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終末街の迷宮  作者: 高橋五鹿
第二章 つるぎの街のエーコ

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第39話 ポイズンクラウド

 それから数日後、俺はついにドゥームダンジョンのシナリオをクリアした。


 ラスボス『亡国の王女』の部屋に乗り込む直前に、『セルベール』とかいう雑魚敵にエンカウントしてゲームオーバーになったりもした。

 どう考えてもラスボスより強かったし、なんだったんだアレは?

 ゲームバランスを間違えていたとしか思えない。


 敵を知りなんとやら。これで本物の地下迷宮の攻略にも乗り出せるというものだ。

 もし『セルベール』を見かけたらすぐ逃げよう……。


 ゲームのほうはまだクリア後コンテンツというかクリアしてからが本番らしいが、さすがに本来の目的、実際の地下迷宮探索のほうをサボり過ぎである。

 手段と目的を履き違えてはいけない。


 クリア後に出てくる敵キャラについては、攻略サイトを見たので名前と能力、外見くらいは把握している。

 それで充分だ。実際にプレイする必要はない。ゲームと実戦では細かいところが色々と違うので、戦い方そのものはあんまり参考にならないのだ。

 まあ、ゲーム自体はなかなか面白かった。続きはヒマになったときに遊べばいい。


 モニクにはこのゲームについての情報は共有してある。

 たまにプレイ中に、後ろから画面をじっと覗きこんだりしていた。

 なんか、ダメな感じのお部屋デートをしている気分になって居た堪れなくなったりしたので、そっとゲームを中断してお茶の相手をしたりもした。なにやってんだかな。


 ダンマス級ヒュドラ生物についての話をしたりした。だいたいは俺の推測通りだったようだ。その地域のボス、巣の主は迷宮を造りヒュドラ生物を召喚することが出来る。

 地方自治体の長みたいなもんか。


 ついでにヒュドラ毒がなくても活動できるし、自分でヒュドラ毒を生み出すことも可能と。

 強さ以外はヒュドラ本体と変わんないなそれ?

 まあその強さの差が大きいみたいなんだけど。


 確かに超越者とそれ以外の差は、モニクとハイドラを見れば一目瞭然だ。

 ハイドラだって俺よりはずっと強いはずなんだがな……。




 そして、数日ぶりに迷宮へとやって来た。

 今日は少し長く潜るかもしれないし、見送りお迎えは不要とモニクには伝えてある。


 今日は最初の通路を西に向かってみる。

 少しでも手に余りそうな敵が出てきたら引き返すつもりだ。


 数部屋までは東側と同じ敵が出現したが、すぐにドゥームダンジョン地下二階の敵が出現する。

 そう、『ゾンビ』だ。


 だがドゥームダンジョンではそれほど特別な敵ではない。

 フレーバーテキストによれば「痛覚がないため怯まない」みたいなことが書いてあるけれども、そもそもゲームの敵に痛覚はない。痛がって動きを止めたりはしないのだ。


 ヒュドラ生物も痛みに強いが、危険を察知するために痛覚自体はあるように見受けられる。

 このゾンビにはそれがなかった。

 でも動きがトロいからな。手斧で普通に駆除できた。


 まあこんな風に、ゲームと現実の敵では結構根本的なところで違いがあるわけだ。




 他にも新しい敵と遭遇した。『ソーサラー』と『クレリック』。

 人型の魔術士と僧侶だな。

 ソーサラーはプレイヤーキャラのウィザードに相当するキャラだが、クレリックはなんだろうな?

