに真顔で説明するの無理だから! アヤセくんも来てよ~」

「お断りします。俺は明日から未踏破エリアの探索に忙しいので」

「ええ~ずるい~」


 ダンジョン中毒め。

 少し迷宮断ちしないと真人間に戻れないなこれは。


「そろそろ《剣の街》のスタッフも到着し始めるんだけどね。みんなアヤセくんに会いたがってたよ?」


「……なんで?」


 別に俺の情報は提供しても構わないと言ったが、何故そうなる?


「そりゃあ地元を救って皆の仇を討った英雄だからだよ! ほとんどの人が《終わりの街》対策班へ異動願いを出しててね。今度は自分たちが『終わりの街のオロチ』をサポートするんだって」


 勝手にクソダサ二つ名(ネーム)を設定すんなし。

 アマテラスのネーミングセンスはやっぱりクソだわ。

 自分の苗字をオロチとかアメノにしちゃう俺たちのご先祖様がたも大概だけどな。

 アメノってのは有名な神剣の名前から取ってるんだろう。




 しかし俺も気付いてはいる。


 魔法にとって名前は重要なのだ。

 名前とは呪い。プラスの効果もマイナスの効果もある。

 アメノの名を持つことで魔女の(つるぎ)は鋭さを増す。

 蛇に由来する、あるいはその名を持つヒュドラ生物は強大な力を宿す。

 アオダイショウ然り、バジリスク然りだ。

 その一方で、名前による縛りを受けることもあるだろう。


 オロチは水神、あるいは川の化身。

 幾多に分かれた支流を多頭の大蛇になぞらえた怪物だ。


 川の支流に命を救われ、水を味方とし操り闘う。

 全ては偶然に過ぎないのかもしれないが、それでも。


 でも酒に弱いんだよな、ヤマタノオロチ……。

 破毒が弱毒に弱いのってそのせいじゃんか訴訟。

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