 敢えて言うならパラディンに近いか。


 ソーサラーはファイヤボールを飛ばしてくる。

 ご丁寧にゲームの動きを再現したゆっくりと飛ぶ火球だ。躱すのは簡単だけど威力はありそうなので水魔法で打ち消した。

 もしこの炎が俺の水魔法同様に、直接相手の場所に出現させられるなら、とんでもない強敵になっていただろう。

 そしてその魔法は決して実現不可能ではないと思う。


 ここはゲーム準拠というアホな仕様のおかげで助かった部分だ。

 本体は弱いので倒すのに苦労はなかった。人型だから精神的な抵抗はあったけどな。


 そしてクレリック。

 打撃武器による格闘をこなすが、シーフと同程度の強さ。

 シーフも最初は手こずったが、本来そこまで苦労する相手ではない。


 クレリックの特筆すべき点は回復魔法だ。

 俺は手加減して相手に手傷を負わせ、この回復魔法をじっくりと観察した。


 ヒュドラの魔法を模倣できる俺は、当然ヒュドラ生物の魔法も模倣可能と思われる。ただ、今までの相手の中にはしっくり来る魔法の使い手がいなかった。

 だがこいつは違う。


 時間をかけてゆっくりと模倣した。俺自身も戦闘中に《回復魔法》が使えるようになったことを確認する。

 たいした怪我はしていないので、どれほどの効果があるのかは分からない。

 無いよりマシ程度のものだろう、という感じはする。


 シーフやクレリックといった俺を成長させてくれた敵に対して、俺には薄っすらと敬意のような感情が芽生えていた。

 止めを刺した後に、軽く感謝の気持ちを心に刻む。

 ヒュドラ生物も元はといえば、この街に生きていた人や動物が生まれ変わった姿なのだ。

 単純な憎悪の対象というわけではない。


 まあ俺のテリトリーを荒らしたヤツには容赦せんが。

 それはそれ、これはこれ。

 俺も地下迷宮を荒らしてるだろって?

 いやいや、もとを正せばヒュドラが勝手に掘った穴だからな。正当防衛だ。




 次に遭遇した敵は驚くべき特徴を備えていた。

 ある意味これまでの常識を覆すようなヤツだったのだ。


 その敵の名は『ポイズンクラウド』。

 ガス状の不定形生物で、空中を浮遊している。ゲーム内だと、触れたときに確率で毒の状態異常を与えてくる敵だ。


 俺はドゥームダンジョンをプレイ中、この敵のことをたいして気にかけていなかった。

 毒の状態異常はゲームの中では厄介な攻撃ではある。

 でも現実の封鎖地域ではそんなものに意味はないだろうと。


 ポイズンクラウドじゃなくて、ただのクラウドになってしまうのでは?なんて愚かな考えを持っていたのだ。

 こいつを発見したときの鑑定結果に俺は愕然とし、部屋の入り口から即座に距離を取る。


 ポイズンクラウドの体は、『ヒュドラ毒よりも高濃度な毒の塊』だったのだ!


 一体どういうことだ?

 ヒュドラ毒はこの世で最も強力な生物由来の毒ではなかったのか。


 いや……俺は勝手に誤解をしていた。

 封鎖地域全域にわたって大気を汚染しているヒュドラ毒。

 それがヒュドラの毒の強さの限界だなどとは、誰も言ってないじゃないか。


 俺やモニク、そして多分エーコにも大気中のヒュドラ毒は効果がない。

 仮にも《毒の超越者》と呼ばれるヒュドラがこれらの人物と直接対峙した場合、毒による攻撃手段が無いなどということがあり得るのか。

 恐らく効果範囲を絞ればヒュドラ毒は更に強力になるのだ。

 あるいは超越者をも脅かすほどに。


 これは俺の妄想に過ぎない。帰ったらモニクに確認すれば済む話だ。

 しかしすぐそばにはポイズンクラウドがいる。

 楽観視をしてはいけない。毒攻撃は無いなどと、ナメてかかってはいけないのだ。


 それだけしっかりと心の準備をすれば、このモンスター自体はたいした相手ではない。

 遠距離からの水魔法であっさりと仕留めることができた。

 高濃度とはいっても、やっぱり水には弱かったみたいだ。


 動きからいえば手斧でも倒せるかもしれない。

 ただ、事故って毒攻撃を受けた場合に解毒手段はあるだろうか?

 クレリック先生にこいつをぶつけたら解毒魔法とか模倣できるかな?

 などと外道なことを考えつつ先に進む。




 通路はいつの間にか下り坂になっていた。

 だんだん急勾配になっていく。


 地上ではこの辺りは川の位置か?

 その下を通るのなら、だいぶ深いところまで行くのだろう。

 途中の部屋は無視して、少し行けるところまで行ってみるか。


 川の下を通ったらすぐに上り坂になるかと思ったが、そういった気配はない。

 平らになった地面を慎重に進む。

 主要通路は緩やかなカーブを描き、先を見通すことはまだ出来なかった。


 この辺りでまた部屋の中を調べてみるか。

 そろそろ敵の強さが一段階上がっていてもいい頃だ。


 鑑定には今までとは一風変わった体型の敵が察知されている。

 部屋の中には巨大なカエルが居た。


 ……キモい。


 あれはパスしてもいいだろうか?

 正直近付きたくない。

 今の俺の心境はカエルに睨まれたヘビであった。

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